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最後の一週間

賑やかな夕べ

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ソファーに座って待つ二人を片目に、私達は食卓の準備を始めた。
スペイン語の歌を口ずさみながら、茹で卵の殻を剥いたり、レモンを切ったりするヴィクターがとてもご機嫌で、私は彼が、こうやって仲間で集まる事が大好きなんだと知る。
考えてみたら、殆ど祖母と二人きりの生活を続けて、祖母が他界した後は、基本的に滅多に会うことのない父親以外、家族らしい付き合いのある人はいなかったのかもしれない。彼の母親のことは全く聞かないということは、離婚後、完全に縁が切れているのかもしれないし、父方の祖父は、ヴィクターの生まれる前に交通事故に巻き込まれ亡くなったと聞いた。
彼の求める家庭像はきっと、家族だけでなく親しい友人達と集まって、楽しく和やかな時間を過ごせる温かい場所なのだろう。
私も、そんな笑いの耐えない家庭が欲しい。
心を許せる仲間と、共有出来る楽しい時間。
彼と一緒に、築いていきたい家庭の団欒の様子がはっきりと見えた気がした。
丸いダイニングテーブルに私がプレートやグラス、カトラリーを並べたところへ、ヴィクターが湯気のたつパエリア鍋を抱えて来て、ドンッ、と中央に置いた。
その音を合図に、ソファーで待っていた二人が立ち上がってこちらへやってきた。
隣に冷蔵庫から出した冷え冷えになっているキャロット・ラペを置き、ミネラルウオーターやオレンジジュースを並べる。
「アルコールは買い忘れて、今晩はないんだ」
グラスに氷を移し入れながらヴィクターがそう言うと、パエリアの鍋を見下ろし満足げに微笑んだ。
さっき彼が、海老の位置を動かしたり切ったレモンを乗せたりしていたが、見てみたら、海老とレモンを印に奇麗にパエリアが8等分され、見た目も本格的なものになっていた。
「すごいなぁ、本格的!リオって、こんなのも作れるの?」
アナマリーが席に座りながらびっくりしたように私を見る。
「レシピ見ながらだから、誰でも作れるよ」
「ほんと?今度、レシピ教えて。ううん、一緒に作ってみせて」
「うん、もちろん」
大きく頷いて答えながら、それが本当に実現出来る約束だと実感して嬉しくなる。
ここに住めば、新しく出来た友達にも、蓮美ちゃんファミリーにもいつだって会えるようになる訳だ。
「取り分け、どうする?基本、各自でってのが普通だけど」
ヴィクターが木製のスパチュラ型のヘラを持って聞くと、クリスティアンがふて腐れ気味に肩肘を付いて自分の皿を突き出した。
「おまえ、配膳しろ」
機嫌の悪いクリスティアンの様子に肩をすくめ、苦笑しながらヴィクターが皆の皿にパエリアを盛っていく。私もトングで、順番にキャロット・ラペを隣に添えた。
「Guten Appetit ! 」
アナマリーのかけ声で、それぞれの食事に手を付ける。
「わぁ、美味しい!リオ、すごく美味しいよ」
アナマリーの手放しの褒め言葉に照れる。
「上出来!最高、リオ」
ヴィクターも嬉しげに頷き、照れる私の肩を抱いて頬にキスをした。
ますます照れてどうしようもなくなり肩をすくめていると、アナマリーが目を丸くして私達を眺める。
「まさか、二人が相思相愛だなんて、全然気がつかなかったなぁ……」
それは私達自身も気がついていなかったくらいだから、驚かれるのも当然だ。
クリスティアンがフン、と鼻を鳴らした。
「少なくとも、こいつは最初からやたらリオに固執してたぞ。俺の行動をストーカーみたいにチェックしやがってさ。夜中の3時半に、呼び鈴鳴らすわ、ドアを叩くわ騒いで、リオはどこだと噛み付いてきた時にはさすがに俺も絶縁を考えた」
