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目の見えない少女と従者
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「その日はわたくし、いつも通りキルシュナーと一緒に居りましたもの」
ジェシカはキルシュナーに視線を送った。それで自分が発言をしていいのだときちんと解釈できたらしい。この従者はやはり優秀だ。
「ええ、エレイン様とともに居りましたが、それは完璧にずっとお傍にいた、というわけではありません。朝起きてからをひと時も離れることはないというわけではございません。」
レイは少し眉間にしわを寄せた。回りくどい言い方だったからだろう。
「というのは?」
「私にも、業務がございますから。この人数ですし、仕事は探せばいくらでもあります。ただ、エレイン様のお傍を離れないようには気を付けて業務を行うようには注意してましたが」
「実際にはどの位の時間離れていたの?」
「食器を磨いていた時間のみだから、十五分も離れてはいませんね。」
「午前にそれくらいだけ一緒にいなかった時間があって、そしてここの庭園でお茶をゆっくり飲んだ後、外へでてジェシカ様とレイト様に会ったのよ」
「そう、十五分か。あの殺し方なら難しくはない気もするけれど」
気取った形でレイは、指を組んで、机の上に置いた。
「どうでしょう。私達には不可能ね。ただ私に限ったことでは人の支えなしにあそこへは行けないし、私たちはどちらも他の使用人たちには目撃されているはずだから、所謂アリバイというものも成立するはずだわ」
「そうでしょうとも、他の使用人からは目撃情報が得られると思うわ。限りなく二人の犯行は難しいでしょうね」
「ありがとう、エレイン様。けど残念ながら私たちは完璧なアリバイを話せなかったみたい。」
「いいえ、有益な情報は得られたわ。ありがとう」
マーレン伯爵家、廊下__________________
「実際のところ君はエレイン嬢を疑っているの?」
「いいえ、彼女にできると思う?殺人が」
ジェシカとレイはこそこそと声を潜めるように会話した。二人だけで聞こえるように。
「僕には怪しいと、彼女はやりかねないとそう感じてしまうんだ」
「ええ、きっと初めて彼女に会った人ならそう思うでしょう。エレイン様は、なんだか不思議な力を持っているようでなんだか、恐ろしく感じてしまうもの。それに彼女は殺人を、というよりは人の積み重ねてきた理なんて、無関係な世界で生きていそうだものね」
「いや、むしろ僕には君の様な人間にさえそんな感想を抱かせる、エレイン嬢の方が酷く恐ろしく感じるよ」
「そう?けど彼女という人間は人外のような皮を被った、乙女かもしれないよ」
ジェシカは、壁に体を寄りかからせ、腕を組み長考した。何故この家は私なんかに捜査を丸投げして、市警も家族も呼ばないのだろう。それはただ、エレインという少女が快楽主義のおかしな娘からなのだろうか、それとも外へ出してはいけないような何かがあるのだろうか。
「少なくともエレイン様には、無理だよ。あの刺し傷は目の見えない人ができるような傷ではないわ。少しでも迷ったりしたらできない、大きなナイフでひと突き。目が見えない少女が、相手がどこにいるのかどこを刺すのかそんなことを考えてできた傷ではないもの。普通に考えてね。」
「迷いがないか。犯人は明確な殺意があって、かつそれを持った原因、つまり怒りとか、憎しみとかそういう負の感情を持ち得る誰かというのは間違いないね。」
「まあ、他の使用人からも話を聞いてみましょうか」
ジェシカはキルシュナーに視線を送った。それで自分が発言をしていいのだときちんと解釈できたらしい。この従者はやはり優秀だ。
「ええ、エレイン様とともに居りましたが、それは完璧にずっとお傍にいた、というわけではありません。朝起きてからをひと時も離れることはないというわけではございません。」
レイは少し眉間にしわを寄せた。回りくどい言い方だったからだろう。
「というのは?」
「私にも、業務がございますから。この人数ですし、仕事は探せばいくらでもあります。ただ、エレイン様のお傍を離れないようには気を付けて業務を行うようには注意してましたが」
「実際にはどの位の時間離れていたの?」
「食器を磨いていた時間のみだから、十五分も離れてはいませんね。」
「午前にそれくらいだけ一緒にいなかった時間があって、そしてここの庭園でお茶をゆっくり飲んだ後、外へでてジェシカ様とレイト様に会ったのよ」
「そう、十五分か。あの殺し方なら難しくはない気もするけれど」
気取った形でレイは、指を組んで、机の上に置いた。
「どうでしょう。私達には不可能ね。ただ私に限ったことでは人の支えなしにあそこへは行けないし、私たちはどちらも他の使用人たちには目撃されているはずだから、所謂アリバイというものも成立するはずだわ」
「そうでしょうとも、他の使用人からは目撃情報が得られると思うわ。限りなく二人の犯行は難しいでしょうね」
「ありがとう、エレイン様。けど残念ながら私たちは完璧なアリバイを話せなかったみたい。」
「いいえ、有益な情報は得られたわ。ありがとう」
マーレン伯爵家、廊下__________________
「実際のところ君はエレイン嬢を疑っているの?」
「いいえ、彼女にできると思う?殺人が」
ジェシカとレイはこそこそと声を潜めるように会話した。二人だけで聞こえるように。
「僕には怪しいと、彼女はやりかねないとそう感じてしまうんだ」
「ええ、きっと初めて彼女に会った人ならそう思うでしょう。エレイン様は、なんだか不思議な力を持っているようでなんだか、恐ろしく感じてしまうもの。それに彼女は殺人を、というよりは人の積み重ねてきた理なんて、無関係な世界で生きていそうだものね」
「いや、むしろ僕には君の様な人間にさえそんな感想を抱かせる、エレイン嬢の方が酷く恐ろしく感じるよ」
「そう?けど彼女という人間は人外のような皮を被った、乙女かもしれないよ」
ジェシカは、壁に体を寄りかからせ、腕を組み長考した。何故この家は私なんかに捜査を丸投げして、市警も家族も呼ばないのだろう。それはただ、エレインという少女が快楽主義のおかしな娘からなのだろうか、それとも外へ出してはいけないような何かがあるのだろうか。
「少なくともエレイン様には、無理だよ。あの刺し傷は目の見えない人ができるような傷ではないわ。少しでも迷ったりしたらできない、大きなナイフでひと突き。目が見えない少女が、相手がどこにいるのかどこを刺すのかそんなことを考えてできた傷ではないもの。普通に考えてね。」
「迷いがないか。犯人は明確な殺意があって、かつそれを持った原因、つまり怒りとか、憎しみとかそういう負の感情を持ち得る誰かというのは間違いないね。」
「まあ、他の使用人からも話を聞いてみましょうか」
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