15 / 47
feel
しおりを挟む
もっと上手に曲を伝えるにはどうしたらいいんだろう? そんなことを考えていたとき、庄司先輩にライブに誘われた。庄司先輩は大学でも軽音楽部に入っていて、そこのバンド何組かと一緒にライブをしようということだった。
知らない人たち(しかも大学生!)とやることにすごく緊張したけど、暗いライブハウス、白い照明が当たるステージで飛び跳ねる先輩たちの姿を見て、来て良かったなあとしみじみ思う。
だって、みんなすごくすごくうまいんだ。
ドラムで言えば、十六連符とか僕にはまだ必死でやらないとできないことを簡単にやっていたりして個人の完成度はもちろん高いし、バンドとして合わせるところもばっちりだ。
それに、どのバンドもギターやベースにエフェクターをたくさん使っているだけじゃなく、弾きかた・叩きかたで音作りにこだわっている。僕なんてまだまだだなってちょっとへこんだけど、そのぶん見習うべきところがいっぱいあって勉強になる。
先輩たちの演奏が本物のバンドと遜色ないくらいの完コピ具合だったから観客の盛り上がりかたもお祭り騒ぎみたいなんだと思っていたけれど、一バンド目が終わって僕らがステージに立ったときも、お客さんの興奮は冷めなかった。
今日見に来てるのは大学生の人が大半なのに、僕たちがやったオリジナル曲も全部知っていたかのように盛り上がってくれたんだ。ライブハウスが揺れているのを見たとき、本当に嬉しかった。
お客さんたちが僕らの音を楽しく思って自然とノってくれる。それを見た僕らも楽しくなって、ライブハウスが一体になる。
「音楽ってすごいね」
「あ? いきなりどうしたんだよ」
スタンディングスペースの端でステージを見ながら呟いた言葉に、皐月が反応してくれた。
「僕はあんまりライブに行ったことがなかったから、音楽がこんなにみんなと一つになれるものだって改めて知ってびっくりしたんだ。お祭りみたいで楽しいなって」
普段おとなしい僕でさえ、この空間でははしゃぎたくなる力を持ってる。
「こんなバカ騒ぎのライブばっかでもねーけどな。騒ぐだけが音楽の聞きかたじゃないし。じっと聞いてるやつもいるし、ノリかたなんてそれぞれだろ」
「ま、一体感っつーのは間違っちゃねえけど」
ぐしゃっと髪の毛をかき回される。
そのときちょうど三バンド目が終わって幕が閉じた。明るくなった場内で、皐月の不遜な笑顔がよく見える。
確かに皐月は、ノリノリで客を煽ったりモッシュをしたりするタイプじゃない。だけど、さっきまでステージに立っていたからTシャツも前髪も汗ばんでいて、全力で演奏していた――音楽を楽しんでたことはわかる。
(そっか、そうだよね)
わかりやすく盛り上がってなくたって、みんな音楽を楽しんでるんだ。このあいだの新入生歓迎会のライブも、棒立ちでつまらなさそうだと思っていた女の子たちだって、もしかしたら楽しんでくれてたのかもしれない。だからこそ、最後は笑顔でアンコールを叫んでくれていたのかも。
でも、今日ほど観客との一体感を感じられた日は初めてで――僕はこのとき、改めて音楽の素晴らしさ、ライブの楽しさを思い知ったんだ。
知らない人たち(しかも大学生!)とやることにすごく緊張したけど、暗いライブハウス、白い照明が当たるステージで飛び跳ねる先輩たちの姿を見て、来て良かったなあとしみじみ思う。
だって、みんなすごくすごくうまいんだ。
ドラムで言えば、十六連符とか僕にはまだ必死でやらないとできないことを簡単にやっていたりして個人の完成度はもちろん高いし、バンドとして合わせるところもばっちりだ。
それに、どのバンドもギターやベースにエフェクターをたくさん使っているだけじゃなく、弾きかた・叩きかたで音作りにこだわっている。僕なんてまだまだだなってちょっとへこんだけど、そのぶん見習うべきところがいっぱいあって勉強になる。
先輩たちの演奏が本物のバンドと遜色ないくらいの完コピ具合だったから観客の盛り上がりかたもお祭り騒ぎみたいなんだと思っていたけれど、一バンド目が終わって僕らがステージに立ったときも、お客さんの興奮は冷めなかった。
今日見に来てるのは大学生の人が大半なのに、僕たちがやったオリジナル曲も全部知っていたかのように盛り上がってくれたんだ。ライブハウスが揺れているのを見たとき、本当に嬉しかった。
お客さんたちが僕らの音を楽しく思って自然とノってくれる。それを見た僕らも楽しくなって、ライブハウスが一体になる。
「音楽ってすごいね」
「あ? いきなりどうしたんだよ」
スタンディングスペースの端でステージを見ながら呟いた言葉に、皐月が反応してくれた。
「僕はあんまりライブに行ったことがなかったから、音楽がこんなにみんなと一つになれるものだって改めて知ってびっくりしたんだ。お祭りみたいで楽しいなって」
普段おとなしい僕でさえ、この空間でははしゃぎたくなる力を持ってる。
「こんなバカ騒ぎのライブばっかでもねーけどな。騒ぐだけが音楽の聞きかたじゃないし。じっと聞いてるやつもいるし、ノリかたなんてそれぞれだろ」
「ま、一体感っつーのは間違っちゃねえけど」
ぐしゃっと髪の毛をかき回される。
そのときちょうど三バンド目が終わって幕が閉じた。明るくなった場内で、皐月の不遜な笑顔がよく見える。
確かに皐月は、ノリノリで客を煽ったりモッシュをしたりするタイプじゃない。だけど、さっきまでステージに立っていたからTシャツも前髪も汗ばんでいて、全力で演奏していた――音楽を楽しんでたことはわかる。
(そっか、そうだよね)
わかりやすく盛り上がってなくたって、みんな音楽を楽しんでるんだ。このあいだの新入生歓迎会のライブも、棒立ちでつまらなさそうだと思っていた女の子たちだって、もしかしたら楽しんでくれてたのかもしれない。だからこそ、最後は笑顔でアンコールを叫んでくれていたのかも。
でも、今日ほど観客との一体感を感じられた日は初めてで――僕はこのとき、改めて音楽の素晴らしさ、ライブの楽しさを思い知ったんだ。
5
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

病んでる愛はゲームの世界で充分です!
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。
幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。
席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。
田山の明日はどっちだ!!
ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。
BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。
11/21
本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。

平凡くんと【特別】だらけの王道学園
蜂蜜
BL
自分以外の家族全員が美形という家庭に生まれ育った平凡顔な主人公(ぼっち拗らせて表情筋死んでる)が【自分】を見てくれる人を求めて家族から逃げた先の男子校(全寮制)での話。
王道の転校生や生徒会、風紀委員、不良に振り回されながら愛されていきます。
※今のところは主人公総受予定。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる