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 シローの寝顔を眺めながら、携帯をいじる。
 シローを信頼して、携帯を盗み見るなんてことはしないでいたが、その結果がこれだ。ふざけんなよ。
 竹松めいとのメールのやり取り。一緒に出かけた先の写真。着信履歴。すべてに虫酸が走る。
「皐月、今更だけど足の手当てしたほうがいいんじゃない?」
「あ? ……ああ」
 優士に声をかけられて、自分の足が傷ついていたことを思い出す。そのくらい、我を忘れていた。
 リビングの惨状のなかから包帯と消毒液を持ってきた優士は、嘆息してから小さく笑う。
「予定は狂っちゃったけど、やっとシローを抱けたね」
「ああ。一度は竹松めいにかっさらわれたけどな……あいつにはぜってえ渡さねえよ」
 今、俺がこの世で一番殺してやりたい女。まさか、あの女がここまでしゃしゃり出てくるとは思わなかった。
 あの女と俺たちだったら、シローは俺たちを取ると思っていた。だが実際はどうだ? シローはあのクソ女にたぶらかされ、いいようにされている。
 俺たちと距離をとってでも、竹松のそばにいようとした。許せなかった。だから、シローが竹松とくっつく前に、身体にわからせてやろうと思った。そのためのクスリだ。
 鳴宮に取り入るのはすげえ面倒だったけど、おかげでやっとクスリが手に入った。ゆくゆくはもちろん、身体だけじゃなく心も何もかも手に入れるが、躾も兼ねて、まずは俺たちとのセックスじゃないと満足できないようにしてやる。
 そう思っていた矢先だった。
 シローが最近にしてはやけにめずらしく、嬉しそうにしていた。嫌な予感がして、風呂に行った隙に携帯を覗き見れば、竹松からメールがきていた。
「初めてキスしました。シローくんが初めてで良かった」
 あの一文を見たときの怒りは、言葉にならない。
「なあ優士」
「なあに?」
 俺の足を膝の上に乗せ、丁寧に包帯を巻いている優士。はたから見りゃ、俺なんかとはまったく違う人種だ。穏やかそうで、いかにもオンナが好きな王子ヅラしてる。
 でも、俺は知っている。こいつは俺と同じ。シローが奪われて、はらわた煮えくり返ってるはずだ。
 このままじゃすまさねえ。俺たちのシローを返してもらうだけじゃ気がすまねえ。ぜってえ死ぬほど後悔させてやる。そのためには……。
 手にしていた携帯を、シローの寝顔に向ける。カシャカシャとシャッター音を響かせ、何枚か写真を撮った。目元は泣きすぎてちょっと腫れてるし、身体中にキスマークや噛み跡がついていて、いかにも事後っつーのがよくわかる。枕元にクスリのタブレットでも置いてやりゃ、より扇情的だ。
 それと一緒に、竹松とやりとりした内容やデートの写真を俺の携帯に送った。
「竹松のこと、週刊誌に売ってやろうぜ」
「ふふ、いいね。清純派アイドルのスキャンダルだったら、結構騒がれるんじゃない?」
「ああ、シローのクスリのこともリークして二人を追い込む」
 本当は、甘い言葉と、甘いセックスでじわじわと囲ってやろうと思っていたのに。でも、すべてシローが悪い。シローが俺たちを選ばないのが全ての元凶だ。シローは俺たちに依存して、俺たちなしでは生きられないくらいでないといけない。
 必要なデータを移し終わってから、俺は、シローの携帯から竹松のアドレスを呼び出した。
「今までいいネタ提供ありがとう。さようなら」
 それだけメールして、竹松めいを着信拒否した。もちろんデータはすべて初期化。

 数日後、シローと竹松めいの熱愛報道および、シローの薬物使用の記事が各週刊誌を騒がせた。

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