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二百八十一話 お題:四国 縛り:茶器、貉、土管、順境、蜂起

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 職場の後輩の話である。彼は昔歩き遍路に挑戦したそうなのだが、その際に不思議な体験をしたという。
「僕は若い頃は順境にいたというか、苦労らしい苦労をしなかったんですけど、歩き遍路に挑戦した当時は色々と行き詰まってまして……半ば自棄になって、なけなしの貯金をはたいて四国まで行ったんです」
 歩き遍路を始めてすぐ、彼はあることに気づいた。
「何かが僕の後をついてくるんですよ。人の形をした霧って言えばいいかなぁ。全体的にぼんやりしてましたね。不気味でしたけど、お遍路ならこういうこともあるのかなぁと思って、試しに声をかけてみたんですよ」
 彼が人の形をした霧に、なんで僕の後をついてくるんですか、と聞くと、
「たどたどしい口調でしたけど、自分は瀬戸内で蜂起した藤原純友の部下の一人で、解脱するためにお遍路をする人の後についてお寺を回ってるんだって教えてくれたんです」
 そういう理由であれば、と彼はその人の形をした霧と一緒に行くことに決めたという。苦労しつつも歩き遍路の折り返し地点を越え、五十番目の寺に向かう途中で、
「人の形をした霧から、こっちに来てほしい、って言われて、案内されるままについていったら、土管が積んである空き地に着いたんです」
 人の形をした霧は、土管の中にいるのが本当の自分だ、と言った。彼が土管の中を覗いてみると、そこには一匹の死にかけた貉がいた。
「自分の死期を悟って、最期を誰かに看取ってほしかったから、精一杯人に似せた幻で自分を看取ってくれる人を探していたらしいんです」
 貉は騙していたことを詫びると、あげられるものは土管の中のものしかないが、それでもよければ持っていってくれ、と言って息を引き取ったという。
「土管の中には茶器がいくつかあって、調べてもらったら大谷焼という焼き物でした」
 それらの茶器は特に価値があるものではなかったそうだが、それでも彼は歩き遍路の思い出の品として大事に保管しているという。
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