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第十四話 氷の姉弟

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 吹き荒れる魔力の渦の中、互いに硬直状態は続く。

 魔法戦は戦闘を行う者達が強者である程こういった状況が多くなる。

 魔法の中には一撃で相手を死に至らしめるものや、大地に大穴を開けるもの、果てには国一つを消滅させるものが存在する。

 だが、これらの攻撃的な魔法は絶対では無く、対応するための防御の魔法も存在する。

 この二種類の魔法による攻防戦は攻撃と防御のどちらかが相手よりも劣ってしまうと敗北の原因となる。

 また、魔法には属性によって発動スピードや、効果範囲・効果時間が異なる為、相手の属性を知るという事はそれだけで若干のアドバンテージになる。

 これらの事が要因となり、魔法戦において先手を取るという事は自分を不利な立ち位置に立たせてしまうことが多くなる。

 要するに、現在の状況というのは、互いにどう攻撃を仕掛けるか? また攻撃を仕掛けられた時はどう防御するのかをシミュレーションする時間でもある。

 だが、俺たち姉弟の扱う氷という属性は防御用の魔法が多い為、先手を取る事はまず無い。

 なので、俺たちは防御用の魔法を発動する準備をしていれば良いはずなのだが・・

 「先手必勝!! 射貫け!! 『アイシクル・アロー』」

 氷で出来た無数の矢が謎の男を貫こうとする。

 「おい、何してくれてんだ?」

 「何って・・攻撃?」

 「そうじゃねぇよ」

 「受け止めよ、『エア』」

 だが、氷の矢は相手の男を貫く事は無くそのまま地面へ落ちていく。

 「早く帰りたいからって戦闘まで焦るなよ」

 「それもそうだけど、あのままじゃ、開戦するのに丸一日かかっちゃうよ」

 「死ぬよかマシだろ?」

 「負けると思ってるの?」

 「あんまし、思ってない」

 「なら、いいじゃん!」

 そういう事では無いとおもうのだが、直感で生きている姉貴に何を言っても無駄な為、目の前の敵に集中する。

 実際の所、先程の攻撃でこちらの属性は相手にバレたが、こっちも相手が風属性を扱う魔法使いとわかったので先制攻撃としては役立ったのだが、

 「けど困ったね・・まさかの空気を操るタイプとは・・私もしかするとサポート?」

 風の上位魔法『エア』

 名称の通り効果は空気を操る魔法で、効果範囲や発動までの時間、効果継続時間が使用者によってまちまちで中々対応し辛い魔法である。

 先程の様に精度が高ければ矢を止める事も出来るのだが、基本的に実態を持たない為、他の魔法に比べると物理攻撃に対する対応力は弱い。

 しかし、だからと言って相手に容易に近づくと効果範囲内に入ってしまい、反撃を受けることになる為、物理攻撃が有効というわけでも無い。

 魔法攻撃も中途半端な威力のものは全て消されてしまう為、エアは防御面でかなり優秀な魔法である。

 そして、姉貴の放ったアイシクル・アローは姉貴の扱う魔法の中では1番の貫通力を持つ魔法。

 この瞬間、姉貴はサポートに回ることが確定した。

 「援護頼むぜ」

 「私だって近距離の魔法なら・・!」

 「それはマジでやばい時に頼むわ」

 俺は右手に剣を持ち、構えを取る。

 「今回は俺に任せろ」

 「次は貴様か」

 俺は足に魔力を纏い、大地を蹴る

 一瞬にして相手の懐に入った俺は両派の剣を一気に振り抜く。

 「フンッ!!」

 「甘いな」

 俺の斬撃は相手を切り裂く事は無く、相手の体の少し手前で、甲高い音を鳴らし防がれた。

 「・・・剣使いとは・・守りに余念がないな」

 相手と鍔迫り合いになる。

 相手の持つ剣もまた両刃の剣。

 男は一旦剣を引き再び俺と距離を取る。

 「中々な速さだ・・だが、これならどうだ? 『エア・ロック』」

 「!!」

 男が呪文を唱えると同時に俺の体が動かなくなる。

 「クッ!!」

 「ジン!! ・・・チッ、拘束魔法まで・・」

 男の発動させた魔法は対象者の付近にある空気をその場に固定し、動きを封じる魔法『エア・ロック』

 男は徐々に俺に近づいてくる。

 おそらく、男は剣で俺を殺すつもりだろう。

 エア自体は殺傷能力が弱い為相手を拘束し武器で止めを刺すのは基本的な戦法なので、当然と言えば当然だろう。

 「あれ程の大口を叩いておいて呆気ないものだな」

 「ああ、ほんと・・そう思うぜ・・」

 男が近づいてくる間、姉貴はアイシクル・アローを放ち続ける。

 しかし、全ての矢がことごとく落とされていく。

 「ほんと・・・我が姉ながら我慢が出来ないな」

 「貴様・・一体何を言っている?」

 男は俺の言葉に困惑する。

 その時だった

 「・・・・我が作るは氷の花・・咲き乱れるは百の花・・美を誇れ・・・・『百花繚乱』」

 静かな詠唱が聞こえてきたのは・・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ジンとマリアが謎の男と戦闘をしている頃、

 ヤマト達もまた、危機に瀕していた。

 「これは・・私達じゃ対応できないんじゃないかしら?」

 「ですが、どうします? 大人しく逃がしてくれるとは思いませんが・・」

 「ほんと・・異世界の神殿ってのはロクなことがないな」

 俺は神殿に突如現れたを見据える。

 「・・・・ヒヒッ♪」

 化け物と表現したその人型は身の丈以上の鎌を持ち、目は焦点が合っておらず、ピエロの様な不敵な笑みを浮かべた少女だった。

 「あれは・・完全に飲まれてる」

 「マインドコントロールってレベルならまだ良いんだけど・・」

 「ノノ的に、あれは・・魂や、体もいじられてると思う」

 「むー、ナナあの子ちょっと怖い」

 「寒気がするぜ・・」

 見るからに危険な少女は辺りを少し見渡した後、顔を俺の方に向け俺とユウナに話し掛けてくる。

 「オマエとオマエ・・異端者・・今ここでコロス」

 少女は俺とユウナを指差しそう告げた。

 次の瞬間、俺は神殿の外に吹き飛ばされた。

 「兄さん!!」

 「ヤマトさん!!」

 ユウナとルナが俺の元に駆け寄ってくる。

 何本か木を折ってようやく止まることの出来た俺はよろけながら立ち上がる。

 「・・・・いってぇー」

 「いってぇーって、大丈夫ですか!? かなり吹き飛ばされましたけど!? 内臓とかは!?」

 「兄さん!! 蘇生魔法かける?? それとも再生?? 一応回復と蘇生だけなら神法が・・」

 二人は突然の事に混乱してよくわからない事を言っている。

 内臓に関しては体の中にあるのにどう確認しろと言うのか教えて貰いたい。

 ユウナに至っては完全に俺が死んだ事になってる。

 あと、キャラクターが混乱気味。

 しかし、この二人よりも暴走してるのが・・

 「オラァ!! クソガキ!! うちの主人に何すんだゴラァ!! テメェの四肢切り落としてやろうかぁ? あぁん?」

 スクルド、お前、普段の音符と星はどこに消えた? 

 「ヘェ・・・・まだ生きてるんだ・・ヒヒッ♪ 面白いオモチャだね♪」

 少女はエリサ達には目もくれずこちらに歩いて来る。

 その姿に普段の俺は若干の恐怖を覚えるだろう。

 しかし、今はそれ以上に・・

 「・・・・少し、頭に来た」

 俺は静かに呟く

 「・・・・俺とユウナを殺すってことはお前、地球で俺達家族を殺した奴の手下って事だろ?」

 「なんのことだぁ?」

 少女はまともな思考回路をしているかどうか不明だが、おそらく本当に知らないのだろう。

 けれど・・

 「・・・・どうやら雇われてるだけか・・それじゃあ知らなくても無理はない・・だが、俺たち兄妹に殺すと告げた以上・・・・ただじゃおかない」

 「ヤマト、私が言うのもあれだけど少し落ち着いて」

 スクルドは俺の異常に冷静に戻り対応する。

 しかし、俺は・・

 「大丈夫だ・・少ししかキレてないから・・でも、みんなは避難させておいて、もしかすると・・被害が及ぶかも知れないから」

 「・・・・わかった。無理はしないでよ」

 ルナは無言で頷き、スクルドが不安そうな顔でそう言った後エリサ達を避難させに向かった。

 「私は残る」

 「わかってるよ、ユウナ。でも・・危ないと思ったらすぐに逃げろ」

 俺は指輪に魔力を込めて刀の形態に変化させる。

 「手加減・・出来ないと思うから」

 俺は異常な量の炎を刀身に纏わせる。

 俺は少しでは無く、完全にキレていた・・

 「オモチャらしく遊んでやるから、お前こそすぐに壊れるなよ」

 俺の怒りに応えるかの様に刀身は赤く燃えていた。

 


 
 

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