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十八話 お題:クローク 縛り:始終、名士、ヤッケ
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勤務しているホテルで起きた出来事です。ある日支配人から今度特別なお客様が宿泊されるからくれぐれも丁重に対応するようにと言われました。なんでも地元では名士と言われている方で、相当に気難しいとのことでした。支配人がわざわざそう言う以上大変なお客様だろうと覚悟していたのですが、いざお会いしてみると物静かな年配の男性といった印象で拍子抜けしてしまいました。ただ始終腕時計で時間を確認しておられたことと、クロークに明らかにお客様のサイズではないヤッケをわざわざ預けられたことが気になりました。お客様が見えられた当日は何事もなかったのですが、翌日お客様がチェックアウトされる際、クロークのスタッフからお預かりしたヤッケが大変なことになっていると連絡が入りました。確認したところヤッケはお預かりした時は新品同様だったのに、色は褪せあちこちに穴があいた悲惨な状態になっていました。クロークでの管理はしっかりしていますし、お預かりした洋服がこんな風になったという前例はありません。一体どうして、一体誰がという疑問が浮かびましたが、まずはお客様に謝罪しようとこのことをお伝えすると、お客様は異様に興奮しながら、ヤッケを見せてくれ、とおっしゃいました。興奮してはいるもののお怒りではないご様子なので不思議に思いつつ、ぼろぼろになったヤッケをお見せすると、お客様はそれを抱き締め、顔を埋めたかと思うと啜り泣きはじめました。私や駆けつけた支配人、クロークのスタッフも呆然としていたのですが、しばらくしてお客様は泣きやまれ、私達にありがとう、ありがとうとわざわざ手を握ってお礼を言ってくださり、支配人が何度もお断りしたにも関わらず宿泊料金の他にホテルのスタッフ全員分のチップをお支払いになってからチェックアウトされました。その後ヤッケがぼろぼろになった理由について調べたのですが原因は全くわからず、お客様が大変喜ばれたこともあって次第にうやむやになってしまいました。
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