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Sandwich
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リビングでテレビを見ていたらインターホンが鳴った。時計を見ると一時過ぎ。ということはシローと優士だろう。今日はうちで新曲の打ち合わせをすることになっているからだ。
「あたし出るよお」
俺が立ちあがる前にインターホンの受話器を取った美月は、話し終わるとなぜか俺の向かいに座った。
「おまえ出かけるんだろ。さっさと行けよ」
ついさっきまで遅刻するって暴れながら化粧したり髪の毛巻いたりしてたくせに。
「やだよお。シローくんたち来るならあたしも会いたい」
美月は俺の姉だ。短大に通いながら読者モデルの仕事をしてる。世間的に見れば美人らしーが、自分に似た顔で唇尖らせて甘えた表情されても腹立つだけだ。しかもこいつは、そういう動作がすべて確信犯なのだ。顔だけのクソ女に、シローを会わせるわけねえだろ。
「会わせねえから早く出てけ。つーかおまえに会わせねえようにこの時間にしたんだっつーの」
もともと美月は十一時にうちを出てくって言ってたんだ。遅刻魔なのは知ってるけど、だとしてもなんでこんな時間まで家にいんだよ。時間にルーズすぎんだろ。
「やだやだ、会いたい―!」
「出かける予定はどーすんだよ」
「時間遅らせてもらうから大丈夫。ケンちゃん優しいもん」
ケンちゃんとは、今の彼氏らしい。
美月は実家から二時間かかる短大を受験した。家から遠ければ一人暮らしをさせてもらえると踏んだ結果だ。親には「自立するために家を出たい」だの調子のいいこと言ってたが、実際は男を連れ込んだり夜遊びしたりするためだ。
両親は美月を溺愛してるから、女子の一人暮らしは危ないと言ってそれを許さなかった。そこで妥協案として、俺が美月と二人暮らしをすることになった。
そのころには俺は美浜高に通うのが決まっていたから、実家から徒歩二十分の高校にわざわざ電車で五十分もかけて通うことになった。(実家から出れたのは良かったけど)
「ケンちゃんとはもともと何時の待ち合わせだったんだよ。‥…おまえみてえな女、俺だったらぜってえ無理」
「かわいくってちょっとえっちでわがままな女の子、男はみんな好きなはずだけどなあ」
サマーニットのワンピースは確かに男ウケがいいだろう。適度に尻軽そうな感じだし、男が切れてないから、美月の言うようにモテてるのも本当なんだろう。けど、こいつのわがままは度を過ぎてんだよ。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
「いらっしゃーい!」
俺が制止する前に、美月は玄関に駈け出して行った。
「あっ、おまえ!」
「お久しぶりです、美月さん」
「お、おじゃまします」
慌ててあとを追うと、美月が(優士を押しのけて)シローを抱きしめていた。
「もうシローくんってばほんとカワイイ!」
(これだから会わせたくなかったんだっつーの!)
美月はシローが大のお気に入りだ。扱いとしては犬猫をかわいがってるような感じだけれど、とにかくスキンシップが激しいからたまったもんじゃねえ。
「おい、てめえいい加減にしろよ!」
パニックになって固まるシローから美月を引きはがす。そして、美月のカバンとケータイを押しつけた。
「さっさと出てけ」
それでも、シローたちにあがるように伝えると、当然のように美月もくっついて来た。
そして今、リビングで美月の作ったホットサンドを囲んでいる。美月は最近ホットサンドにハマってて、何かと作りたがるのだ。シローたちにそれを食わせたら出てくって言うから、とりあえず食うしかない。言い出したら聞かねえから。
シローは美月みたいな派手な女が苦手だから、少しうつむきがちに食っている。
「おいしいですね、これ」
「でしょお? 決め手はコンビーフをオリーブオイルで炒めたことでえす」
優士の言葉に気をよくした美月は、ニヤニヤしながらシローの顔をのぞきこんだ。シローは肩を震わせる。
「シローくんとどっちがおいしいかなあ」
「おい」
「シローくんはサンドイッチで言ったらコンビーフだよねえ。それで、皐月と優士くんはパン!」
美月がまた意味わかんねえこと言い始めた。それに反応したのは意外にもシローだった。
「ぼ、僕はドラムだから、縁の下の力持ちってことで、僕こそパンです」
「えー、絶対シローくんはコンビーフだってえ」
そこに優士が加わる。
「僕たちはパンだよ。シローがいなきゃサンドイッチとして成り立たないからね」
そういう比喩表現なら、確かに俺らはパンだ。シローだけがそれをわかっていない。俺も優士もシローのおかげでサンドイッチになれてる。シローがいなくちゃそもそも成り立ってないんだ。
「あたしもパンになってシローくんのことぎゅうって抱きしめたーい」
「おまえなんかにやるかよ」
