文明トカゲ

ペン牛

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三 雷鳴の猫

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(……じゃあ、僕がつけてもいいか? お前に名前がないと僕が不便だから)
『よきにゃまえなら許そう。寛大な余に感謝するがいいにゃ』
 やっぱりこいつこねくり回したい、という思いを無視しつつ、僕はこの猫の姿をしたトカゲの名前を考える。
(――ネコモドキ)
 うん、中々いい名前だ。
『……にゃあ、楓って他の人間から感覚がおかしいって言われたりしにゃい?』
 感覚がおかしいと言われることなんてしょっちゅうだ。だが、そのことをこいつに指摘されると異様に腹が立つ。
(それじゃ何かにつけてにゃって言ってるからニャン太で)
 我ながらあまりにも安直だが、こんなやつに真面目に考えた名前をつけるのもそれはそれで馬鹿々々しかった。
『ニャン太にゃ~、まぁ人間は可愛いものには等しく平伏するらしいからにゃ、これでよしとしとくにゃ』
 あっさり納得されてしまった。いや、本当にそれでいいのか。
(そうだ、なんとなくニャン太ってつけたけど、お前は雄なのか? 雌なのか?)
 僕がそう聞くとニャン太は、
『そういえばそこまで詳しく考えてにゃかったにゃ』
 そんな気の抜けた答えを返してきた。
(性別を考えてないって……どういうことなんだ)
『そもそも余ぐらいににゃれば姿形にゃんて自由に変えられるもんにゃ。一々性別にゃんて細かいことは気にしないのにゃ』
 ニャン太の言葉に、どこか打ちのめされている自分がいた。僕が物心ついてから今に至るまでずっと囚われ続けていることが、細かいこと、と一蹴された。
(あぁ――それはまた、羨ましいね)
『どうしたのにゃ? 楓。怒ったのにゃ?』
 怒った――そんな単純な感情ではない、と思いたかった。それにしても、
(ニャン太。そろそろ喫茶店にでも入りたいから梓から離れろ)
『お断りにゃ』
(即答か。というか断るなら力づくで引き剥がすけど)
 僕が心の中でそう呟くと、ニャン太はこちらに視線を向けて、爪が飛び出た前足を持ち上げてみせた。
(……それは、武力行使をするという意思表示でいいんだにゃ? って、しまった――!)
 なんで頭の中の言葉までニャン太の影響を受けるんだ、と顔が熱くなる。
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