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dream

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「ラストは、『Peace』!」
 皐月が曲名を叫んで、ギターを鳴らした。ディレイをたっぷりかけ、残響感を生み出す。五小節のち、休符、余韻――。そしてふたたび、ギター。徐々にテンポアップ。また止まる。いつ踊りだそうか迷っているみたいに。
 そこにベースの柔らかい音が混じる。
 確かな強さで包み込むように、バスドラでビートを刻む。
 穏やかで明るくてまっすぐな曲。歌詞はないけど、音すべてがタイトルの意味を訴えるようにライブハウスに鳴り響く。
 踊る観客。野次にも似た叫び。
 モッシュの波に揺れる顔はどれも、満面の笑みで。
 それを見た僕は、楽しくなってしまってついついテンポを乱してしまったけれど、それでも、楽しくて、楽しくて。
 きっとあとでダメ出しされるんだろうけど、今は優士も皐月も楽しそうに弾いてるから、いいんだ。
 会場の一体感が心地よくて、僕は――

 はっと目が覚めて、夢だと気づく。
 男子の歓声なんて、ここのところ随分と聞いてなかったのに、夢のなかではそんなことすっかり忘れてた。
 デビューする前は、どちらかといえば男子のほうがライブによく来てくれていたんだけどな。ボーカルがいない分、音作りとか演奏のしかた、技術、そういうところがよく伝わるのがインストの醍醐味で、そういう部分をよく見てくれるのが男の人のほうが多かったんだ。(部活でも、音作りにこだわるのは男子のほうが多かった気がする)
(――なんて、僕が昔を懐かしむ資格はないんだ)
 皐月も優士も、夢のなかみたいな笑顔で演奏することはなくなった。義務的に、作曲家からもらった曲を演奏して、作詞家からもらった歌詞を叫ぶ。
 でも、それは、僕がバンドを続けることをお父さんに認めて欲しくてデビューしたがったせいだ。
『太鼓なんて叩いて何になるんだ?! そんな部活さっさと辞めてさっさと勉強して少しでもマシな大学に行け!!』
 まだ家を出る前、そう言って参考書を投げつけられたことを思い出す。そんなことはしょっちゅうだった。バンドを認めてもらえないことが悲しくて、どうやったらわかってもらえるんだろうって、ずっと考えてた。
 そんなときにデビューの話が来たから。今までのようにやりたい曲ができなくなるってことを深く考えることもなく、ただ、デビューしてバンドでお金を稼げるようになったら、お父さんにわかってもらえるってそればっかり考えて、デビューを望んでしまったんだ。
 皐月も優士も、女子の歓声に囲まれる音楽に苛々してる。
 3moonは今、僕のエゴのために続いてるだけ。
 僕のために、二人が楽器を弾いてくれてるんだ。
 優士と皐月には本当に感謝している。だから、昔を恋しがる資格が、僕にはない。
 せめて、今の3moonをしっかり続けていくことが、二人への報いだと思うから。
 寝起きの頭を左右に振りかぶって、僕は夢を吹き飛ばした。
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