「おまえが、思わせぶりなことを言ってレストランを出るからだ。しかも、携帯の電源を落としっぱなしで」
「バッテリーが切れてたんだ!それに、俺が何しようとおまえの許可はいらないだろうが」
クリスティアンはそう言うと、フォークに指した茹で卵を一口で食べる。
その様子を見て肩をすくめたアナマリーが隣の私を振り返った。
「昨日の夕方、ヴィクターがいきなり、シフト変えろって騒ぎ出した時は意味がわかんなくてすごく混乱したんだけど……」
そう言いかけて、彼女はすごく言いにくそうに苦笑いした。
「リオの婚約を白紙にするんだとか言い出したから、最初、彼の頭、おかしくなったのかって思ったよ。だってさ……」
意味深なタイミングで言葉を切るアナマリーに、私達は彼女を見た。
皆が自分を見ているのに気づいたアナマリーが少し、頬を赤らめながら、遠慮がちに呟いた。
「だってさ……ヴィクター、実は、ゲイかもって皆が言ってたし」
「はぁ?!」
手に持っていたスプーンをガチャンとプレートに置いたヴィクターが、驚愕の表情で彼女を見て、私は喉にイカを詰まらせ激しく咳き込んだ。
まさかアナマリーがこの場で本人にその疑いをバラすなんて予期していなかっただけに、以前サビーナにその話を聞いていたにも関わらず、思い切り動揺してしまった。
どこまでも天然なアナマリーにもぶっ飛びだ。
噛み砕き損ねたイカに殺されそうになり、私は苦しさに涙目でグラスの水を一気に流し込む。
クリスティアンは笑いを堪えるようにキャロット・ラペにフォークを突き刺して視線を下げたままだ。
「アナマリー!何、言ってんだ!なんだそれ、皆が言ってたって……」
怒りと動揺で顔を引きつらせ、興奮気味に声をあげるヴィクターに、アナマリーが気まずそうに視線を逸らす。
「そう、怒んないでよ。私だって、聞いただけで、別に、私が吹聴してたわけじゃないし」
「なんで、そうなるんだ!」
「知らないよ!でも、超、安全牌だって皆知ってるし、男にも人気あるし、恋人出来たって全然続かないし……毎回振られても平気そうだったし……どこか、普通の男と違うって、そんな感じじゃないの?」
可笑しくてたまらないと言うように拳をテーブルに叩き付けたクリスティアンが叫ぶ。
「……っ、最高、いや、最低の職場だな!俺、そこで働きたい」
彼は、私とアナマリーのほうへ身を乗り出すと、マロンブラウン色の目を煌めかせて囁いた。
「実は、正直なところ、俺も疑った事はある」
「おいっ!おまえ……」
椅子から立ち上がって声をあげたヴィクターは、見た事もないくらい動揺し青ざめていた。
「でまかせをリオに言うな!」
「まぁ、そう興奮するなよ、ヴィクター。単なる余興ってやつ」
しれっと余裕の態度でヴィクターを一蹴したクリスティアンは、パエリアを食べながらちらりと私を見て、それからニヤニヤと変な笑みを浮かべた。
「でも、当の彼女は、この話にそれほど驚いているようでもないよな」
ドキリとして思わず手に持っていたフォークの動きが止まる。
嫌なところに気がつくクリスティアンを横目で睨みつけると、右隣のアナマリーが罪のない笑顔を私に向けた。
「あ、リオ、やっぱり貴女も、そう思ってたの!?」
自然に振る舞うつもりだったのに、その言葉にびくっとしてしまい、同時に左隣に立つヴィクターからの刺す様な視線に気がつく。
背筋が寒くなるような嫌な予感がしてそっとそちらを見上げると、目を見開いたヴィクターが私を凝視していた。
「……リオ?君もそう思ってた?」
「えっ……ち、違う、ただ、そんな話、あっ、何でもないっ」
「そんな話!?」
余計な一言を口にしたと激しく後悔し俯くと、能天気なアナマリーの明るい笑い声が聞こえた。
「私は何も言ってないよ、ね、リオ」
ヴィクターはアナマリーから目を離すと、再度私を見て、真剣な顔でゆっくりと問いただす。
「誰から聞いた?そんな話」
