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drug5
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寝て、起きて、セックスして。疲れてまた眠る。
そんな生活が何日続いたんだろう。よく覚えてない。お腹がすいたら、デリバリーの食事をとり、身体がベタベタしてきたらお風呂に入り、それ以外はベッドにいた。
倦怠感と焦燥感、そして常に誰かに追われている恐怖がずっと付きまとっていたけれど、セックスするときだけは快感のおかげか全部忘れられた。
それに、セックスしているときの皐月と優士はいつも以上に優しかった。
「シロー、ほら、クスリ。これがないと、シローの身体辛いから」
あーんと言われるがまま口を開けば、優士がタブレットを口に放り込んでくれた。まだセックスに慣れていない僕は、このクスリを飲んで身体を弛緩させないと、二人を受け入れるのは難しいらしい。クスリを水で流しこんでから、ベッドの際に座る皐月ににじり寄る。皐月が携帯を見ながら何かしていたから、気になったんだ。
「ねえ、皐月。どうしたの?」
「あーわりい、これからシャチョーんとこ行かなきゃなんなくなったからエッチはお預けな」
「そっかあ。わかった、行ってらっしゃい」
それじゃあ、優士とふたりきりか。と、思っていたら、皐月に抱き上げられた。
「今日はおまえも行くんだよ。もちろん優士もな」
「ついに呼び出し?」
「そ。っつーわけで、服着ろな」
(ついに?)
優士の言葉にひっかかりを覚えたものの、疑問はすぐに立ち消える。
僕らは三人とも裸だったから、言われるがまま、久しぶりに服に袖を通した。ちょっと前まで、服を着るのが当たり前だったのに、なぜか今は現実感が希薄な気がする。
ピンポーン。
セックスをしていないと、よく耳に入るインターホンの音。僕の焦燥感の原因はこれだ。
「ねえ、皐月。また、チャイムの音がするよ……」
「外出んの怖いか?」
「うん……」
こくりとうなずけば、皐月が抱きしめてくれた。
「俺たちが守ってやるから」
皐月の柔らかい声が心地いい。ありがと、とつぶやいて、僕も皐月にしがみつく。そんな僕を情けないと笑うことなく、シャツを着せてくれたのは優士。やっぱり僕には皐月と優士がいないとだめだ。
「シロー、芸能人なんだからちゃんと帽子とマスクしないと」
「ん……」
皐月と優士もラフなTシャツ、ジーパンに着替え、僕と同じように帽子とマスクで顔を見えづらくした。マスコミ対策はばっちり……だけど、二人がここまで厳重に顔を隠すのって、珍しい。なんでだろう? 部屋に響くチャイムの音と関係あるのかな?
なんだかここのところ、ぼうっとしてしまって、大事なことを思い出せないでいる気がする。考えるということが、ひどくむずかしいとすら思うんだ。それでも、二人といれば何も心配はいらない。二人といられれば、僕は大丈夫。
二人に手を取られて、僕は家を出た。直後。
「UOHが出てきた!!」
「UOHさん!! お話聞かせてください!!」
「SATSUKIさん! YUSHIさん!!」
視界が白く感じるほどの光。思わず目を細めた矢先に、ぐい、と誰かに腕を引かれ、数歩そちらにたたらを踏んだ。
「UOHさん、竹松さんとのご関係を教えてください!!」
「竹松さんとはあれから会っていますか?!」
「おい、UOHに触んな!」
皐月に引っ張られ、再び僕らは手を繋ぐ。怖い。怖い。みんなが僕の名前を呼んでいる。竹松さんの名前を叫んでいる。なんだか、不思議な感覚だ。
竹松? 竹松さんとは、誰だ。竹松さんは僕の彼女だ。彼女は今、何をしているんだろう。彼女と最後に会ったのはいつだっけ? 最後に連絡を取ったのは?
なんで、僕は彼女のことを忘れていたんだろう。どうして?
紗がかかったようだった記憶が、徐々に鮮やかになってくる。そうだ、僕は竹松さんとのことを週刊誌に撮られて、記者の人に追われて、クスリを使ってるなんてことも言われて、みんなが、怖くて。家に引きこもって、皐月と優士は優しくて。二人だけが優しくて………そんな僕の耳元に囁いたのは優士。
「シロー、思い出したくないことは忘れてていいんだよ」
(思い出したくないこと?)
