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第十三話 調査

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実戦演習当日
Sクラスとその他を乗せた馬車は土砂降りの雨の中、クエストの目的地へ向かっていた。

今回のクエストの目的地は【タナス村】
セントロ大陸の最西端に位置する小さな村で、港と隣接した村である。
海が近い事から漁業が盛んで、夏になると海産物目当てで他所の大陸からやってくる旅行客で賑わう日もあるそうだ。
タナスで作られた干物はセントロ大陸内なら何処にでも流通しているとても有名な干物である。
ただし、値段は高めの一枚7000G

「そういえば、今回のクエストの目的について俺知らないんだけど何が目的なの?」

「俺も知らねぇな」

「あら?言ってなかったかしら?」

「エリサ伝えなかったんですか?私は先生に伝えに言ってる間にエリサが説明してたのだと思ってました」

「エリサはその時ヤマト君をからかって遊んでたよ!」

「遊ん・・でた」

「じゃあそうみたいね♪ごめんなさい♪」

「はぁ・・相変わらずですね、エリサは。では今回のクエストについて私から説明しますね!」

「お願いね!ルナ」

「今回のクエストは村の外にある神殿の調査及び村の警備ですね。なんでも神殿付近で普段では見慣れない魔物が出現するそうです」

「でも、これくらいのクエストならSクラスが担当する事は無いんじゃねぇの?」

「アレクにしては鋭いわね」

「一言余計だよ!」

「ここからは姉さんから直々に説明を受けた私が説明するわ。
 今回のクエストが高難度になった理由の一つに情報があまりにも少ないという事があるの」

そう言ってエリサは俺たちにクエストの依頼書を見せてきた。
その紙にはただ、場所と目的しか書かれておらず、詳細な情報は何一つ書かれていなかった。

本来こういったクエストの依頼書には討伐対象に関する情報を記載する事が多いのだが、高難度のクエストには相手の実力や生態が不明である点が多い為、書かれていない事が多い。

「一つ気になったんだが、この神殿って言うのはなんだ?」

「この神殿は海の神ニョルズ様を祀っている神殿ですね!」

すると、突然馬車の窓が開き

「え~、ニョルズのとこなら私行きたくないなぁ~」

「急に窓から入って来て何を我儘言ってんだお前は」

雨でビショビショに濡れたスクルドが乱入して来た

「だって~!久しぶりにこっちに顔出したら土砂降りの雨の中でしかも、馬車の上だよ!!それは神様だって我儘言いたくなるよ~!多分この場に出て来ても言ったけど♪」

「前半の部分関係ねぇな」

「セリフが欲しかった☆」

「それならユウナは馬車に乗ってから一言も喋ってないぞ」

「それならリリアも話してないですね!」

「どうしたんだい☆お二人さん?女神様に相談してごらん♪」

すると二人は伏せていた顔を上げ

「「きもちワルイ・・」」

スクルドとルナは急いで回復の魔法をかけ始めた

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「フゥ~、ようやくついたわね~!」

「雨も止んで良かったですね!」

「バイバイ~!お馬さ~ん!」

「・・次もよろしくね」

「なぁなぁ!後で釣り行こうぜ!ヤマト!」

「楽しみだな」

長い時間狭い空間に拘束されていた為、外に出て普段よりもテンションが高いSクラスとその他と

「もう・・馬車乗りたくない・・」

「クッ・・メイドたる者がこの程度で・・」

「私・・回復魔法こんなに使ったの初めてかも・・まさかこんなに燃費の悪い魔法だったなんて・・」

普段よりもテンションがかなり低くなったSクラスと女神様はようやく目的地タナス村に着いた。

「とりあえず、村の中に入りましょうか?」

魔物の侵入を防ぐために作られた大きな門を潜るとそこには・・

「おう、遅かったな。村長に話は通してあるから宿に行くぞ」

ジン先生が釣竿を持ちながら待っていた。

「あれ?・・先生なんでいるんですか?」

「それはあれだよ・・え~と・・あ、学校の授業で命を落とす生徒がいたらマズイだろ?だから見に来たんだ」

「でも、確か今回はギルドから派遣されるんじゃ・・?」

「いや、一応来てるぜそっちからも。でも高難度クエストだからな、多い事に越したことはないだろ?」

「まぁ、そうですね」

「だとしたらそのギルドから来たって人は?」

「この方じゃないかしら?」

そう言いながらエリサが引きずって来たのはとても見覚えのある・・

「えへへ~♪もう飲めないよ~♪」

酔っ払いだった

「・・・・・何してるんですか?マリアさん?」

「ほへぇ?あれれ?なんでヤマトいんの~?」

「いや、俺からしたらなんであんたが?って感じなんですけど・・」

「それは~♪フレアにお願いして~♪こっちに派遣してもらったの~♪」

「仕事中に飲むなよ」

「あぁ~?なんだ~おまえ~?お姉ちゃんにはむかうのかぁ~?ジン~?」

「とりあえず今日はもう宿に行って休んでろ、クエストは明日からだ。もちろん今日は外出も無しだぞ」

そう言い残しジン先生は酔っ払いを抱えて自分達の宿に戻って行った

「やめろ!姉貴!頭を叩くな!!」

「ど~せ空っぽなんだからいいだろ~!」

「チッ!お前がこんなにベロベロになんなきゃ釣りに行けたのによ・・」

「あぁ?なんだって~?」

「・・・・・部屋に行くぞ」

「・・そうね、そうしましょうこれ以上はなんだか見てられないわ」

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翌日

クエストに行く準備の出来た俺達は門の前でジン先生とマリアさんを待っていた。

「昨日かなり酔ってたみたいだけど平気なのか?マリアさんは?」

「それならそれに付き合わされてたジン先生も今日は怪しいぞ?」

「ああいうのを見るとギルドの皆さんにもっとマリアさんに楽させてあげるように配慮してもらうよう促したいですね!」

「それならお姉ちゃんの改善が先ね・・」

「酔うといえばユウナちゃんとリリアちゃんはもう平気?」

「・・・大丈夫?」

「はい、お陰様で元気なものです」

「私も・・いけるよ」

「なら良かった!」

「・・・ぐっじょぶ」

話をしながら待っていると予定時間を30分オーバーで二人は合流して来た。

「すまん遅れた」

「うぅ・・頭痛い・・」

「大丈夫ですか?一人死にそうですけど?」

「自業自得だからなこんなんでも連れてくさ」

「誰か・・ウォーターを頂戴・・」

「だってさ、ルナ」

「へぇ?私紅茶しか持ってないですよ?」

「違う違う、ウォーターって言ったら水系の初歩の魔法でしょ?マリアはそれを欲しがってるのよ」

「えーと、多分違うような・・?」

「多分二日酔いだからスッキリする為に顔を洗いたいのよ」

「う~ん?そうなんですか?ならやりますけど・・」

「あんな事言っていいのか?エリサ?」

「良いのよ、あれくらいの衝撃を与えないと治りそうもないでしょ?」

「二日酔いだから衝撃じゃ治らないじゃないかな?」

「マリアさん!」

「何かしら・・ルナ?」

「歯!食いしばってください!!」

「は?」

「いきます!!『ウォーター』」

「ちょっ、それじゃあぶほぉ!!」

マリアさんは顔に直撃を受けたまま動かなくなった

「さて、行きましょ?」

「あ~あ、また仕事増えたよ・・」

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今回の目的の一つである神殿の調査の為に神殿に向かったのだが、

「これが神殿かぁー!随分とボロいな!」

「ほんとだー!オンボロ!」

「柱・・グラグラ」

「ちょっ、ノノちゃんやめましょ?崩れたら報告が大変ですから!」

「ノノ・・・報告イヤ」

双子とアレクがはしゃいでいるのを全く気にせずにエリサとユウナが何かを考えていた。

「・・・・なんだか妙ね」

「私も・・そう思う」

「どうしたんだ?二人共?」

「この神殿の神はニョルズよね?」

「そう言ってたな」

「ニョルズは・・海の神・・そして漁業の守り神でもあるの」

「そんな自分達に関係のある神の神殿をこんなになるまで手入れしないものかしら?」

「しかもこれ・・多分だけど自然に壊れたものじゃないと思う」

「言われてみればそうだな。所々綺麗な場所もあるし・・」

「う~ん、これはちょっとマズイかも」

「いつこっちに来たんだスクルド?」

「ちょっと前よ♪ってそんな事はいいの!ここがニョルズの神殿なんでしょ?だとしたら今この神殿に神格が無いのよ」

「それってやばいのか?」

「やばいも何もニョルズは下手するとやられたんじゃ無いかな?」

「それってニョルズはもういないって事か?」

「いや、仮にここで殺されたのなら神界に居るはずなんだけど・・問題はニョルズがいないって事じゃなくてニョルズがやられた事にあるのよ」

「神を殺すほどの実力がある奴が近くにいるって事でしょ?ここで異変が起き始めたのが最近だから」

「そういう事♪」

「でも何で・・ニョルズ?」

「それは海路を確保する為じゃ無いかしら?」

「ニョルズは海の神だから、海に危害が与えられる様な危険分子がいるならそれを排除しに行かないと行けないでしょ?だから悪巧みしてる奴らからしたらニョルズは邪魔なのよ。その企みが世界規模なら海路の確保は絶対必要ね」

エリサはさらっと言ったがそれは恐らくテロもしくは戦争の類いに分類される事なのだろう。

「どうやら、今回のクエスト一筋縄じゃいけないわね」

「これ・・あそこではしゃいでる人たちにも・・教える?」

「いや、今は言わない方が良いだろう。無駄に緊張させる必要もないし」

「流石はリーダー、良くわかってるわね」

「それにしてもあの二人遅いわね・・大丈夫かしら?」

「まぁ一人気絶してたしな」

俺たちは二人を待っている間も神殿の調査を続けた。

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教え子達に先に神殿に向かわせた俺は不出来な姉貴を背負って後を追っていた。
神殿までの道は足場が悪い上に小さな森になっている為思いの外時間がかかった。

「全く・・ルナも容赦が無いな」

「・・う~ん・・ここは?」

「ようやく起きたか、今は神殿に向かってるところだ」

「あれ?他の子は?」

「先に行かせたよ」

「大丈夫?あの子達だけで?」

「平気だろ?それに今はあっちの方が安全かもしれないぜ?」

「・・・なるほどね。もう下ろして良いよ」

地面に降りた姉貴は神殿の方向では無く、来た道を向き

「さて、今起きたから詳しい事は分からないけど出て来なさい。どうにも後を付けられるのは気に食わないわ!」

すると風景が歪み始めその先から人が現れた。

「・・この土地に何しに来た?」

問いかけて来たその人物の声は男性のものでとても威圧的なものだった。

「依頼されて来たのよ、調査して欲しいってね」

「・・そうか、ならば早々に立ち去るが良い」

「そうしたいのは山々なんだけどなこっちも仕事なんでね、そういう訳には行かない訳だ」

「それにどうして立ち去らなければならないのかしら?私達にはその理由が無いのだけども?」

男性と思われる人物から徐々に殺気が漏れ始める。

「・・これから我等が行うは王の悲願。この偽りの平和を破壊する為の準備。邪魔をするなら容赦無く貴様らを排除しよう」

王の悲願という限りどこかの国家の構成員なのだろうか?
現在の世界事情的にはその様な国家は存在しない筈なのだが・・

「う~ん、どう思うよ?ジン?あいつの言ってる事は正しい事だと思う?」

姉貴は敵さんの目の前でそんな質問をして来た。
今にも襲いかかって来そうな敵を目の前にしてそんな質問をする姉貴はバカなのでは無いかと思う。

「さぁ?わかんねぇよ、実際何したいのか詳しくわかんねぇし」

「偽りの平和を壊すとか言ってたよ?」

「それ聞いて姉貴はどう思ったよ?」

「嘘の平和と本当の平和って何が違うんだろうね?」

「さぁ?祝日とかじゃない?」

「そんな適当で良いの?学校の先生が?」

「いやいや、適当じゃないぜ。だって違いがそんなないからその程度の事しか変わらないって事だろ?寧ろそれすら変わらない事だってあるかもな。それでもし、そのあまり変わらない平和を壊そうっていうならそれは悪い事なんじゃない?」

「・・それでは貴様らは我等に敵対するという事だな」

「これは飽くまで俺の意見なだけで俺達の行動を決めたって訳じゃないぜ」

敵の殺気は徐々に強くなり、肌がビリビリする。

「さぁ、どうするよ姉貴?」

今だに理解が進んでいない姉貴はこちらを向いて言い放った。

「ジンが悪い事だって言うなら今ここで潰しとこうか。ジンの選択はいつも正しいからね」

「そんな恥ずかしい事よく言えるな」

「事実だからね」

「・・では、今から貴様らを殺そう」

男は一気に魔力を解放する。
魔力は男を中心に吹き荒れ、木々は揺れ、砂埃が立ち上がる。その様子はさながら嵐の中にいる様だった。

「二人で戦うのは何年ぶりかな?」

「高等部ぶりだろ?姉貴は久々の実戦だろ?戦えんの?」

「心配ご無用!普段からフレアの相手してるからね!」

「それなら安心だ、何せ怪物みたいな奴だからな」

俺は剣を、姉貴は弓を構える

「さぁ、どっからでもかかってこいよ」

「ノルニル学園最強と言われたヘイル姉弟が相手してあげる!!」

「フンッ、・・我等の覚悟・・存分に味わうが良い!!」
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