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guerrilla1
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渋谷には流行が詰まってる。
大きなテレビ画面が流すのも、マルキューの壁面に貼られた巨大ポスターも、本屋やコンビニの店頭に作られたコーナーも、今はすべてスリーピースバンド・3moon(スリームーン)の新曲告知のものだ。
車のスモークガラス越しにそれらを眺めていたら、ふいに背後から髪の毛を掻き回された。
「おい、そろそろ行くぞ」
振り返れば、垂れ目かつ泣きぼくろがセクシーな超イケメン。3moonのギターボーカル・五代 皐月(ゴダイ サツキ)だ。その後ろから、同じく3moonのベースコーラス・霜月 優士(シモツキ ユウシ)が顔をのぞかせる。
「シローはまず髪の毛直したほうがいいね」
柔らかく微笑む姿がまぶしい。好青年というだけでなく、皐月に負けず劣らずの美青年ぶりだ。皐月にしろ優士にしろ、女性ファンがたくさんいるのもうなずける。現に車外では、ゲリラライブの噂を聞きつけたファンが、二人の名前を蝉のように連呼していた。
「どーせドラム叩いてるうちにボッサボサになんだろ」
優士に頭を撫でつけられていたら、皐月がふたたび髪をぐちゃぐちゃにしてきた。うわあ、すごくイイ笑顔……。それにしても。
(緊張するなあ……)
デビューしてからそろそろ半年が経つけど、いまだ歓声には慣れない。小さなライブハウスでやってたときは、黄色い悲鳴なんてめったに聞かなかったから。
(昔は男のお客さんのほうが多かったもんなあ)
野次とか、ダイブとか、そんなのばっかりだった。それこそ最初は怖かったけれど、それらも激励だとわかってからはなんだかとても楽しかった。……でも「変わってしまった」なんて僕が嘆いてはいけないのだ。この世界から逃げるなんて許されない。
デビューを望んだのは、僕なんだから。
「準備終わりそー?」
車の扉を細く開いて、顔をのぞかせたのはマネージャーのナカさん。長い爪とかばさばさのまつげとかざっくばらんな話しかたとか、ちょっと怖いけど、仕事ができる働く女性だ。(って自分で言ってた)
ナカさんは僕らを一瞥して、キッとまなじりをつり上げる。
「あんたたち、準備できてんならはやく行きなさいよ! 時間おしてんでしょーがっ」
「うるせぇよババア」
「ババアじゃねぇわよ! まだ二十代よ!」
「まだ? ギリギリ、だろ?」
(ひぇえ!)
皐月とナカさんを交互に見る。ライブ前だっていうのになんでそんなにバチバチするのさ!
それを収めたのは優士。
「喧嘩してる場合じゃないでしょ? 子どもじゃあるまいし」
ニコニコと笑顔で、心に刺さる毒を吐く。子どもじゃない皐月とナカさんは、口の端を歪ませながらもなんとか黙った。あ、あいかわらずだなあ。
「んじゃ、行ってらっしゃい」
そう言ってナカさんが扉を大きく開けた。途端、歓声が爆発的に広がる。
渋谷には流行が詰まってる。
大きなテレビ画面が流すのも、マルキューの壁面に貼られた巨大ポスターも、本屋やコンビニの店頭に作られたコーナーも、それから道行く人の瞳のなかも――今はすべて3moon一色なのだ。
大きなテレビ画面が流すのも、マルキューの壁面に貼られた巨大ポスターも、本屋やコンビニの店頭に作られたコーナーも、今はすべてスリーピースバンド・3moon(スリームーン)の新曲告知のものだ。
車のスモークガラス越しにそれらを眺めていたら、ふいに背後から髪の毛を掻き回された。
「おい、そろそろ行くぞ」
振り返れば、垂れ目かつ泣きぼくろがセクシーな超イケメン。3moonのギターボーカル・五代 皐月(ゴダイ サツキ)だ。その後ろから、同じく3moonのベースコーラス・霜月 優士(シモツキ ユウシ)が顔をのぞかせる。
「シローはまず髪の毛直したほうがいいね」
柔らかく微笑む姿がまぶしい。好青年というだけでなく、皐月に負けず劣らずの美青年ぶりだ。皐月にしろ優士にしろ、女性ファンがたくさんいるのもうなずける。現に車外では、ゲリラライブの噂を聞きつけたファンが、二人の名前を蝉のように連呼していた。
「どーせドラム叩いてるうちにボッサボサになんだろ」
優士に頭を撫でつけられていたら、皐月がふたたび髪をぐちゃぐちゃにしてきた。うわあ、すごくイイ笑顔……。それにしても。
(緊張するなあ……)
デビューしてからそろそろ半年が経つけど、いまだ歓声には慣れない。小さなライブハウスでやってたときは、黄色い悲鳴なんてめったに聞かなかったから。
(昔は男のお客さんのほうが多かったもんなあ)
野次とか、ダイブとか、そんなのばっかりだった。それこそ最初は怖かったけれど、それらも激励だとわかってからはなんだかとても楽しかった。……でも「変わってしまった」なんて僕が嘆いてはいけないのだ。この世界から逃げるなんて許されない。
デビューを望んだのは、僕なんだから。
「準備終わりそー?」
車の扉を細く開いて、顔をのぞかせたのはマネージャーのナカさん。長い爪とかばさばさのまつげとかざっくばらんな話しかたとか、ちょっと怖いけど、仕事ができる働く女性だ。(って自分で言ってた)
ナカさんは僕らを一瞥して、キッとまなじりをつり上げる。
「あんたたち、準備できてんならはやく行きなさいよ! 時間おしてんでしょーがっ」
「うるせぇよババア」
「ババアじゃねぇわよ! まだ二十代よ!」
「まだ? ギリギリ、だろ?」
(ひぇえ!)
皐月とナカさんを交互に見る。ライブ前だっていうのになんでそんなにバチバチするのさ!
それを収めたのは優士。
「喧嘩してる場合じゃないでしょ? 子どもじゃあるまいし」
ニコニコと笑顔で、心に刺さる毒を吐く。子どもじゃない皐月とナカさんは、口の端を歪ませながらもなんとか黙った。あ、あいかわらずだなあ。
「んじゃ、行ってらっしゃい」
そう言ってナカさんが扉を大きく開けた。途端、歓声が爆発的に広がる。
渋谷には流行が詰まってる。
大きなテレビ画面が流すのも、マルキューの壁面に貼られた巨大ポスターも、本屋やコンビニの店頭に作られたコーナーも、それから道行く人の瞳のなかも――今はすべて3moon一色なのだ。
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