「そ……それは……えー、記憶が……あ、思い違いかな、あはは……」
答えかね言い淀んで視線を泳がせていると、クリスティアンがパエリア鍋からおかわりをプレートによそいながら、涼しい笑顔で言う。
「昨今のおまえを知るヤツなら、タイミング、あったんじゃないか」
その言葉に、ヴィクターがはっとしたように私を見つめた。
「……サビーナ?」
ここまで来るともう否定もごまかしも効かなくなり、私はフォークを置いて頭を垂れた。
嘘をつくのも嫌だし、ごまかして後でバレても彼を傷つけるだけかもしれない。
数秒の沈黙の後、ガタンと音をたててヴィクターが椅子から立ち上がり、いきなり私の腕を取った。
「リオ。ちょっと来て」
「えっ、あっ」
珍しく強引な態度のヴィクターに引っ張られてリビングルームを出て、シャンデリアの部屋に入ると、彼は扉を閉めた。




大きく溜め息をつくと、私の手を引いて中庭に繋がるドアのそばに行く。
アンティークな金色のビロードカウチに腰かけると、私を膝に乗せて向き合う。
「リオ、サビーナに、何を聞いたか俺に教えて」
「なにって……」
あれは、サビーナの個人的な話で、いくらなんでもそれをあけすけにヴィクターに言っていいのか分らず、答えに困ってしばらく沈黙していたが、私はようやく、自分なりに彼女を擁護する形で説明をした。
「サビーナ、ヴィクターのことはすごく好きで、いいヤツだって言ってたよ。寂しさから浮気したけど、ヴィクターは優しいから、全然怒らなかったって……」
「それだけじゃないんだろ?」
どうやら、ゲイ云々の疑いの話の核心を突き止めようとしているのは間違いない様子なので、私も諦めてそのことを白状した。
「だから……貴方が、恋人とうまく行かないのは、もしかしたら、ゲイだからなのかも……って、でも、あくまで、もしかしたら、って話だったから……」
私の言葉を聞いたヴィクターがうな垂れる。
よほどショックだったのか、痛ましいほど気落ちしている様子に気の毒になり、私は明るい声で話題をずらそうとした。
「でも、それだけ、女性にとっても、信頼できる人ってことだよ!私、ロスでゲイの友達いたけど、皆すごく優しくて大好きだったし」
「……励ましてくれてるのはわかるけど、そんな噂を知らないのは自分だけだったなんて、さすがに応える」
「うん……それは、わかる」
自分の知らないところでそんな噂が一人歩きしていて、親しいアナマリーやクリスティアンもその噂を知っていたという事実は、確かに傷つくだろう。
でも、彼等も、そんな噂をヴィクターの耳に入れてショックを与えたくないという思いやりもあったから、今まで黙っていたのだと思う。
彼がゲイであろうとなかろうと、そういう噂は、本人にとって好ましいものではない。逆に、皆が彼のことを好きだから、そうやって彼の人の良さを話題にしているうちに、たまたまゲイの可能性の話があがったくらいじゃないだろうか。大体、ゲイに対してベルリンは寛容な都市のはずだ。
顔を片手で覆って俯いたまま、ヴィクターが元気のない声で呟く。
「いつも長続きしなかったのは本当だから、そんな噂になったのかもしれないな。俺、スペインとか、あっちの女の子と付き合ってたら、いつか本当に心底惹かれる相手も出てくるだろうと思ってたんだ。案の定、そう簡単にいくはずもなくてさ」
自虐的にそう言うと、ヴィクターは溜め息をついて私の左手の指輪を撫でた。
「付き合ってても、四六時中相手を裏切っているような罪悪感があって……とてもじゃないけど、中途半端な気持ちの自分に、相手を本気にさせてしまう勇気はなかったんだ。サビーナは、どうしても妹くらいにしか思えなくて、彼女がそんな俺の態度に耐えられないというのもわかってた。ゲイであることを隠すために、表向きは女の子と付き合うやつもいるから、俺がサビーナにそう思われても文句言えないかもな。俺も自分から別れたらいいと知っていたけれど、彼女を傷つけるのが嫌で、彼女が俺から去って行くのを待っていた、俺はズルいやつなんだ」
