69 / 302
六十八話 お題:未来像 縛り:交代、菌交代症、ジェットコースター、口笛、共犯
しおりを挟む
知人の男性の話である。彼は肺炎で入院した際に使用された抗菌薬が原因で菌交代症になり、緑膿菌感染症になってしまった。
「ほんと、誰かに交代してもらいたいよなぁ、菌交代症だけに、ハハハ……」
苦しそうに笑う彼に、思わずつまらないギャグを言う元気があるならまだまだ大丈夫ですよ、と言ってしまったところ、彼は黙りこんでしまった。流石に気分を害したかと私が謝ろうとした時、
「実を言うとね。僕はこうなることをずっと前から知ってたんだよ」
と言った。私が何の話ですか、と言うと彼は話し始めた。
「高校生の時にできたばかりの遊園地にデートに行って、そこでジェットコースターに乗ったんだよ。乗る時に何となく妙な感じがしたんだ。係員がずーっと口笛をやめないのも気になったけど、一緒に乗った彼女は気にしてないみたいだったなぁ。それでジェットコースターが走り出したんだけど」
ジェットコースターに乗っている間、彼の視界には自分の未来のことが映し出されていたという。乗っている時間は2分にも満たなかったはずなのだが、その間に彼は自分が今つきあっている彼女とは別れること、高校、大学と無事卒業しそこそこいい会社に就職すること、就職してから社内恋愛を経て結婚をすること、会社で起きた横領事件の犯人の共犯ではないかと疑われ会社を退職させられること、就職活動中に体調を崩して肺炎にかかり、治療のため使用された抗菌薬が原因で菌交代症になり、緑膿菌感染症になること、そしてその結果自分がどうなるのかまで、全て知ってしまったという。
「自分が最後どうなるのかはわかってたんだ。わかってたんだけどいざその時が近づいてくると怖くて怖くて……誰か、どうか誰か代わってほしいって、そんなことばかりずっと考えてるんだよ、弱いよなぁ、情けないよなぁ」
そう言うと彼は啜り泣き始めた。私はとてもその場にいることができず、また来ます、とだけ言って病室を飛び出してしまった。
「ほんと、誰かに交代してもらいたいよなぁ、菌交代症だけに、ハハハ……」
苦しそうに笑う彼に、思わずつまらないギャグを言う元気があるならまだまだ大丈夫ですよ、と言ってしまったところ、彼は黙りこんでしまった。流石に気分を害したかと私が謝ろうとした時、
「実を言うとね。僕はこうなることをずっと前から知ってたんだよ」
と言った。私が何の話ですか、と言うと彼は話し始めた。
「高校生の時にできたばかりの遊園地にデートに行って、そこでジェットコースターに乗ったんだよ。乗る時に何となく妙な感じがしたんだ。係員がずーっと口笛をやめないのも気になったけど、一緒に乗った彼女は気にしてないみたいだったなぁ。それでジェットコースターが走り出したんだけど」
ジェットコースターに乗っている間、彼の視界には自分の未来のことが映し出されていたという。乗っている時間は2分にも満たなかったはずなのだが、その間に彼は自分が今つきあっている彼女とは別れること、高校、大学と無事卒業しそこそこいい会社に就職すること、就職してから社内恋愛を経て結婚をすること、会社で起きた横領事件の犯人の共犯ではないかと疑われ会社を退職させられること、就職活動中に体調を崩して肺炎にかかり、治療のため使用された抗菌薬が原因で菌交代症になり、緑膿菌感染症になること、そしてその結果自分がどうなるのかまで、全て知ってしまったという。
「自分が最後どうなるのかはわかってたんだ。わかってたんだけどいざその時が近づいてくると怖くて怖くて……誰か、どうか誰か代わってほしいって、そんなことばかりずっと考えてるんだよ、弱いよなぁ、情けないよなぁ」
そう言うと彼は啜り泣き始めた。私はとてもその場にいることができず、また来ます、とだけ言って病室を飛び出してしまった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる