sandwich

文字の大きさ
上 下
22 / 47

dinner3

しおりを挟む
 社長に連れて来られたのは、知り合いがやっているという個人経営の洋食屋。料亭かクラブみたいにギラギラしてるところへ案内されると思っていたので、とりあえず安心した。
「さあっ、何頼む? あたしのオススメはハンバーグ」
 席についたところで社長がメニューを広げる。
「俺はスパゲッティー」
「じゃあ僕はドリア」
 皐月共々、ろくにメニューも見ず、さっさと自分が食べたいものを告げれば、ナカさんは社長おすすめのハンバーグを選んだ。きっと、社長に気を遣ったんだろう。
 社長はもちろんハンバーグにすると意気揚々で、ともすればシローだけが決まらずにいた。それに気づいたシローは慌てて「あっ、そ、それじゃあ僕もハンバーグでっ」そう言ってメニューを閉じる。
 変に注目を浴びるのが苦手だから、とりあえずで選んでしまったみたいだ。
(さっきまで見てたのは……オムライスか)
 それじゃあ、明日のお弁当にはオムライスを作ってあげよう。そんなことを考えながらシローを眺めていたら目が合う。
 社長の隣で落ち着かないのか、妙に視線がさまよっている。それが、昔妹が飼っていたハムスターを思い出させた。
 あんなふうにゲージにいれて、好きなときに撫でたりおやつをあげたりすることができるなら、なんの苦労もないんだけどな。たまに噛まれるくらい笑って許してあげられるのに。
 シローは噛むこともせず、いつのまにか消えてしまいそうな危うさがあるから、僕らが堅いゲージを作るしかないんだ。
 そのゲージのなかで、ただ向日葵の種をあげる。肥満になって動きが鈍くなってから、君を抱き上げ、鼻先にキスするよ。
 目下、シローに微笑みかければ、シローは相変わらず警戒心のない顔で口の端を持ち上げた。
 それから、無意識なのか気づけば僕を見ている。覗き込む前に視線はそれていくのだけれど……。
 シローを観察していたら、社長に足を蹴られた。
「んもう、アタシの話聞いてたー?!」
「聞いてましたよ、雑誌の取材でしょう?」
「んふふ、優士ったら要領がいいんだから。そうそ、取材。ソロで一人ずつね」
 肘をついて、僕と皐月に向かってニッコリ笑みを浮かべる社長。なんだかんだ、やり手だな、と思う。
 一般にはそこまでメジャーじゃないものの、業界でうちの事務所、というか、数年前社長に就任した彼女の評価は高い。
 小さな事務所なのに、僕らのメディア露出が次々に増えてゆくのは、ひとえに彼女が奔走したからなのだ。
 僕個人としては特に嬉しくないけれど、3moonが売れるのは助かる。
「シローからなのよ。気合いいれていきなさい!!」
 社長が景気づけにシローの背中を叩けば、シローはたじたじになって眉を下げた。
「が、がんばります……」
 人見知りだ、という理由でなるべくシローを表に出さないよう仕向けてきたけれど、そろそろそれでは済まなくなってきたみたいだ。
 さて、それならどうしようかな。思案を巡らせながら、僕は温くなったコーヒーを口に運んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。 幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。 席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。 田山の明日はどっちだ!! ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。 BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。 11/21 本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。

平凡くんと【特別】だらけの王道学園

蜂蜜
BL
自分以外の家族全員が美形という家庭に生まれ育った平凡顔な主人公(ぼっち拗らせて表情筋死んでる)が【自分】を見てくれる人を求めて家族から逃げた先の男子校(全寮制)での話。 王道の転校生や生徒会、風紀委員、不良に振り回されながら愛されていきます。 ※今のところは主人公総受予定。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

処理中です...