「大丈夫だよ……サビーナは、そんな風には思ってないよ。ヴィクターは優しいから、アパートの更新まで家賃をシェアしてくれるんだって、言ってたよ」
「それは、俺が出来るせめてもの罪滅ぼし。正直、彼女が他のやつと付き合ってると気がついた時は肩の荷が下りてほっとしてたし」
溜め息をついてようやく顔を上げたヴィクターが、弱々しく微笑んだ。
「似た様なことを繰り返していたんだ。本気になりかけた相手もいたけど、少し時間が経つと何か違うって気がついて、そしてまた振り出しに戻るってやつ」
「わかるよ、ヴィクター、真面目なんだよね。サビーナも言ってた。すごく、まっすぐな人だって」
「……そう?」
疲れたように苦笑いしたヴィクター。
「あのね、私も……」
あまり言いたいことじゃなかったけれど、ヴィクターには自分の過去もきちんと教えておこうと思って、私は彼に向き直った。
「私、相当冷たい女、って呼ばれてきてるの」
「冷たい?リオが?」
驚いたように私を見つめたヴィクターが、信じられないというように首を振る。
「付き合っている相手が、本気になると逃げ出すっていうか……最初に拓海と別れたのも、付き合って2ヶ月も経たないバレンタインデーだったの……ペンダントのプレゼント貰った時、あぁ、やっぱり彼は違うと思って、その場でプレゼント返して、別れようって……拓海のためにも、無駄な時間を私に使わせたらダメだって思ったからなんだけど……でも、女友達には、思いやりのない冷たい女とか、追われると必ず逃げるズルい女って、言われてた……そんなんだから、人間関係の構築が苦手なんだと思われるの」
最後のあたりはだんだん声が小さくなってしまった。
何度考えても本当にひどい話だと我ながら落ち込む。
ヴィクターはびっくりしたように私を見ていたけれど、やがてクスクスと笑い出した。
「あの男に、バレンタインデーのプレゼント突き返して別れを切り出すなんて、君はかなりの怖いもの知らずだ」
「うん……酷い事したなって、後悔はしたけど……相手を欺くのが、苦手なの。それに、拓海は、いい人だったし、彼のことは好きだったから、尚更、彼に嘘をつきたくなかった。自分の気持ちを偽るなんて、彼を騙している感じがしたから」
「確かに、君らしい」
ヴィクターは頷くとやっといつもの明るいお日様のような笑顔を見せて、両腕で私を抱きしめた。
「君は遥か遠くのアジアから旅行で来ていた子だったから、俺も、何も考えずにいられたんだと思う。一緒に居る時間の楽しさの理由なんかも考えなかった。いや、違う、考えたくても考えないようにしてた、ってことだな。例の幻の束縛で、俺が日本の子とは付き合うことはないと決め込んでたし」
「うん、私も同じ。旅先で会った人と恋愛するつもりは全然なかったし……それに、拓海が突然現れてプロポーズしてきて、頭の中が大混乱してて、自分がどうしたいのかもわからなかったよ。でも、貴方と一緒の時はそのことも全部忘れちゃってて……どこまで冷たい女なんだって、自分で自分が嫌になってたけど……でもきっと、それだけ、貴方と一緒の時が楽しいからだったんだと思う。それにね……」
私が言葉を切ると、ヴィクターが顔をあげてまっすぐに私を見つめた。
「あの晩、アパートに泊めたでしょ。私、彼氏を自分のアパートにあげたこと、一度もなかったんだ。その事に気がついたのは、実は今日なんだけど、、、やっぱり、貴方は最初から特別だったんだね」
そう言うと、彼はとても嬉しそうに微笑んでぎゅっと私を抱きしめた。
「ありがとう、リオ」
お礼なんて言われることじゃないなと思いながら彼の首を抱きしめていると、ヴィクターがクスクスと笑いながら耳元で呟く。
「俺も、まさか自分が窓から侵入するとは思わなかった」
「あれは、ほんとにびっくりした」
「すごい勢いでドアが開いてリオの姿を見たと思ったら、声かける前にバゲットがすっ飛んで来たし」
二人で思い出し笑いをしながら、そろそろダイニングルームへ戻ろうとカウチから下りて立ち上がる。
「でも、リオ?」
「うん?」
扉のノブに手をかけて振り返ると、真顔のヴィクターが私を見下ろしていた。
「俺、あんなことしたこと、一度もないから」
「不法侵入?それはそうでしょ」
「違う」
なんだろうと思って黙ると、彼は身を屈めて私の耳に囁いた。
「あんな告白したことと、そのままベッドに連れて行ったこと」
「……」
思わず赤面し、私は扉のノブを見下ろしたまま、静かに答えた。
「私もないよ、あんなこと……拓海が、すぐに去っていったのは、それに、気がついたからだと、思う……貴方は、特別なんだって」
空港であの拓海が予想以上に素直に身を引いたのは、私が、ヴィクターと一線を越えたことに気がついたからだと私は知っている。もし、まだ深い関係を持っていないと確信があったら、拓海はあんなに簡単に引き下がらなかっただろう。
彼は、私が気分で誰かと夜を共にするような人間じゃないとよく知っているからこそ、私の決意が固いと知ったのだ。
ヴィクターが黙って私を見て、それから少し頬を染めて微笑むと後ろからぎゅっと抱きしめて、頬にキスをした。
ダイニングに戻って席につこうとすると、クリスティアンが機嫌の悪い様子でヴィクターに声をかける。
「で、おまえのゲイ疑惑は晴れたのか」
その言葉に、さっきの動揺はもう和らいだヴィクターが苦々しく笑う。
「疑惑もなにも、俺がゲイじゃないことは、説明しなくても彼女は知ってるし」
「はぁ?なんか癪に障る言い方だな」
クリスティアンはむっつりして、パエリア鍋のヘラに手を伸ばし、プレートに移し始めた。見ればもう、8等分されていたパエリアが、あと二人分になっていた。
キャロット・ラベのほうもあれだけ大量にあったのに、もう残す所一人分。
アナマリーがキャロット・ラペを食べながら、ご機嫌で私を見た。
「美味しくて、どんどん食べちゃった」
「ほんと、よかった」
嬉しくて頷いていると、クリスティアンがヘラを置いて残した一人分のパエリアを、すぐにヴィクターが自分のプレートに移動させている。まだ最初の分を食べ終わっていないのにと思ったけれど、もたもたしているうちにクリスティアンに最後の分まで取られてしまうという可能性を恐れたのかもしれない。
「リオ、ほんとにコイツでよかったのか?俺のほうが絶対いいと思うけど」
日本語でクリスティアンがそう言って、レモンの輪切りを口にしながら薄笑いを浮かべている。相変わらずファッションモデルのように、どうってことない動作がすべて絵になる男だ。頬についているお米の粒まで、計算済みのオシャレじゃないかと思うくらいだ。人間離れした極上の美男は、米粒がついていても美男のままらしい。
「俺はすべてにおいて、こいつに勝っているんじゃないか?」
「またそんなことを言う……」
苦笑いしているとアナマリーが楽しそうに笑いながらヴィクターを振り返る。
「ヴィクター、日本語の勉強したほうがいいんじゃない?」
不機嫌な様子でパエリアを食べていた彼が、顔をあげ真面目な顔で私を見た。
「言えてる。リオがドイツ語とスペイン語を両方やるなら、俺は日本語、やったほうがよさそう」
「お互いの言語は、ある程度理解出来たら嬉しい」
私も笑顔で頷く。
ヴィクターは最も難言語と言われている言語のひとつ、ロシア語もマスターしているくらいだから、言語習得の才能はあるはずだろう。
「私も、ジョーにインドネシア語を教えようかなぁ?」
何か悪いイタズラを思いついたように目を煌めかせたアナマリーが嬉しそうにそう呟いた。
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