俺と優士で十分だ。俺たち二人でさっさと食っちまいたい。
当の本人は自分がコンビーフの自覚もないまま、むしゃむしゃとホットサンドを完食していた。
「あたし出るよお」
俺が立ちあがる前にインターホンの受話器を取った美月は、話し終わるとなぜか俺の向かいに座った。
「おまえ出かけるんだろ。さっさと行けよ」
ついさっきまで遅刻するって暴れながら化粧したり髪の毛巻いたりしてたくせに。
「やだよお。シローくんたち来るならあたしも会いたい」
美月は俺の姉だ。短大に通いながら読者モデルの仕事をしてる。世間的に見れば美人らしーが、自分に似た顔で唇尖らせて甘えた表情されても腹立つだけだ。しかもこいつは、そういう動作がすべて確信犯なのだ。顔だけのクソ女に、シローを会わせるわけねえだろ。
「会わせねえから早く出てけ。つーかおまえに会わせねえようにこの時間にしたんだっつーの」
もともと美月は十一時にうちを出てくって言ってたんだ。遅刻魔なのは知ってるけど、だとしてもなんでこんな時間まで家にいんだよ。時間にルーズすぎんだろ。
「やだやだ、会いたい―!」
「出かける予定はどーすんだよ」
「時間遅らせてもらうから大丈夫。ケンちゃん優しいもん」
ケンちゃんとは、今の彼氏らしい。
美月は実家から二時間かかる短大を受験した。家から遠ければ一人暮らしをさせてもらえると踏んだ結果だ。親には「自立するために家を出たい」だの調子のいいこと言ってたが、実際は男を連れ込んだり夜遊びしたりするためだ。
両親は美月を溺愛してるから、女子の一人暮らしは危ないと言ってそれを許さなかった。そこで妥協案として、俺が美月と二人暮らしをすることになった。
そのころには俺は美浜高に通うのが決まっていたから、実家から徒歩二十分の高校にわざわざ電車で五十分もかけて通うことになった。(実家から出れたのは良かったけど)
「ケンちゃんとはもともと何時の待ち合わせだったんだよ。‥…おまえみてえな女、俺だったらぜってえ無理」
「かわいくってちょっとえっちでわがままな女の子、男はみんな好きなはずだけどなあ」
サマーニットのワンピースは確かに男ウケがいいだろう。適度に尻軽そうな感じだし、男が切れてないから、美月の言うようにモテてるのも本当なんだろう。けど、こいつのわがままは度を過ぎてんだよ。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
「いらっしゃーい!」
俺が制止する前に、美月は玄関に駈け出して行った。
「あっ、おまえ!」
「お久しぶりです、美月さん」
「お、おじゃまします」
慌ててあとを追うと、美月が(優士を押しのけて)シローを抱きしめていた。
「もうシローくんってばほんとカワイイ!」
(これだから会わせたくなかったんだっつーの!)
美月はシローが大のお気に入りだ。扱いとしては犬猫をかわいがってるような感じだけれど、とにかくスキンシップが激しいからたまったもんじゃねえ。
「おい、てめえいい加減にしろよ!」
パニックになって固まるシローから美月を引きはがす。そして、美月のカバンとケータイを押しつけた。
「さっさと出てけ」
それでも、シローたちにあがるように伝えると、当然のように美月もくっついて来た。
そして今、リビングで美月の作ったホットサンドを囲んでいる。美月は最近ホットサンドにハマってて、何かと作りたがるのだ。シローたちにそれを食わせたら出てくって言うから、とりあえず食うしかない。言い出したら聞かねえから。
シローは美月みたいな派手な女が苦手だから、少しうつむきがちに食っている。
「おいしいですね、これ」
「でしょお? 決め手はコンビーフをオリーブオイルで炒めたことでえす」
優士の言葉に気をよくした美月は、ニヤニヤしながらシローの顔をのぞきこんだ。シローは肩を震わせる。
「シローくんとどっちがおいしいかなあ」
「おい」
「シローくんはサンドイッチで言ったらコンビーフだよねえ。それで、皐月と優士くんはパン!」
美月がまた意味わかんねえこと言い始めた。それに反応したのは意外にもシローだった。
「ぼ、僕はドラムだから、縁の下の力持ちってことで、僕こそパンです」
「えー、絶対シローくんはコンビーフだってえ」
そこに優士が加わる。
「僕たちはパンだよ。シローがいなきゃサンドイッチとして成り立たないからね」
そういう比喩表現なら、確かに俺らはパンだ。シローだけがそれをわかっていない。俺も優士もシローのおかげでサンドイッチになれてる。シローがいなくちゃそもそも成り立ってないんだ。
「あたしもパンになってシローくんのことぎゅうって抱きしめたーい」
「おまえなんかにやるかよ」
俺と優士で十分だ。俺たち二人でさっさと食っちまいたい。
当の本人は自分がコンビーフの自覚もないまま、むしゃむしゃとホットサンドを完食していた。
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