上 下
20 / 26
目の見えない少女と従者

8

しおりを挟む
マーレン伯爵家、リネン室________________________________

リネン室では、黙々とアリッサが作業していた。傍らには、飲みかけのコーヒーが置いてあり、休憩も兼ねつつという事なのだろうとジェシカは思う。そんなアリッサに声をかけた。



「すこし、お話を聞いてもいいかしら」


「ええ、勿論です。ジェシカ様」



そうニッコリ笑うと、アリッサはエプロンで手を拭きながら、ジェシカ達に近寄って行った。



「エレインの婚約者を貴方は見なかった?」



「はい、見ました。婚約者様がこの屋敷にいらっしゃった時ですかね。いつも通りやって来て、いつも通りのように過ごされていつも通りに過ごされました」

やはり気掛かりな部分があるのだろう、レイが積極的に質問をしていこうとする。



「いつも通り?」


「はい、いつも通りですわ。婚約者様はこの家を好きに歩くことができますから。」


「好きに歩くことができる?」


「ええ、子供の頃からの幼馴染という事で許されているのだとか。だから必ず、挨拶、手土産が必要なわけではないとの事でです」


「なるほどね」




「婚約者が来てからのアリッサの行動を聞いてもいい?」


「ええ。」


そこでアリッサは自分自身も疑われる対象になっていたということに気が付いたらしい。怪訝そうな目をしながら口を開こうとする。
ジェシカはそれでいいのだと思う。自分が疑われている対象だと気が付いた輩は、自分自身の保身のために、様々なことを話してくれるからだ。


「私はずっと、仕事をしてましたよ。メイドの仕事はいくら手があっても足りないぐらいですから。朝ここに来てから、玄関とホールの掃除をして、エレイン様の朝食を作って、洗濯をして、掃除をして。そんな感じかしら。時間なんて見る暇もないから、ずっとそんな感じかしら。時々もう一人のメイド、メアリーにも指示したりね。あの子新人だから一緒には仕事はしないのよ。」


「メアリーにはどんな指示をしていたの」


「あそこの掃除をしていてとか、花瓶の水を変えてとか。まあ新人でも任せられそうなことばかりよ」



それぞれで仕事を別々にしていたというわけだ。エレイン以外の家族はいない状態で使用人が少ない状況だ、それに対しての不自然さはない。だからこそだ、使用人が殺人を行った可能性が高い。ただ、とジェシカは思う。殺人の行われたタイミングすら予想できないのに、どうやって犯人が見つけられるのかと、一番の疑問は婚約者が殺された時間なのだ。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

アリエール
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。

新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました

ネコ
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

【完結】冷酷な悪役令嬢の婚約破棄は終わらない

アイアイ
恋愛
華やかな舞踏会の喧騒が響く宮殿の大広間。その一角で、美しいドレスに身を包んだ少女が、冷ややかな笑みを浮かべていた。名はアリシア・ルミエール。彼女はこの国の公爵家の令嬢であり、社交界でも一際目立つ存在だった。 「また貴方ですか、アリシア様」 彼女の前に現れたのは、今宵の主役である王子、レオンハルト・アルベール。彼の瞳には、警戒の色が浮かんでいた。 「何かご用でしょうか?」 アリシアは優雅に頭を下げながらも、心の中で嘲笑っていた。自分が悪役令嬢としてこの場にいる理由は、まさにここから始まるのだ。 「レオンハルト王子、今夜は私とのダンスをお断りになるつもりですか?」

処理中です...