ありがとう、さよなら

まる

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『おはよう』

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君と出会ったのは何年前の冬だったかな。

声も容姿も何も知らない


"ココ"だけの、文字だけで繋がっている特別な関係


寂しくなかったと言えば嘘になる。

ただ、私は君と話していてとても心地が良かった。

ずっと異性に対して苦手意識のあった私が初めて本気で好きになった人、それが君でしたーー




君は学校にバイト、私は仕事でなかなか時間が合わず

二人に与えられた時間はいつも夜中だけだった。



深夜23:00、静かな部屋に携帯のバイブが鳴り響く。


『おはよう』


光るスマホの画面に映し出される通知。

何時であっても私達の一番最初にする挨拶はこれだった。

あまり多くを語らない君に、私は毎日日記を読むように1日の出来事を語った。



ある日君は打ち明けてくれた。


親が作った借金が多額であり、
それはどうしても君が返済しなきゃいけないこと。


"普通のバイト代"では借金、学費、家賃を出せないということを




君ほど辛い思いをしている人はいないと思った。

私の'辛い'なんて君の'辛い'には到底及ばない

だから私は自分にあった'辛い出来事'を

全て笑い話に変えて話すことにした。

そうすることで自分の心も楽になるような、そんな気がした。





そして毎晩夜の仕事へと向かう君ーー





"行かないで"と一度でも言えたことがあっただろうか。

君を困らせてしまう言葉は全て飲み込み、

私はいつでも君を励まし、応援して見送る。


そんな日々だったーーー








君はいつだって完璧なタイミングで現れた

私が辛くて苦しくて堪らない時に限って、突然君からのメッセージが届く。

エスパーなんじゃないかと思った



私が泣いている時

疲れて立ち上がれない時

耐えられなくて家出をした時

諦めそうになった時



狙って待っていたかのようにピンポイントで

いつも君は私の元へ来てくれる、ヒーローだったーー



そんな君が、








『俺、二十歳になったら死ぬんだ。』



『ずっとそう決めて生きてきた、誕生日まで後少し。』







頭が真っ白になった

君の為に私に出来ることなら何でもするから

君の生きる糧になりたい、そう思った。



どんどん鬱が深刻化していく君を支えたかった




だけど君がいつも言う台詞は


『変な話してごめんね』
『情けなくてごめん』
『何もしてあげられなくてごめん』


謝罪の言葉ばかりだった




それでも私はヒーローみたいな君に助けられていた、救われた。
そんな君の為に私は何も出来ているつもりはなかった。



借金を返すのを手伝ってあげることも

そばに行って支えてあげることも

助けてあげることも



何も求めて貰えなかった
何も出来なかった。
無力だった



私に出来るたった一つのことは、君が漸く心を開いてくれて相談してくれたことを聞いてあげること。ただそれだけだった。



'話聞いてあげることくらいしか出来なくてごめんね'



お互いに謝ることが増えた。

謝ってばかりの君に

私はもう謝らなくていいから

感謝を伝えようと告げた。

それから君はたくさん感謝を言葉にするようになっていく





だけど次第に君からの返事は

『うん』『そっか』

しか来なくなった。





落ち込み、殆ど自分の事を語らなくなった君にどうしたらいいのかわからず、私は自分の話ばかりをするようになっていった。

それでも話せて嬉しいと言ってくれた

そんな君が好きだった



私はくだらない自分の馬鹿な話ばかりをするようになっていった。少しでも馬鹿だなって笑って欲しかった。











絶対に君を離さないと約束したね。


それでも君は

『俺よりもいい奴が沢山いるから、俺だけに焦点を当てないで。周りの人に目をやって』

この言葉を最後まで曲げる事はなかった。




私は君の為に何も出来ていないと思っていたし、むしろこんな私と話して貰えてありがたかった。でもそれは君にとっても一緒だったんだろう。
 



普通の恋人同士がするようなことは何一つしていない。


だけど君が告げてくれた、


私と
'連絡が取れるだけで嬉しかった、君は心の支えだよ'


その言葉に救われた





ほぼ毎晩、話せただけで満足だった幸せだった。

通知で携帯が震えるだけで胸が高鳴った




とうとう偶にしか来なくなった君からの連絡。

返事が待ち遠しくて

何度も何度も開く君とのメッセージ画面。




会話に何の意味もなくても

君が私と連絡を取ることで

少しでも落ち着くなら安心してくれるなら

何の迷惑でもなかった

むしろ役に立てることが嬉しかった





『俺より男らしいよね』

『俺は女々しいから』



そんな君を守ってあげたいと思った。






ーーー




すぐ別れを告げようとする君。あれは何度目だったかな


私達は遂に別れてしまった


それでも別れてからも変わらず君とは連絡し続けていた







だけど、




私は別の人の彼女になった。





それから君との連絡は取れなくなってしまった




手を離さないと約束したのに


ごめんなさい



君との繋がりを突然絶たれた私は、



堕ちたーーー










君が頑張っていたから、私も頑張ることができた

君が目指していた道だから、私もその夢を追いかけた

君が一人で頑張っていたから、私も独り立ちをした

君が生きてくれていたから、私も生きようと思えた



全部君のおかげだったよ。



君と離れて、仕事を辞めた
君と離れて、学校を辞めた
君と離れて、夢を捨てた
君と離れて、生きる力を失った



全部全部君がくれていた



ごめんね、そんな大事な事に気付かなくて。

私はこんなに落ちぶれてしまったよ

君が見たら悲しむかな


君が好きだった私はもう死んでしまったね。




ごめんね



ごめんなさい




愛していました。







君にはたくさん成長させて貰ったね


私は君のおかげで強くなれたよ


でも、君を失って余計に弱くなってしまったみたい。



君の次に付き合った人はね、私から全部を搾取する人だったよ。


そう、友達も家族も夢も未来も宝物もお金も自由も。全部だった。








いついなくなるかわからない君に、掴めない君に。

"じゃあね"と告げる君に

いつでも別れ際、私は必ず"また明日"と告げていた

"さよなら"を告げたことは一度もなかった





ーーー




君の23歳の誕生日。


君の次に付き合った人と、別れたばかりの私は

君の連絡先をやっとの思いで見つけ出し、メッセージを送った。


だけど二度と返事がくることはなかった











死にたがりな君を必死で引き留めていた私は

いつしか君のようになっていた




何度死を乞うただろう






君は今何処かで息をしているんだろうか、




どうか、どうか君だけは幸せになって欲しい。


君は幸せになるべき。


いや、ならなきゃいけないんだよ












お元気ですか?










私は今でも君からの『おはよう』を待ち続けているーー






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