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目の見えない少女と従者

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人がぺちゃくちゃと話し続けるのを、無視し続ける術を私はとても難しいことなのだと私はここで改めて感じていた。まるで、生まれたてのなくことしか能のない小鳥の様に、口を閉じるときは息継ぎをするのみだった。東洋の国には一人がずっと、話し続ける劇があるらしい。きっとこの目の前の男はそこで弟子にでもなったのだろう。
王様よりお似合いである。

目的地である市場に着くころには私はあきらめて口を開いていた。




「あなたよくそんなに一人で、話し続けられるわね」



「話したいことのストックは沢山あるからね。問題ないよ」



「へえ、そう」



「あ、そうだ。ここの近くへ貴婦人の間で話題の、クッキーが美味しい店があるらしい。さあ行こう」



「え、嫌よ」



「大丈夫。今日は街をぶらぶらするつもりだったんだろう」



「なぜ、今日の予定を知っているのかしら」



そう言うと、強引にレイはジェシカの手を引いた。ジェシカは我慢して口を開かなければよかったかしら。と少し反省した。けれど、あの状態でひたすら話し続けるのも、無視するのも大変だったし、何より不敬に当たる物に違いない。ただ、ジェシカはいっその事殺してくれと思うほどに、面倒に思っていた。レイは処刑だとかは無暗に言わないタイプの、王族であるので多少の無礼は無視するだろうし。無礼云々の話をすれば今までの自分の行いは、人によっては一家撲滅を選択しかねないだろう。
だからジェシカは、どうしようもないこの状況に対しての反抗として、大きな溜息を吐いたのだ。



「あら、珍しい人の声がするわ」


振り向いて。声を掛けてきた人の顔を確認すると、想像外の人で驚いた。


「久しぶりね。エレイン嬢」


エレイン・マーレン伯爵令嬢。
彼女は滅多に、社交界へ顔を出すことはない。その理由は、彼女の隣で腕を組んでいる従者。キルシュナーが理由の一つに含まれるだろう。そう彼女は、誰かに手を引かれないと歩くことすらできない。目が見えないのだ。心配性の伯爵夫妻はなるべく外へ出したがらない。

外出の際にはキルシュナーを絶対に伴わないとだめらしい。

彼女の両親が彼女をなるべく外へ出したがろうとしないのは、彼女のその容姿にあるだろう。彼女は美しい。
目が見えないという生の危うさを含めて、彼女は儚い美しさを秘めている。またその隣に立てるキルシュナーも男前なのだ。ブロンドの髪をいつでもオールバックに固めていて、その髪型さえ彼の誠実さや男らしさを表しているようなのだ。

寄り添い歩いているのを見ると、まるで禁断の恋人を眺めているようと、噂だつ。貴族は見目麗しい男女を見ると声を大にして噂をしだすのだ。


「まあ、とっても楽しそうね、ジェシカ様」



「楽しくなんかないわよ。こんな男と一緒だなんてね」


「あら、ジェシカ様の隣の殿方のお名前をお聞きしても?」


彼女は視線をどこにしていいのか分からないようにさまよわせて、レイが息を吸った方向へ首を動かした。


「レイフ・マーティンソンです。帝国から留学に来ています」


「噂の多い殿方ね。私も耳にしたことがあるくらい。お二人は婚約したとか?」


「していないわ」


「私はいつでも受け付けているのだが」



そう言って、彼は私を見る。その熱っぽい視線が嫌でそっぽをジェシカは向いた。ころころと可愛らしい笑い声が響いた。もちろんエレインの笑い声だ。



「ねえ、二人ともこれからお暇なら、私のお家へ来てくださらない?
そのお話たくさん聞きたいわ」


そう言って、エレインは微笑んだ。ジェシカには彼女が微笑み言った言葉を断ることは何故ができないのだろうと確信した。
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