竹松さんとのことは思い出したくないことだったっけ? だけれど、優しい優士がそう言うんだから、もしかしたらそうなのかも。
だって、こんなに、おじさんたちに囲まれて、叫ばれて、マイクを突きつけられて、怖い。気持ち悪い。
だから僕は、皐月と優士に手を引かれるまま、無心でその場を立ち去った。
そんな生活が何日続いたんだろう。よく覚えてない。お腹がすいたら、デリバリーの食事をとり、身体がベタベタしてきたらお風呂に入り、それ以外はベッドにいた。
倦怠感と焦燥感、そして常に誰かに追われている恐怖がずっと付きまとっていたけれど、セックスするときだけは快感のおかげか全部忘れられた。
それに、セックスしているときの皐月と優士はいつも以上に優しかった。
「シロー、ほら、クスリ。これがないと、シローの身体辛いから」
あーんと言われるがまま口を開けば、優士がタブレットを口に放り込んでくれた。まだセックスに慣れていない僕は、このクスリを飲んで身体を弛緩させないと、二人を受け入れるのは難しいらしい。クスリを水で流しこんでから、ベッドの際に座る皐月ににじり寄る。皐月が携帯を見ながら何かしていたから、気になったんだ。
「ねえ、皐月。どうしたの?」
「あーわりい、これからシャチョーんとこ行かなきゃなんなくなったからエッチはお預けな」
「そっかあ。わかった、行ってらっしゃい」
それじゃあ、優士とふたりきりか。と、思っていたら、皐月に抱き上げられた。
「今日はおまえも行くんだよ。もちろん優士もな」
「ついに呼び出し?」
「そ。っつーわけで、服着ろな」
(ついに?)
優士の言葉にひっかかりを覚えたものの、疑問はすぐに立ち消える。
僕らは三人とも裸だったから、言われるがまま、久しぶりに服に袖を通した。ちょっと前まで、服を着るのが当たり前だったのに、なぜか今は現実感が希薄な気がする。
ピンポーン。
セックスをしていないと、よく耳に入るインターホンの音。僕の焦燥感の原因はこれだ。
「ねえ、皐月。また、チャイムの音がするよ……」
「外出んの怖いか?」
「うん……」
こくりとうなずけば、皐月が抱きしめてくれた。
「俺たちが守ってやるから」
皐月の柔らかい声が心地いい。ありがと、とつぶやいて、僕も皐月にしがみつく。そんな僕を情けないと笑うことなく、シャツを着せてくれたのは優士。やっぱり僕には皐月と優士がいないとだめだ。
「シロー、芸能人なんだからちゃんと帽子とマスクしないと」
「ん……」
皐月と優士もラフなTシャツ、ジーパンに着替え、僕と同じように帽子とマスクで顔を見えづらくした。マスコミ対策はばっちり……だけど、二人がここまで厳重に顔を隠すのって、珍しい。なんでだろう? 部屋に響くチャイムの音と関係あるのかな?
なんだかここのところ、ぼうっとしてしまって、大事なことを思い出せないでいる気がする。考えるということが、ひどくむずかしいとすら思うんだ。それでも、二人といれば何も心配はいらない。二人といられれば、僕は大丈夫。
二人に手を取られて、僕は家を出た。直後。
「UOHが出てきた!!」
「UOHさん!! お話聞かせてください!!」
「SATSUKIさん! YUSHIさん!!」
視界が白く感じるほどの光。思わず目を細めた矢先に、ぐい、と誰かに腕を引かれ、数歩そちらにたたらを踏んだ。
「UOHさん、竹松さんとのご関係を教えてください!!」
「竹松さんとはあれから会っていますか?!」
「おい、UOHに触んな!」
皐月に引っ張られ、再び僕らは手を繋ぐ。怖い。怖い。みんなが僕の名前を呼んでいる。竹松さんの名前を叫んでいる。なんだか、不思議な感覚だ。
竹松? 竹松さんとは、誰だ。竹松さんは僕の彼女だ。彼女は今、何をしているんだろう。彼女と最後に会ったのはいつだっけ? 最後に連絡を取ったのは?
なんで、僕は彼女のことを忘れていたんだろう。どうして?
紗がかかったようだった記憶が、徐々に鮮やかになってくる。そうだ、僕は竹松さんとのことを週刊誌に撮られて、記者の人に追われて、クスリを使ってるなんてことも言われて、みんなが、怖くて。家に引きこもって、皐月と優士は優しくて。二人だけが優しくて………そんな僕の耳元に囁いたのは優士。
「シロー、思い出したくないことは忘れてていいんだよ」
(思い出したくないこと?)
竹松さんとのことは思い出したくないことだったっけ? だけれど、優しい優士がそう言うんだから、もしかしたらそうなのかも。
だって、こんなに、おじさんたちに囲まれて、叫ばれて、マイクを突きつけられて、怖い。気持ち悪い。
だから僕は、皐月と優士に手を引かれるまま、無心でその場を立ち去った。
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