sandwich

文字の大きさ
上 下
3 / 47

in those days

しおりを挟む
 中三の秋、友達と一緒に近所の高校の文化祭を見に行った。そのとき、体育館でライブしていたABC(アベセ)ってバンドに憧れて、僕は軽音楽部に入部することを決めたんだ。
 とはいえ、元来人見知りの僕は、入部から二週間経っても彼らと会話したことはなかった。同学年の男子と会話するので精一杯だったんだ。
 だから今、ピンチだ。
 部室で個人練をしている最中、ABCの五代先輩と霜月先輩がやって来た。派手で目立つ先輩たち相手に、何を話したらいいか分からない。
 そんなわけで緊張して固まってしまったけど、ハッと我に返って椅子から立ち上がる。
「おはようございますっあ、部室使ってくださいっ」
 先輩優先だもんね、と慌てて帰り支度をしていたら、「待てよ。俺たち楽器取りに来ただけだし」と呼び止められた。
「えーと、卯月 四郎(ウヅキ シロウ)くんだよね?」
「はっはい!」
 霜月先輩が僕のフルネームを覚えてたことにびっくり。思わず見つめ返してしまったら、コクンと首を傾げられた。一方、五代先輩は何かを思い出したようにふと僕を振り返る。
「おまえ、俺たちのライブ見てうちの部活入ったんだって?」
「……は、はぃ」
(ひぇー! なんで知られてるの?! 恥ずかしい!)
「洋楽好きなのか?」
「い、いぇ……詳しくないです」
 先輩たちが洋楽のコピーバンドをしているからそう聞いてくれたんだろうけど、あいにく僕は洋楽をほとんど知らない。
「それじゃあ、邦楽ロック?」
「あーなんかおまえクルリとか好きそうだよな」
「……い、いえそれも……」
「ってことはJPOP?」
「……あの、僕……」
 先輩たちに憧れてつい入部したけど、僕は楽器未経験というだけでなく、それまでほとんど音楽を聞いたことがなかった。それを伝えると、二人とも「へぇ」と驚いた顔。
 五代先輩は手近のパイプ椅子に腰を下ろして、ニヤリと笑った。
「それってすげーラブコールじゃね?」
「うん、そう聞こえた。僕らの演奏で音楽に興味持ってくれたってことでしょう?」
 霜月先輩までおかしそうに笑うから、もう恥ずかしすぎて消えちゃいたい! 真っ赤になった顔を隠したくてうつむけば、二人にさらに笑われた。
「庄司さんを目指してるの?」
 ひとしきり笑われたあとで、霜月先輩に聞かれる。庄司さんっていうのは、ABCでドラムをしてる三年の部長さん。大柄な体型を生かした、パワーあふれるドラマーだ。
「っはい! ABCさんみたいなライブがしたくて、その骨組みになりたくて、えっとそのためにはあのくらいパワーが必要だから……っ!」
 あっ、憧れの人たちのことだからってつい力説しちゃった。さっき恥ずかしい思いしたばっかりなのに! また笑われるんだろうなって思いながら、先輩たちの顔を見やる。五代先輩と目が合ったとき、
「そんじゃあ、俺たちとバンド組んでみるか?」
 驚きの発言が飛び出した。
「もちろん今すぐじゃねぇぞ? 夏になったら庄司さんも美輪さんも引退するからな、そのときまでにおまえが上達してたら三人でやってみるか? ってことだ」
 うまくなきゃ絶対一緒にやんねーけどな、なんて念押しまでされたけど。うまくなれたら、一緒にできるんだ!
 冗談半分で言ってるってことはわかってたけど、少しでもチャンスがあるなら僕はやってみたかった。先輩たちのようなライブを作ってみたい!
「おおおお願いします!」
「ふふ、是非うまくなってね」
「はいっ!」
 ――3moon結成四ヶ月前の話。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。 幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。 席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。 田山の明日はどっちだ!! ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。 BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。 11/21 本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。

平凡くんと【特別】だらけの王道学園

蜂蜜
BL
自分以外の家族全員が美形という家庭に生まれ育った平凡顔な主人公(ぼっち拗らせて表情筋死んでる)が【自分】を見てくれる人を求めて家族から逃げた先の男子校(全寮制)での話。 王道の転校生や生徒会、風紀委員、不良に振り回されながら愛されていきます。 ※今のところは主人公総受予定。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

処理中です...