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「優士先輩かっこよかったですー!」
ステージ裏から出た途端、後輩の女子に囲まれた。
「先輩のベース、めっちゃ好きですっ! あんな難しそうなのわたしできなーい!」
「文化祭のときから3moonのファンですっ! ABCも超かっこよかったけど、オリジナルって本当に憧れますっ」
ありがとう、と返事しながら周囲を見れば、皐月も僕同様部員に囲まれている。シローは……一年何人かに声をかけられたきり、仲のいい田中としゃべっていた。
(撤収のとき田中にはペダルとタムと、それからエフェクターとマイクも持たせよう)
と、よそ見してれば、袖を引かれる。やけに積極的な女子たちに、思わず笑ってしまう。
「あたし最初の二曲が好きでしたー! ベースラインがドリームシアターぽくて超かっこよかったです!」
「わたしは三曲目も好きでしたあ!」
「あたしもあたしも!」
そこに、同学年の後藤さんがやって来た。同性には特に厳しい彼女が後輩たちを一瞥すれば、さっきまで群がっていた女子は半歩後ずさった。後藤さんは、それからさらに一歩近づいてくる。長い髪の毛を掻き揚げながらこちらを見上げ、
「今までの曲って、三人で作ってたのよね? 最後のも?」
と、尋ねてきた。その顔は険しい。
「新曲はシローが考えたんだ」
「……やっぱり。曲が単調で、優士と皐月の良さが全然出てなかったわ。卯月ってドラム下手だし、あんたたちと組むにはレベル低すぎるんじゃないの? もったいない」
(わかってないな)
さっきから、後輩たちとの会話のなかで新曲の話は出てこなかった。やっと出たと思えばこれだ。後藤さん以外にも、そう考えている部員は少なからずいるだろう。(演奏中の客席の様子からなんとなくわかる)
……馬鹿じゃないのか。
なぜ僕らがあの曲を弾いたのか――しかもラストに――考えてみればすぐわかることだろうに。僕も皐月も、シローのあのメロディーがいいと思ったんだ。シローが持つ、優しさとか穏やかさがにじみ出たあの曲がとても好きで、演奏したいと感じたからやったんだ。
もし、さっきの演奏に至らない点があるとすれば、シローの力量不足は勿論、僕や皐月の技術がまだまだ未熟だったということだ。考えてみれば、ABCのときも、そのあとも、難しいテクや激しさばかりに目が向いていて、『rain』のような曲はあまり演奏したことがなかった。
だから、これからはもっと技術を磨こう。シローの曲の良さがちゃんと伝わるように。
「今後も作曲はシローに任せるつもりだよ」
にこり、笑ってそう告げる。
シローの曲を僕らが初めて聞いたあのときから、3moonはシローの曲を演奏するためのバンドになったんだから。
ステージ裏から出た途端、後輩の女子に囲まれた。
「先輩のベース、めっちゃ好きですっ! あんな難しそうなのわたしできなーい!」
「文化祭のときから3moonのファンですっ! ABCも超かっこよかったけど、オリジナルって本当に憧れますっ」
ありがとう、と返事しながら周囲を見れば、皐月も僕同様部員に囲まれている。シローは……一年何人かに声をかけられたきり、仲のいい田中としゃべっていた。
(撤収のとき田中にはペダルとタムと、それからエフェクターとマイクも持たせよう)
と、よそ見してれば、袖を引かれる。やけに積極的な女子たちに、思わず笑ってしまう。
「あたし最初の二曲が好きでしたー! ベースラインがドリームシアターぽくて超かっこよかったです!」
「わたしは三曲目も好きでしたあ!」
「あたしもあたしも!」
そこに、同学年の後藤さんがやって来た。同性には特に厳しい彼女が後輩たちを一瞥すれば、さっきまで群がっていた女子は半歩後ずさった。後藤さんは、それからさらに一歩近づいてくる。長い髪の毛を掻き揚げながらこちらを見上げ、
「今までの曲って、三人で作ってたのよね? 最後のも?」
と、尋ねてきた。その顔は険しい。
「新曲はシローが考えたんだ」
「……やっぱり。曲が単調で、優士と皐月の良さが全然出てなかったわ。卯月ってドラム下手だし、あんたたちと組むにはレベル低すぎるんじゃないの? もったいない」
(わかってないな)
さっきから、後輩たちとの会話のなかで新曲の話は出てこなかった。やっと出たと思えばこれだ。後藤さん以外にも、そう考えている部員は少なからずいるだろう。(演奏中の客席の様子からなんとなくわかる)
……馬鹿じゃないのか。
なぜ僕らがあの曲を弾いたのか――しかもラストに――考えてみればすぐわかることだろうに。僕も皐月も、シローのあのメロディーがいいと思ったんだ。シローが持つ、優しさとか穏やかさがにじみ出たあの曲がとても好きで、演奏したいと感じたからやったんだ。
もし、さっきの演奏に至らない点があるとすれば、シローの力量不足は勿論、僕や皐月の技術がまだまだ未熟だったということだ。考えてみれば、ABCのときも、そのあとも、難しいテクや激しさばかりに目が向いていて、『rain』のような曲はあまり演奏したことがなかった。
だから、これからはもっと技術を磨こう。シローの曲の良さがちゃんと伝わるように。
「今後も作曲はシローに任せるつもりだよ」
にこり、笑ってそう告げる。
シローの曲を僕らが初めて聞いたあのときから、3moonはシローの曲を演奏するためのバンドになったんだから。
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