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はじまりの物語

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『わたくし、今度の婚約はもっとマトモな婚約をしたいの。だからマトモである事を、アピールして欲しいわ』

前のオトコはあんなだったから、と紅茶を啜る。


『なるほど、マトモであること…ね』


マトモであることを、人に証明しようとするのは意外と難しい。
こうしていろんな書状まで用意された上で、こんな言い分は苦しかったか、とジェシカは発言を後悔した。
だから、少し訂正する事にする。





『マトモであることより、重要な事があったわ。レイ貴方、私を守れるだけの器量があるかしら』



『マトモであることの証明の方が簡単そうだ』





器量というのは曖昧でそれを証明しろと言われても、大体の人は承諾しかねるだろう。もしくは、承諾してロマンティックな世迷言をほざくか。

普通の男なら、勿論君のことを守り続けるだの、怪我ひとつさせないよ。そんな事をほざくだろうが、そんな男はジェシカにとっては論外なのだった。
だからこそ、そういう返答が返ってくるレイフの事を恋人にしたのだが。





『あの王子よりは、役に立てると思うよ。それに、結構役に立てる自信はあるんだけどね』


『なら、あと一年で私にその自信をみせてみなさいよ。私たちにはあと一年の猶予があるわ』





ジェシカはそう言うと、冷たくなった紅茶を飲み込んだ。とにかく、よく分からない理屈で一年は、期間を伸ばすことが出来たわ。よし、その間にどこかの国へ亡命しようと、ジェシカは決めた。





「おい聞いているのか!ジェシカ!」



「ええ、勿論」





全然聞いていませんでしたとは言えない。
顔を真っ赤にして、王子は続ける。





「婚約破棄だ!お前とは!」



「さようですか」



「国王直々の勅命だから、撤回もできないんだぞ」





そりゃー、そうでしょうとも。国王陛下だってあの、思い出したくない書状にサインしたのだから。






「では、これからはただクラスメイトとして仲良くして参りましょう」





婚約破棄された人間として、何を声かければ良いのかが分からなかった。




「はっ、貴様とは仲良くはしたくないがな」





激しく同意しかできませんわと、声を大にして言いたくなったが、それはある意味で侮辱だろうと思い口には出さない。
そして、この愚鈍が、何故ここでこんなことを言い出したのかを察する事となる。次に声を上げた男によって。




「ならここで、1つジェシカ様に言っておきたい事があるのだが。」





と声を上げたのは勿論レイフだった。


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