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「竹松さんには……っ、二人のこと、相談に乗ってもらってて……」
「そこから恋愛に発展したってこと? ……ありきたりだね」
 吐き捨てるように呟いた優士が、僕に覆いかぶさるようにベッドに乗り上げる。髪の毛をグシャグシャとかき回しながら、ニコリと微笑む。――あ、髪の毛を乱すのは優士が苛ついているときの、癖。
「僕らを恋愛ごっこのダシに使われるなんて心外だよ」
「ハッ、とんだ茶番だぜ。あのクソ女まじでぶっ殺してやる」
「……っ、だからっ! なんで、竹松さんを、悪く言うんだ……!」
 無遠慮に胸やお腹を撫で回す二人の手を押しのけながら、僕は叫んだ。力を込めないと、くすぐったくてムズムズする。
「あ? なんで、だと? てめぇ、こんなことされててまだ気づかねーのかよ」
「知らないふりをしてるならそれでもいいよ」
 ふふ、と笑いながら、優士が僕のTシャツをまくりあげた。そして、再び胸を撫でる。
「ここにも、ここにも、キスマーク。これは皐月がつけたんだっけ? これは、僕だよね」
 お風呂に入るたび、見ないふりをしてきた赤い痕を容赦無く指摘する優士。
 知らない。見たくない。目を背ける僕を凶悪な視線で見下ろすのは皐月だ。
「胸触られて感じてんだろ」
「……ッッ!! ちがっ」
「違うか?」
「んっ!!」
 きゅっと乳首をつねられて息を呑む。
 これまでは「寝ていたから、気づかなかった」けれど、今、この状況は………。明るい照明のもと、ぎらつく瞳で僕を見下ろす皐月と優士は、僕の見てきた二人じゃない。
「やだ、やだ……」
 なんだかわからないまま、首を振る。さっきから二人が怖くて、二人が何を言ってるのか全然わからない。………違う、わからないんじゃない。気づきたくなかっただけだ。
「愛してる」
 二人が囁く言葉の意味を。この関係性が崩れる音を。
 ぎらつく瞳の奥に見える欲は、僕には馴染みのない荒々しいもので、それが、こわい。
(なんで? どうして?)
 僕は男で、二人の後輩で、二人はとってもかっこよくて、女の子のファンがいっぱいいて。なのに、どうしてそんな目を向けるのが僕なの? 女の子と遊べないから、代わりに僕で性欲処理をしていたんでしょう? そういうのって良くないし、僕をないがしろにされているようで悲しかった。だけど、実はその行為に気持ちがあったなんて……信じられないし、どう受け止めていいのかわからない。
 皐月の手が、胸から頭に移動する。ポンポンッと、こんなときだけ優しく叩かれる。ずるい。
「おまえは俺たちことだけ考えてろ。それ以外はなんもいらねぇよ」
 あやすようなそれに、一瞬何も考えず流されてしまいたくなった。でも。僕はかぶりを振る。そんなことできない。
「ぼ、僕には……だっ、だ、だめだっ!」
 たとえ、僕と皐月、優士の仲がこじれたとしても、僕は二人を友達として見ているし、何より竹松さんがいるんだ。
 ふるふると首を振り続ける僕に呆れたのか、しばらくして二人がため息をつきながらベッドから立ち上がった。そんな気配を感じながらも、僕は顔を見れなくて、ただ、繰り返し首を振る。
 すると、優士のフフッと笑う声と共に、冷たい何かが頬に当たった。
 薄く目を開ける。優士の持つそれは小さな瓶で、中にタブレットが入っていた。
「そんなこと言うなら、しょうがないよね。とっておきのモノをあげるよ」
「このクスリで、ケツだけでイかせてやるよ。竹松なんかとのセックスじゃ満足できなくなんぜ? そしたらおまえ、あの女と付き合い続けらねーだろーなあ」
 ぎゅうっと頬に押し付けられる、クスリ。それが病院でもらうような薬ではないだろうということは想像がつく。週刊誌の記事が脳裏をかすめた。
「や、やめ、やだ……っ」
「やだやだうっせえな。飲めっつの」
 ペットボトルから水をあおった皐月がクスリを数粒一緒に含み、僕の口へ流し込む。強い力でベッドに押し付けられて、抵抗もろくにできないまま、僕はそれを嚥下した。
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