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「あの……この後のメロディー、ルルルラーラララルールルールラー………ていうのは、どうですか……?」
 初めて曲作りで意見を出したのがいつのことだったかは忘れた。でも、そう言ったときの霜月先輩と五代先輩の顔は今でも覚えてる。その反応が、すごく嬉しかったから。

 ドッドッドッドッドッ。
 心臓が痛い。ステージを照らすライトが熱い。汗が止まらない。
 十月の半ば、文化祭で僕は初めてライブをした。あのときのことは、無我夢中であんまり記憶にない。だけど、すごく緊張してたのは確かだ。
 それでもきっと、今ほどじゃない。
 クリスマスライブ。十二月二十三日に、学校近辺のライブハウスで毎年行われる部のイベント。
 スピーカー、音の返りかた、アンプ、ミキサーをいじるスタッフの方たち。広い観客サイド。文化祭は学内でのライブだったから、ライブハウスの機材や雰囲気に呑まれる。
 六バンド中四番目、文化祭でもやった三曲を終えて、ラストは新曲だ。
 百組近い瞳が、ステージ(の、主に五代先輩と霜月先輩)を見つめている。前回はひたすらドラムだけを見ていたから気づかなかったけど、みんなの期待が全身に刺さる。
「今日はありがとうございました。最後の曲は『rain』」
 霜月先輩がそう言って僕を見た。
 ドッドッドッドッドッ。
 ますます鼓動が速くなる。い、痛い!
 なにせ、これからやるのは僕が――二人にもいっぱい意見を聞いたのだけど――作った曲なのだ。お客さんたちに受け入れてもらえるかな? これまでの三曲とは雰囲気が違うと思うから心配だ。……緊張する。
 コクリとうなずかれて、唾を飲み込んだ僕はシンバルにスティックを載せた。そっと撫でるように、小刻みに震わす。
 シャラシャラシャラ……。これはけぶる雨の音だ。雨は優しく町を湿らす。屋根を、アスファルトを、屋上に並ぶ物干し竿を。全部。ボン……ボン……。バスドラ。そして、霜月先輩のベース。低く鈍く鳴り響くそれは、跳ねる雨粒をイメージしている。ギターの旋律。雨が唄う。
 ひと粒ひと粒が、大地と触れ合い音楽を奏でる。畑に、ビルに、倉庫に、ビニール傘に。全部違うメロディ。
 雨脚は強くなり、ふたたび弱まる。デクレッシェンド――あっ! タイミングをずらしてしまった。すぐに霜月先輩が合わせてくれたけど。
(間違えちゃった……っ)
 けれど、五代先輩が口パクで「ばか」って叱咤してくれたから、あわてて曲に集中する。
 雨が止む。僕らの音楽も音をなくす。休符ひとつぶんの静寂。それから、軒先を伝う滴。ポロン。エフェクターをかけたギターが余韻を残しながら響く。
 三分足らずの短い曲が終わった。
「メリークリスマス」
 霜月先輩がそう言って、お客さんたちから拍手が起こる。
 嬉しくて照れくさくて、でもやっぱりまだ不安は残っていて、僕は眉を下げたまま口元を緩ませた。
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