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envy

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 机の上に置いてあった『amam』を手に取る。
 三号連続3moon特集、その第一弾としてシローが単独で取材されたものだ。その見本誌をもらったと言って、食後にシローが見せてくれたんだ。
「すごく緊張したんだよ。……いつも優士と皐月が一緒だったから……、この撮影のあとも何回かやったけど、でも、やっぱり、一人の仕事はまだ苦手だよ」
 困った顔で笑うシローに、向いに座る僕は深くうなずいていた。
「芸能界って特殊だから。一人じゃ緊張するのも無理ないよ」
「まだ、っつーか、無理に平気になる必要もねーだろ。俺らの本業は演奏することであって、被写体でも、うまく話すことでもねえんだからよ」
 僕はともかく、皐月にそうフォローされたのが意外だったのか、シローは驚いた顔をしていた。だけどすぐに、太目の眉をへにゃりと垂れ下げて、嬉しそうに笑った。
「うん、あの、慰めてくれてありがと」
 別に慰めたわけではない。
 シローには孤立していてほしいんだ。
 こんなことを知ったら、きっとシローは傷つくだろうな。だけど、独りの仕事はもう嫌だって思えばいい。僕らと一緒が良いって。そう思って送り出したんだ。なのに。
「だけどね、この日、竹松さんに入口教えてもらったから、遅刻しなくてすんだんだ。このあいだも、竹松さんとたまたま会って、お話したんだよ。知り合いに会えて、っていうか、彼女すごくいい人だったから、雑談とかしてたら緊張しなくなって、撮影うまくいったんだ!」
 独りでもなんとかやれたんだよ、っていう報告のつもりだったんだろうけど、僕も皐月も、シローの笑顔に一瞬顔がこわばった。
(竹松さん?)
 竹松めい、か。覚えてる。シローにしては珍しく、最初からあまり人見知りしないで話ができていた、グラビアアイドルの女だ。いつの間に接触してたんだろう。雑誌の撮影からもう半月は経つけど初耳だ。隠してたのかな? でも、だったら今どうしてここで言う必要がある? 特にやましいこともなかったから話さなかった?
 どちらにせよ、シローにつく虫はすべて悪いモノに決まっている。同じように判断したであろう皐月が寝そべっていた身体を起こして、シローから雑誌を取り上げた。
「どんな顔してんだ、そのビッチ」
「なんでそんな風に言うの……! み、見せないよ!」
 皐月は竹松さんの顔を覚えてもいなかったらしい。この間共演したことを教えたら「ああ、アイツか」と鼻を鳴らした。
「やめとけよあんな女。グラドルなんてろくなヤツがいねえだろ」
「僕が言うのもなんだけど……、僕のファンって言ってたよね? シロー、利用されてるのかもよ」
 皐月の暴言に便乗する形で口車にのせようとしたのだけれど、僕らのこの発言が、初めてと言っていいくらい珍しく、シローの怒りに触れてしまったらしい。
「ふっ二人とも竹松さんのこと知らないのにヒドイこと言わないで!」
 そう言って僕らに背を向け、大股でベッドにもぐりこんだシローも、今は寝息を立てている。(ワンルームにして正解だったな、駆け込み場所が目の届く範囲だからラクだ)
 皐月はクソ女のせいで余計な面倒になったといたくご立腹で、苛立ちのままに家を出て行った。
 取り残された雑誌をぱらぱらと開けば、まんなかくらいに竹松めいの記事はあった。
(……ふーん)
 男受けが良さそうな、薄化粧、色白、黒髪。目はパッチリしていて、少し垢抜けていなくて、胸が大きい。恥ずかしそうにややうつむきがちなショット。カメラ目線で、控えめに笑っているショット。
(シローはこういうのが好きなのか)
 確かに派手好きではないからね。女の人に限らず、僕らみたいなタイプとつるむことだって意外だっただろう。
 グシャッ。
 我に返って手元を見れば、めくろうとしていたページが握りつぶされていた。
(あーあ、やっちゃったな)
 なんて言い訳しよう。
 まだもう少し、シローを囲うには準備がいるから、これまでどおりの僕を演じないと。
(だけどシロー、僕の、僕らのはらわたは煮えくり返りそうだよ)
 シローが僕ら以外をかばうなんて、許せない。シローが笑いかけていい相手も、シローが安心できる場所も、全部僕ら以外であってはいけないんだから。
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