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 下駄箱で会った皐月と二人、連れ立って部室まで向かう。部室のある階まで上がると、バスドラの重低音が廊下に響いていた。
「あれ? シロー早いね」
「あいつメシ食ったのか?」
 皐月は寝坊したからと、コンビニで買った肉まんを頬張りながらそんなことを言う。彼のぶらさげるコンビニの袋にはもう一個の肉まんと、アイスが三つ。
 この間一緒に帰ったとき、餡まんはあまり好きじゃないと言っていたから、肉まんを選んだ。アイスも、このあいだ嬉しそうに食べていたソフトクリームだ。
 この数ヶ月、こうやって餌付けしてる甲斐あって、やっと、シローが自分から話しかけてくれるようになった。
「おーおー練習熱心だなおい」
 部室の扉を開ける。するとそこには、ドラムを叩くシローだけでなく、美輪さんと庄司さんがいた。しかも、庄司さんはシローの後ろに椅子を持って来て、背後から包むようにしている。
「あ?」
「なにしてるの?」
「あーゆちゆちさきさき! おっひさー!」
「おお、おまえら久しぶりだな」
 僕らを見た先輩方はそんなふうに挨拶してくるけど、どうでもいい。それよりも。
「何してるのかって聞いてるんですけど」
 庄司さんに抱きしめられる形になってるシローは、どこか照れ臭そうだし。
 面白くない。
「何ってドラム教えてんだよ。見りゃわかんだろ」
「離れろ、このゴリラ」
「あぁ? てめ、先輩に向かってゴリラたぁいい度胸だな」
 皐月は庄司さんの言葉なんて耳を貸さずに、庄司さんの腕を掴む。
「わざわざ手取り腰取り教える必要ねえだろ。このヘンタイ」
「誰がヘンタイだよ。相変わらず口悪ぃ奴。かわいくねえな」
「かわいくなくて結構です。庄司さんに言われても別に嬉しくないですし」
「それじゃあ俺が言ったげるよー! ゆちゆちかンわいー!」
「気持ち悪いです」
 そんな僕らのやり取りを、シローは困った顔でうかがっている。と、美輪さんが皐月の持っている袋に気づいて騒ぎ出した。
「あー! アイス! 肉まん! ドラム教えてあげたお礼?!」
「あぁ? これは俺らとシローで食うんだよ。あんたらはとっとと帰れ」
 シッシッと皐月に邪険に扱われても堪えない美輪さんは本当にめんどくさい。大体美輪さんはボーカルなんだから何も教えてないだろうに。
 それに、引っ込み思案なシローが先輩たちに話しかけられるわけがない。どうせ庄司さんのおせっかいでドラムを教わるハメになっただけだろう。
 そのとき、昼休みが終わるチャイムが響いた。
「やべ、補講行かなきゃだわ。またなんかあったらいつでも来いよ! つか、三年の教室来づらいだろ? 今度からはメールとかで連絡してくれりゃいーから! んじゃな!」
 庄司さんが慌てたように立ち上がり、よれよれのカバンを持って部室を出て行った。それを追うように、美輪さんもヘラヘラ笑いながら去っていく。
(ん?)
 庄司さんの言い方に引っかかるものを覚えて、シローに視線をやる。皐月も怪訝そうな顔してシローを見ていた。
「おまえ、三年の教室まで行ったの?」
「緊張しましたけど、庄司先輩がいるって聞いたので……!」
  (へえ、庄司さんに憧れてるとは言ってたけど……)
 面白くない。
「ったく、庄司さん何出しゃばってんだよ」
「まったくだね。頭悪いんだから勉強してればいいのに」
 ため息交じりにつぶやく。シローは何か言いたそうだったけど、何も言わなかった。
 ――そう、何も言わなかったんだ。

 僕らは昔から何も変わっちゃいない。シローに近づくものは、誰であれいい気はしない。シローが僕らの絶対になった日から、大切なのはシロー、君だけなんだよ。
 だからもし、シローが現状を憂いているのだとしたら、それは君が変わったせい。どうしてあの女のことはそんなにかばうの?
(外堀を埋めるのはもう疲れた。早くシロー、君が欲しい)
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