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gossip
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ファーストフード店で遅い昼食。
ぼんやり外の景色を見ていたら、道路向こうのスタジオから女子たちが出てきた。みんな楽しそうに話すなか、一人そこから離れて小走りで信号を渡るのは竹松さんだ。
彼女の姿が窓のフレームから消えたと思ったらすぐに、後ろから声がした。
「お待たせしました」
「走らせちゃったみたいですみません」
「あれ……見えてました?」
ふふ、と笑って、席の前の窓から下を見下ろす竹松さん。道路にはまだ竹松さんの友達がいて、手を振っている。
「わざわざ呼びだしちゃって、……すみません」
「なんで謝るんですか」
竹松さんはまた笑って荷物を置き、「わたしもUOHさんとお話したいと思ってたんですから」と言ってくれた。
「それじゃあ、飲み物買ってきますね」
「あ、はい」
お財布だけ持った竹松さんはレジのある一階まで降りて行った。すると、周りが少しざわつく。
「あれって竹松めいだよな?」
「うん、やっぱかわいかったねー」
「一緒にいるの誰?」
(ああ、噂にならないといいな……)
竹松さんに、スタジオ近くのファーストフード店ならよく芸能人が来るから騒ぎになりにくいと教えてもらって、このお店に決めたんだけど。やっぱり竹松さんは有名だから、どこでも目立っちゃうな。
それにしても。竹松さんを前にすると、ちょっと緊張する。話しやすくて、落ち着くんだけど、でも緊張するんだ。特に今日は、二人のこと相談するつもりだから。どうやって切り出せばいいかな………?
――そんな心配は杞憂だった。
席についた竹松さんは、僕がまごついてるのを察して、何か言うより先にカバンから何冊か雑誌を取り出したのだ。
「お二人のことで相談って……あの、こういうこと、ですよね?」
折り目をつけられたページには、大きな見出しで「トリップしながらのHはやめられません」「夜中のクラブで酒池肉林」「鳴宮一派乱交パーティ実録」なんて言葉が踊っている。
(えっ……?!)
最近帰ってこないことが多かったから、夜遊びをしてるんだろうっていうのはわかってたけど……こんな記事になってたなんて。友達の家やカラオケでオールとか、未成年なのにこっそりお酒飲んじゃったとか、そういうことを想像していたんだけど、僕の思っていたよりもずっと派手なかんじで、薬とか、クラブとか……うううう、み、見てられないよっ。し、しかも、女の人といっぱい遊んでるみたいだ……。
(だったらなんで、いまだに僕でストレス発散するんだろう)
帰って来るなり、寝てる僕の身体をいじるのは未だに続いてる。
二人の写真を目にするのはなんとなく気が引けて、目の前のジュースを見つめたままグルグル考える。それに何より、二人は……大丈夫? こんな記事になって……心配だよ。
「UOHさん? 雑誌見るのは初めてでしたか……?」
「は、はい……っ、なんか、ちょっと、ショックで……」
ハッと顔をあげたら、竹松さんの申し訳なさそうな表情。
「ごめんなさい。考えなしに見せちゃって」
「いっ、いえ……知れて、良かったです」
独りでぐるぐる悩んでいたら、こういう記事のこと知らないままだった。僕らの言動が週刊誌に載るんだってこと、改めて実感した。そして、二人が僕の想像よりずっと遠いところにいたことも。
知れて良かった。そう思いながらもやっぱりへこんでる僕を見兼ねて、竹松さんは慌てたように付け足す。
「あ、それに、お二人に確認してみないと、この記事がどこまで本当かもわからないですしね!!」
(そっか)
二人の言葉を聞いてなかった。こんな記事、全部でっちあげかもしれないんだから。
避けてばかりじゃダメだ。
二人が帰ってこなかった晩も、そう思ったばかりなのに。僕は一人じゃそんなこともすぐに忘れてしまうんだ。
やっぱり、竹松さんに相談して良かった。
それから僕らは、どうやって二人に切り出すか、いろいろと作戦を練ったのだった。
ぼんやり外の景色を見ていたら、道路向こうのスタジオから女子たちが出てきた。みんな楽しそうに話すなか、一人そこから離れて小走りで信号を渡るのは竹松さんだ。
彼女の姿が窓のフレームから消えたと思ったらすぐに、後ろから声がした。
「お待たせしました」
「走らせちゃったみたいですみません」
「あれ……見えてました?」
ふふ、と笑って、席の前の窓から下を見下ろす竹松さん。道路にはまだ竹松さんの友達がいて、手を振っている。
「わざわざ呼びだしちゃって、……すみません」
「なんで謝るんですか」
竹松さんはまた笑って荷物を置き、「わたしもUOHさんとお話したいと思ってたんですから」と言ってくれた。
「それじゃあ、飲み物買ってきますね」
「あ、はい」
お財布だけ持った竹松さんはレジのある一階まで降りて行った。すると、周りが少しざわつく。
「あれって竹松めいだよな?」
「うん、やっぱかわいかったねー」
「一緒にいるの誰?」
(ああ、噂にならないといいな……)
竹松さんに、スタジオ近くのファーストフード店ならよく芸能人が来るから騒ぎになりにくいと教えてもらって、このお店に決めたんだけど。やっぱり竹松さんは有名だから、どこでも目立っちゃうな。
それにしても。竹松さんを前にすると、ちょっと緊張する。話しやすくて、落ち着くんだけど、でも緊張するんだ。特に今日は、二人のこと相談するつもりだから。どうやって切り出せばいいかな………?
――そんな心配は杞憂だった。
席についた竹松さんは、僕がまごついてるのを察して、何か言うより先にカバンから何冊か雑誌を取り出したのだ。
「お二人のことで相談って……あの、こういうこと、ですよね?」
折り目をつけられたページには、大きな見出しで「トリップしながらのHはやめられません」「夜中のクラブで酒池肉林」「鳴宮一派乱交パーティ実録」なんて言葉が踊っている。
(えっ……?!)
最近帰ってこないことが多かったから、夜遊びをしてるんだろうっていうのはわかってたけど……こんな記事になってたなんて。友達の家やカラオケでオールとか、未成年なのにこっそりお酒飲んじゃったとか、そういうことを想像していたんだけど、僕の思っていたよりもずっと派手なかんじで、薬とか、クラブとか……うううう、み、見てられないよっ。し、しかも、女の人といっぱい遊んでるみたいだ……。
(だったらなんで、いまだに僕でストレス発散するんだろう)
帰って来るなり、寝てる僕の身体をいじるのは未だに続いてる。
二人の写真を目にするのはなんとなく気が引けて、目の前のジュースを見つめたままグルグル考える。それに何より、二人は……大丈夫? こんな記事になって……心配だよ。
「UOHさん? 雑誌見るのは初めてでしたか……?」
「は、はい……っ、なんか、ちょっと、ショックで……」
ハッと顔をあげたら、竹松さんの申し訳なさそうな表情。
「ごめんなさい。考えなしに見せちゃって」
「いっ、いえ……知れて、良かったです」
独りでぐるぐる悩んでいたら、こういう記事のこと知らないままだった。僕らの言動が週刊誌に載るんだってこと、改めて実感した。そして、二人が僕の想像よりずっと遠いところにいたことも。
知れて良かった。そう思いながらもやっぱりへこんでる僕を見兼ねて、竹松さんは慌てたように付け足す。
「あ、それに、お二人に確認してみないと、この記事がどこまで本当かもわからないですしね!!」
(そっか)
二人の言葉を聞いてなかった。こんな記事、全部でっちあげかもしれないんだから。
避けてばかりじゃダメだ。
二人が帰ってこなかった晩も、そう思ったばかりなのに。僕は一人じゃそんなこともすぐに忘れてしまうんだ。
やっぱり、竹松さんに相談して良かった。
それから僕らは、どうやって二人に切り出すか、いろいろと作戦を練ったのだった。
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