sandwich

文字の大きさ
上 下
13 / 47

obstinate person

しおりを挟む
「3moonに憧れて軽音楽部に入ったんです!」
 新入生からそう言われるたび、一年前のABCを思い出す。
 今でも一番憧れているバンド。激しくて変幻自在で、ピンと張りつめた演奏なのに危うさがない。とにかくかっこよかった。
 僕はABCに憧れて軽音楽部に入った。だからこそ、去年の自分と同じような台詞を叫ぶ新入生に恐縮してしまう。
「ありがとう」
「作曲って卯月先輩がしてるんですよね? 俺、3moonの曲すげえ好きです!」
「あ、……ありが、とう」
 3moonは皐月と優士がいるから体裁を保てていると思っていたけど、最近(たまに)ドラムも誉めてもらえるようになったし、僕の作った曲を気に入ってくれる人もちょっとずつ増えてきた。
 嬉しい。
 けど、「僕なんてまだまだだよ」とつい苦笑してしまう。
 以前に比べたら上達したと感じるし、ABCと3moonではやってる曲調が違うから比較できることじゃないのかもしれないけど……まだまだ、庄司先輩が遠い存在なんだ。
 先輩は大学でも軽音楽部に入ってバンド活動をしていて、このあいだ久しぶりにドラム捌きを見せてもらったら一段とうまくなっていた。僕も先輩のようにドラムを叩きたい。
 家にあるゴム製のドラムセットは庄司先輩のおさがりだ。基礎練習のやりかたも先輩に教えてもらった。
 ピッ、ピッ。メトロノームに合わせてペダルを踏みながら各部を叩き、徐々にテンポアップ。僕にはパワーが足りないから、最近では強い叩きかたも練習したいんだけど――。
「うるせェぞ!」
 荒々しく扉を開き、お父さんが怒鳴り込んできた。
「いい加減にしろ!」
「ごっ、ごめん……」
 今日はそんなにうるさくしたつもりなかったんだけど……。
 お父さんはじろりとドラムセットを眺め回し、舌打ちする。
「そんなモンやってる暇あったら勉強しろ! ったく! 低学歴にろくな奴はいないからな!」
 そして、扉を勢いよく閉めて去っていった。お父さんはこのところ、ずっとイライラしている。お母さんとの喧嘩が絶えなくて、ストレスが溜まっているみたいだ。でも、ドラムをやめるなんてできない。だって、僕には目標とする先輩がいるし、叩きたい音、作りたい音楽がまだまだある。
 皐月と優士が引退するまであと四ヶ月。三人でやれるうちに、もっともっと、バンドを完成させたい。
 僕はお父さんの足音が遠ざかるのを聞き届けてから、そっとスティックを握り直した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺

高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

Original drug

佐治尚実
BL
ある薬を愛しい恋人の翔祐に服用させた医薬品会社に勤める一条は、この日を数年間も待ち望んでいた。 翔祐(しょうすけ) 一条との家に軟禁されている 平凡 一条の恋人 敬語 一条(いちじょう) 医薬品会社の執行役員 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

花香る人

佐治尚実
BL
平凡な高校生のユイトは、なぜか美形ハイスペックの同学年のカイと親友であった。 いつも自分のことを気に掛けてくれるカイは、とても美しく優しい。 自分のような取り柄もない人間はカイに不釣り合いだ、とユイトは内心悩んでいた。 ある高校二年の冬、二人は図書館で過ごしていた。毎日カイが聞いてくる問いに、ユイトはその日初めて嘘を吐いた。 もしも親友が主人公に思いを寄せてたら ユイト 平凡、大人しい カイ 美形、変態、裏表激しい 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

処理中です...