愛しい人は、女神さま

かわたる

文字の大きさ
上 下
4 / 4

(4)伝説の斎王

しおりを挟む

 次の日、どこからか帰ってきたステラは俺達と合流した後にテッカンさんの工房へとやってきた。
 
「こ、これは――魔炎鋼竜の牙じゃねーか!」
「嘘、マジで!?」
「ステラ、これどうしたんだよ」
「少しツテがあってな。国庫に置いてあったから貰ってきた」
「そんな簡単に取って来れるのか」
「で、父ちゃん。これでコンテスト用の武器も作れるし、万々歳やん」
 
「……いや、これだけだと足りねぇ」
 
「はい?」
「ガッチンの野郎はこの竜の素材をある程度は自由に使えるはずだ。鱗や爪、髭や翼――竜は武具素材の宝庫と言ってもいい。だからこそあのアルマステンの解析が必要なんじゃ」
「その解析の進捗は?」
「まだ時間が欲しいが……だからステラとヨーイチには、もう1つだけ強い素材を探してきて欲しい」
「どういったモノを?」
「何らかのマテリアル鋼の最高品質のモノであれば……」
「アホか! そんな高いもんそうそう市場に出とるか!」
 
 マテリアル鋼の事も調べたが、購入するにはやはり錬金術の工房へ直接出向いて頼むしかないか。
 でも俺の手持ちじゃ全然足りなさそうだし、借金か……。
 
『マテリアル鋼は人為的な方法で精製する以外にも方法があります』
 
(え、どうするの?)
 
 『先程のドワーフの言っていた通り、竜の肉体は天然のマテリアル鋼と言えます。生物由来の素材は、通常の金属と違い反発現象が起き難いとされます』
 
(でも竜なんかどこに居るか分かんないし……)
 
 『かつて私の時代にマテリアル鋼を量産する計画がありました。岩や魔鉱石のみを食すよう改良し、体内で精製するモノでした。しかし精製には長い長い年月を掛けねばならず、計画は頓挫しました』
 
(ダメじゃん)
 
 『しかしその時の実験生物が野に放たれています。当時の名前は魔鋼竜マグナドラゴンです。そしてそれは、この地にも居るはずです』
 
「居るはずって。テッカンさん知ってます? 岩や魔鉱石を好んで食べる生物……」
「あぁ? 岩や魔鉱石を好んで食べる……どっかで聞いた事ある特徴だな」
「いやそれ鉱山喰いマインイーターやん」
「そうだ鉱山喰い……鉱山喰いか! その方法があったか!」
 
 テッカンは部屋の奥へ引っ込み、1冊の分厚い本を持って帰ってきた。
 
「コイツは魔鉱石の取れる鉱山に住み着き、そこにある鉱石を根こそぎ食っちまう害獣だ。向こうから人を襲う事も無いし、1年の殆どを岩の中で寝て過ごす。そのあまりの硬さ故に一般冒険者じゃ文字通り歯が立たねぇから、討伐もほぼ無理な奴だ」
「……でも、ウチらドワーフなら別や」
「ルビィ。お前はすぐに他の工房の奴らに声を掛けてくれ、儂から話があると。鍛冶屋通りの広場だ」
「分かった!」


  ◇◆◇◆◇◆◇

 
 それから数時間後の夜、広場にテッカンと共に俺達は居た。
 テッカンの人望がどれほどあるのか――それはこれを見たら納得するしかない。
 総勢100人ほどか。老若男女、ノーマン(人間)にドワーフや……エルフの職人なんてのも居るのか。
 
「テッカン! 帰って来てたんならすぐに声掛けろよな!」
「みんな済まなかったな! 儂が己の職人人生を掛けて王都へ行ったのは知っていると思うが、色々あって今はギリギリの所にいる」
 
 ここでざわめく職人達――。
 
「その間にここの区域に大手武器工場が出来たせいで、鍛冶屋通りに今までの活気が失われつつある事も知っている」

 それで妙に客が少なかったのか。
 もしかして、俺が大通りで買った武器屋もそういう関係があったのかな。
 
「しかし、それを解決できる妙案がある。ドワーフの皆は昔……100年前くらいにやった鉱山狩りの事は覚えているな」
「おぉ、おぉ……まさかやるのか!?」
「今回も国に黙ってやる事にした。だから参加は強制じゃない……じゃが素材を持って帰る事が出来れば、鍛冶屋通りの新たな名物として売り出せる!」
「いいぜやろうぜ!」
「どうせ暇だしな!」
 
 ドワーフ職人はみんな乗り気だ。他の職人、特に若い人らは良い顔をしてなかったが、反対する気は無さそうだ。
 
「出発は急だが明後日、西の鉱山へ行く!」

「「おぉー!!」」

  ◇◆◇◆◇◆◇
 
 という事があって出発の日。
 早朝、中央広場には30人ほどの職人達が集まっていた。各々の荷物を馬車に積み込み、計8台。これだけ多いと壮観である。

「って父ちゃんも着いて来るんか」
「当たり前だ。責任者の儂が行かんと示しが付かんだろう」
「解析は?」
「必要なもんは積んだ。現場近くに放棄された町があるはずだから、そこでやる」
「全部積み込んだ。出れるぞー!」
「よし。出発じゃー!!」

  ◇◆◇◆◇◆◇

 
 西への街道を進むこと1日。途中から旧街道へ入りさらに1日進んだ所に目的の鉱山はあった。
 道中、立て札で『この先、魔物が住み着いた鉱山。危険』と書かれているのをいくつか見つけるが、当然一団は気にせず進む。
 町の入り口の封鎖を勝手に壊し、一団は街へと入った。
 もう住民が居なくなり何年も経ったのだろう。中には朽ちてしまったような家屋もある。
 かつてのメインストリートを通り、一団は鉱山の入り口へとやってきた。
 
「よしみんな。まずはお疲れ様じゃ! 本格的な探索は明日から行うから、各自準備を進めてくれ」
「「「うーすっ」」」
 
 俺はキャンプ用のテントの設営をやったり、薪を集めるのを手伝ったりしていたのだが、何故だろう。どこからか視線を感じる気がする。
 
「ニーアはどうだ」
 
『不明。私のセンサーには、何も感知しておりません』
 
「……気のせいかな」
 
 ちなみにニーアのセンサーはそこまで広くはない。俺を中心に200mくらいだ。あまり広すぎると拾う情報が増えすぎて処理が難しくなるらしい。
 向こうの方では、既に職人達の笑い声が聞こえる。
 
「あの人達、今晩も酒ばっか飲むんだろうなぁ」


 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

猿の内政官の息子 ~小田原征伐~

橋本洋一
歴史・時代
※猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~という作品の外伝です。猿の内政官の息子の続編です。全十話です。 猿の内政官の息子、雨竜秀晴はある日、豊臣家から出兵命令を受けた。出陣先は関東。惣無事令を破った北条家討伐のための戦である。秀晴はこの戦で父である雲之介を超えられると信じていた。その戦の中でいろいろな『親子』の関係を知る。これは『親子の絆』の物語であり、『固執からの解放』の物語である。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

竹束(1575年、長篠の戦い)

銅大
歴史・時代
竹束とは、切った竹をつなげた盾のことです。室町時代。日本に鉄砲が入ってくると同時に、竹束が作られるようになります。では、この竹束は誰が持ち、どのように使われたのでしょう。1575年の長篠の戦いに参加した伊勢の鉄砲足軽とその家人の視点で、竹束とその使い方を描いてみました。

浅井長政は織田信長に忠誠を誓う

ピコサイクス
歴史・時代
1570年5月24日、織田信長は朝倉義景を攻めるため越後に侵攻した。その時浅井長政は婚姻関係の織田家か古くから関係ある朝倉家どちらの味方をするか迷っていた。

水野勝成 居候報恩記

尾方佐羽
歴史・時代
⭐タイトルを替えました。 ⭐『福山ご城下開端の記』もよろしくお願いします。 ⭐福山城さま令和の大普請、完成おめでとうございます。 ⭐2020年1月21日、5月4日に福山市の『福山城築城400年』Facebookでご紹介いただきました。https://m.facebook.com/fukuyama400/ 備後福山藩初代藩主、水野勝成が若い頃放浪を重ねたあと、備中(現在の岡山県)の片隅で居候をすることになるお話です。一番鑓しかしたくない、天下無双の暴れ者が、備中の片隅で居候した末に見つけたものは何だったのでしょうか。 →本編は完結、関連の話題を適宜更新。

徳川家康。一向宗に認められていた不入の権を侵害し紛争に発展。家中が二分する中、岡崎に身を寄せていた戸田忠次が採った行動。それは……。

俣彦
歴史・時代
1563年。徳川家康が三河国内の一向宗が持つ「不入の権」を侵害。 両者の対立はエスカレートし紛争に発展。双方共に関係を持つ徳川の家臣は分裂。 そんな中、岡崎に身を寄せていた戸田忠次は……。

陣代『諏訪勝頼』――御旗盾無、御照覧あれ!――

黒鯛の刺身♪
歴史・時代
戦国の巨獣と恐れられた『武田信玄』の実質的後継者である『諏訪勝頼』。  一般には武田勝頼と記されることが多い。  ……が、しかし、彼は正統な後継者ではなかった。  信玄の遺言に寄れば、正式な後継者は信玄の孫とあった。  つまり勝頼の子である信勝が後継者であり、勝頼は陣代。  一介の後見人の立場でしかない。  織田信長や徳川家康ら稀代の英雄たちと戦うのに、正式な当主と成れず、一介の後見人として戦わねばならなかった諏訪勝頼。  ……これは、そんな悲運の名将のお話である。 【画像引用】……諏訪勝頼・高野山持明院蔵 【注意】……武田贔屓のお話です。  所説あります。  あくまでも一つのお話としてお楽しみください。

秀頼出陣

伊賀谷
歴史・時代
関ヶ原到着目前に、徳川家康の軍勢は玉城の存在に気づいた。 それは数万の兵が入ることができる山城であるという。 玉城に入城するのは主君、豊臣秀頼を置いて他にいない。それこそが敵である石田方の切り札であった。 家康より密命を帯て霧隠才蔵は大坂城に向かう。秀頼を出陣させぬために。 しかし、才蔵を毛利の忍びが追う。 ついに才蔵は大坂城に忍び込むのであったが……。

処理中です...