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目の見えない少女と従者

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「さて、彼。つまりあなたの婚約者ですけれど、いつからこの屋敷に来ているのかしら」


エレインを前にして、ジェシカはまだ熱い紅茶を手に取って質問を始めた。婚約者との関係は人によって違う。ジェシカは元婚約者との関係がすこぶる悪かったので、たまに必要な社交以外では顔を合わせないという生活をしていたが、それは他のカップルではありえないということをよく分かっていた。だからこそだ。ジェシカはエレインと婚約者の関係はどのようなものであるのか、よく知りたかった。


「確か、使用人の話では午前、それも十時頃かららしいわ。私は会っていないからわからないけれど」


レイが口を開いた。


「挨拶をしない?」


「ええ、おかしなことではないわ。今回に限っては。だって私達つい最近喧嘩をしたの」


「喧嘩?」


「ええ、ちょっとしたことでね。特に意味はないことだったのだけど。つい意地になってしまって。それで、こう別れてしまうとね」


エレインは物憂げな表情をして、マドレーヌを手に取った。


「私たちは子供のころから婚約者なの多少の無礼は気にしていないわ。だから挨拶をしないということは、特段珍しいことではないと思うの」


「そうか。婚約者について聞いてもいいかい?」


「漠然としていて難しいわね。なんというか、優しい人ではあったと思うの。目が見えないのを馬鹿にしたりしなくって、ただ事実と受け止めてくれた、少ない人よ。」


「君は彼の事を愛していた?」


「いいえ。と答えてもいいのかしら。まあ、政略結婚にはよくある話だけどね。私は彼を愛してはないの。どうしてかと聞かれても、うまくは答えられないのだけど。嫌いではなかった、ただ彼の手を取って歩くのはとても怖いことだった。私にとっては」


ジェシカは、そっと気になっていたことを聞こうと思った。ただこれは、あまり夜会などでは聞きにくいようなデリケートな話題ではあったけれど。


「婚約者の家は確か、同じ伯爵家だったわよね。」


「ええ。」


「噂で聞いた話によると、彼の家に援助していたという話は本当?」


「ええ、それが目的の結婚だもの。彼の家にお金を援助する。私は彼の家に嫁いで、彼の家の名前だけは立派な家名を継がせていただく。それに目が見えない女なんかと結婚してくれる男なんて探したって見つけるのは難しいこと。結婚してくれるというだけでありがたい話なの。」


「君のその容姿なら、結婚の誘いが止まらなそうだけど」


レイの失礼な言葉にジェシカは彼を睨むが、ふと視界に入ったキルシュナーがレイを睨み付けていることに気が付いた。


「ふふ、とても嬉しいことね。私にはあまり実感のないことだけど」


「今まで聞いた話だと、エレイン嬢の疑いは深まるばかりだ。どうかな、ジェシー」


「ここまで余裕なのは、きっと間違いなく殺人はしていないと言い切れる何かがあるのでしょう?」


「ええ、勿論」


エレインは音もたてずにカップをおいた。そこへそっとキルシュナーがきっと完璧な調合の紅茶を注ぐのだ。
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