王子様は悪徳令嬢を溺愛する!

リカ

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彼は寝ている私のおでこにキスを、残して去っていきました。彼が去った寝室で私は静かに目を開けました。

マリクがいない寂しさを埋めるように私はショッピングをしたり、国王陛下の雑用に付き合ったりと多忙な三日間を過ごした。
そして四日目、私はすることもなくただぶらぶらと街を歩いている。
いつもの一番街ではなく、スラムの方向へ歩いていく。金持ちの道楽である慈善活動をしに、歩いていく。私はこれが偽善で、自己満足だと知っている。けれどこれで、少しでも治安が良く、諍いが減るのであれば、やらずにはいられないのだ。
見知らぬ人間にお金を配る、そんな行為だって私自身が没落すればそんな余裕はなくなるんだろうけれど。没落する予定は今のところないし、没落するまでは精々慈善活動に勤しむさ。お母様の噂話好きのために、お金は湯水のように消えてってるし、よっぽど私の方が有意義に使っている。
けれど、あの厭らしいおばさんと一緒になりたくはなかった。あのおじさんのように、金と権力の次には名声が欲しいというわけでもなかった。だから私はこの活動を誰にも話はしない。

「アリーねえ、今日はチョコレイト持ってきてくれた?」

「もちろん。パンも、スープも持ってきたわよ。最近はやりのキャンディーもたくさんね」

私は駆け寄って来たスラムの子供たちに食べ物が沢山入った、トランクケースを渡す。はじめは彼らを引き取って、三食整って教育もしっかりしたところへ連れて行こうとした。けれど彼らは余計なお世話だと跳ねのけた。
彼らは私たちがごみ溜めだと決めつけ、軽蔑していた場所で生活してしていることにプライドを持っていた。そして私みたいな一番街でブルジョアな生活をしている、貴族の集団を軽蔑していた。私は昔ここで生活を彼らとした。その時、私は荒んでいてバカだった。

みぐるみはがされ、金品を取られたところで彼は現れた。小さなヒーローだ。彼はスラムで生きるいろはを私に教えた。
そうしてスラムにやっと馴染んだ頃に、私は見つかり屋敷に連れ戻された。
優しい彼は今やスラムの子供たちのリーダーだ。

「どう?最近は」

「治安が悪いのは相変わらず。けど、アリーねえのお手付きだってこの地域が分かった瞬間奴隷商人は一気に減ったよ。あんなことするなんて、怖いや」

ヒーローはキャンディーをぺろぺろ舐めながら言う。

「まあ、ほんの少し残酷なことはしちゃったかもね。」

こんな、命かけて毎日生活してるところで、生き延びなんかしちゃったから私みたいなのが出来上がっちゃうんだ。

「スラムの大人も青ざめることをするかなあ、ただの貴族のお嬢様がさ」

にやりと笑ったところで、通りすがったおじさんが口を挟んでくる。

「嬢ちゃんは見た目通りただの箱入りお嬢様じゃないんだよ。少女の皮を被ったサタンってところだな」

「そのとおり」

といえば笑いに包まれた。ここはこのままでいい。このままがいい。
こうして馬鹿笑いできる空間があれば、人生はとても豊かだ。

「ねえ、アリーねえ」


「なあに」

「悪魔の小耳にはさみたいことがあるんだ」

そういって彼は不敵に笑った。
あーあ。意地悪の血が騒いじゃうじゃん。さて一仕事して、少しでも子供たちが安心できる街を目指そうかね。
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