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八 懐旧の澱
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「左目の中……あ」
佐治さんに一度だけ見せてもらった、狼に似た美しい真紅の獣の姿が、脳内で花火のように再生される。
「もしかして、佐治さんが僕のところに来られたのってその……赤い狼みたいなトカゲのおかげなんですか?」
「そうよ――花屋のイケメンに絡みついてた鎖と腐った顔、覚えてるわよね?」
「もちろんです」忘れようとしたって忘れられるはずがない。
「腐った顔に睨まれて、気がついたら愛媛の山奥にいたって話はしたわよね。その時にアタシをどうにか下山させてくれたのが、これ」
そう言って佐治さんは瞼を閉じた左目を軽く手で叩いた。
「まさか――助けた代償として取り憑かれたんですか?」
僕がそう聞くと、佐治さんは複雑そうな顔をした。
「そう……とも言えるかもしれないけど、ただ宿代の代わりだってことで色々と働いてもくれるし、案外悪くないのよね」
「そう、なんですか」
他ならぬ佐治さん自身が案外悪くない、と言っているのなら僕に言えることは何もなかった。
「……ところで、そろそろアタシの上着返してくれない?」
(――上着?)
自分の体を確かめると、佐治さんがここに来る時に来ていたジャケットがかけられていた。
佐治さんに一度だけ見せてもらった、狼に似た美しい真紅の獣の姿が、脳内で花火のように再生される。
「もしかして、佐治さんが僕のところに来られたのってその……赤い狼みたいなトカゲのおかげなんですか?」
「そうよ――花屋のイケメンに絡みついてた鎖と腐った顔、覚えてるわよね?」
「もちろんです」忘れようとしたって忘れられるはずがない。
「腐った顔に睨まれて、気がついたら愛媛の山奥にいたって話はしたわよね。その時にアタシをどうにか下山させてくれたのが、これ」
そう言って佐治さんは瞼を閉じた左目を軽く手で叩いた。
「まさか――助けた代償として取り憑かれたんですか?」
僕がそう聞くと、佐治さんは複雑そうな顔をした。
「そう……とも言えるかもしれないけど、ただ宿代の代わりだってことで色々と働いてもくれるし、案外悪くないのよね」
「そう、なんですか」
他ならぬ佐治さん自身が案外悪くない、と言っているのなら僕に言えることは何もなかった。
「……ところで、そろそろアタシの上着返してくれない?」
(――上着?)
自分の体を確かめると、佐治さんがここに来る時に来ていたジャケットがかけられていた。
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