王子様は悪徳令嬢を溺愛する!

リカ

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ああ、平和だ。この上なく平和なのだ。
お茶会の招待もなく。王太子は手紙攻撃だけで特に実害はない。
ただ、国王陛下から晩際会への招待が来ているのと、お母様からの恨みつらみが籠った文書が届いてくることがのぞけば、特に日常的問題は発生していない。
私は、そっとお母様からの手紙を開く。概要はこう。

『なにお前令嬢に紅茶ぶっかけてんの!?』

『王太子が様子変だって、社交界では話題になっているわよ』

『ストーカーは大丈夫なの?』

そして一番のトピックスと言えば

『あんた、彼氏できたんだって?』

気が重い。こんなの、結婚しろって言われるにきまってるじゃん。何が何でも、嫁に行かせるためにお母様は怪しい占い師を、家に招待したらしいし。お父様によれば。
そういえば、マリクって家柄はどんなの何だろう。特に身分は気にしない性格ではあるけれど、あの振る舞いからして相当高位か、もしくは詐欺師か。詐欺師だったら面白いなあ。
あの国王陛下を騙すような詐欺師だったら、だいぶ見直しちゃうよ。
と妄想の世界に入っていたところでマリクは、私から手紙を取り上げ、読み上げた。

「お母様って噂好きなのな」

「そうね。私とは違って、毎日お母様主催のお茶会を、催してるよ」

「挨拶行かないとな」

その言葉に、私達って結婚を前提にしたお付き合いをしているんだった、と気づいた。

「やっぱり挨拶しないとダメかな」

「家柄が付いて回るからな。挨拶するのが普通。」

「そうだよねえ」

「挨拶しない予定でいたことにびっくりだよ。一応公爵様の令嬢だぜ」

私は頭を抱え込んだ。あのお母様にこんな怪しい男を紹介したらどうなるんだろう。きっと世界が破滅する夢を見るくらい、こってり怒られるにきまってる。それか、このミステリアスの事だお母さま
など赤子の手をひねるがごとく丸め込んでしまうのだろうか。そうに違いない。

「けどなあ、アリーの親の挨拶の前に帰国しないとな」

「え、国に帰るの?」

「ああ、しっかり結婚する意志があることとかその他諸々の問題が残ってるからな。色々片さないと結婚するなんて夢のまた夢になってしまう。とりあえず一週間ぐらいで帰ってこれる見通しだけど」

「一週間か。いつから?」

「明後日」

「急ね。」

二日後にはマリクはこのアパートメントにいないのかと思うと急に寂しい気持ちが押し寄せてくる。ずっといっしょにいたからだろうか。

「焦ってるだなんて思わないでくれよ」

「私と早く結婚したくて一時帰国するって?」

「そう思ってるって、分かるだろ」

マリクは私にキスをした。
まだ結婚するって決めてないけどなあ。まあいいか。
一緒に過ごす時間は穏やかで、心地の良いものだから。

「絶対、王太子に接触されても何もするなよ。無視する。瞳にさえうつしちゃだめだぞ」

とってもいい雰囲気をぶち壊すような王太子のワード。思い出したくもない言葉ではあるが、彼にとってはこの一時帰国の間の、唯一の憂いなのだろう。

「はーい」

そう言った、私は自分からキスをした。そこから何をしたか。なんて無粋なことを聞く人はいないでしょう?
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