天つ乙女と毛獣

あわ☆さくら

文字の大きさ
上 下
34 / 37
SS NO.4 山手線散策道中銀鉄路

朝のひととき

しおりを挟む
「ねぇ。何か味、変じゃない?」
 同僚の黒髪ロング、サッパリお姉さん系メイドのダルバはパイを大胆に口に放り込み、ゆっくりと咀嚼しながら私、マリン・ハーランドを見た。

 シャクッ。
 私も一口、パイをかじる。
 
 最初はサクサク、後で口の中でジュワ~っととろけるシェフご自慢の生地の歯触りはいつもとなんら変わりはない。
 
 ん~。

 言われてみると、少しレモン風味が強いような……?後味もいつもよりも、しつこく口の中に残っているような気がする。
 
「えー、何が?」
「モニカ! あんた、もう食べちゃったの?」
 モニカの皿は既に空っぽだった。

「おかわりいいかなぁ?」
「良いけど、後で夕飯入らなくなっても知らないよ」
「これぐらい大丈夫だって」
 私も嫌いではないが、カフェ巡りが趣味のモニカは特にスイーツに目がない。

 既に二皿目ももう完食。
 いや、ほっといたら一人で全部食べちゃうかも……。

「気のせいかもしれないけど、レモンがいつもより濃くて、なんか薬品臭い気がしない……?」
 ダルバの言葉に私はフォークをカラン、と取り落とした。

 「えっ……薬品!?」
 イヤな予感が、一瞬走り抜ける。

 ……この展開って、いつものパロマのパターンじゃ……?

「さっき、これ。パロマが運ぼうとしていたって執事長、言ってたわよね?」
 ダルバも皿を置いて私を見た。
「まさか……」
 ……薬物混入未遂じゃなくて、事後だったとしたら?

 言おうとして、私は愕然と気がついた。
 なんか……顔が熱い。

 いや、顔だけじゃない。
 身体の中心から、モヤモヤとした熱が広がってきていた。
「うぇっ……!」
 
 これ、絶対変だ!

 パロマの奴!

 自分の身体を思わず抱きしめた私の耳に、トロンとしたモニカの甘ったるい声が……。

「ダルバぁ~」
 目の前に座っていたモニカが背後からガバッとダルバに抱きついていた。

「ちょっ……やめ! モニカっ!!」
 イケイケメイド、モニカは実はこの邸一番の怪力メイドである。

 ダルバにもそれなりに体術の心得はあるが、物凄い力で背後から押さえ込まれ、身動きがとれない。

「ダルバもマリンも良いわよねぇ……」
 いきなり、低い声でモニカが呟いた。

「……何が?」
「こんなに! こんなに二人ともデカい胸があって!」
 モニカの目がすわっている。
  
「ちょ、あんた何して……、うわぁぁぁっ!」
 両手で掴んでも溢れるほどのダルバの巨乳をメイド服の上から、モニカはもニュッと鷲掴んだ。
「あたしなんか! あたしなんか何枚パットいれてもバレちゃうのにぃぃぃ!!」
 
「……」
 それはパットを詰めすぎて日頃からズレてるからだよ、とツッコミたかったが、あえて沈黙する私とダルバ。
 
 彼女のAカップに対するコンプレックスは根深い。明らかに様子がおかしい彼女を刺激するのは得策ではないだろう。
 
 静寂の中、無言で胸を揉むメイド。
 ……何なの?この空間は。


「あたしにも、あたしにもコレ、ちょーだいよぉぉぉ!」
 ダルバのメイド服の胸元からグイッと強引に手を突っ込むモニカ。
「わっ、バカ! 痛っ、マリンっ、助けっ」 

「正気に戻りなさい! モニカ!!」
 私の渾身の回し蹴りが、モニカの側頭部にヒット!

「うぎゃぁっ!!」
 ガードも出来ず、まともにくらったモニカは悲鳴をあげて床に昏倒した。

 ……白目剥いて転がってるけど、モニカは身体が丈夫なのが取り柄!大丈夫でしょ……。

「……ゲホっ。サンキュー、マリン」
 胸だけでなく、肋骨ごと押し潰されていたダルバが激しく咳きこんだ。
「大丈夫?ダルバ」
「あぁ、骨は無事だよ。ったく、相変わらずのバカ力なんだから。あ~あ、痣になっちゃってるじゃないの……」
 ダルバは自分の胸をのぞき込み、ため息をついた。バッチリ、モニカに掴まれた五本指の痕が白い胸についてしまっている。

「マリン。あんたは大丈夫?」
「えっと……、半分ぐらい食べちゃった、かな」
 以前、パロマに媚薬を盛られた時と似た感覚が沸き上がってくる感じはあるが、あの時ほどの激しい衝動性はない。 

 なんか、モヤっとしたものが奥からジワジワとクる感じだ。他事をしていれば紛れる程度の、ムラムラ感。 

 ……本当に何してくれてんだか、パロマは。 
 私、これから出かける予定があるのに。

「あたしは食べたの一口だけど、それでも何かちょっとモヤモヤするわ~。今回は何が入ってたのかしらね?」
「う~ん。こないだみたいな自白剤でもないし。いつもの催淫剤にしては即効性が薄い気がする。……あえていうなら、怪しい発情系?」
「絶対、あの子。どっかで隠れてあたしらを観察してると思わない?」
 ダルバはキッとした表情で部屋中を見回した。

「間違いないわ……」
「とりあえず、片付けよっか」
 私たちは深い溜め息をつくと無言で皿に残ったパイを片付けはじめた。

 ……本来は美味しいレモンパイなのに。
 あぁ、もったいない。覚えてなさいよ、パロマ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

年下の地球人に脅されています

KUMANOMORI(くまのもり)
SF
 鵲盧杞(かささぎ ろき)は中学生の息子を育てるシングルマザーの宇宙人だ。  盧杞は、息子の玄有(けんゆう)を普通の地球人として育てなければいけないと思っている。  ある日、盧杞は後輩の社員・谷牧奨馬から、見覚えのないセクハラを訴えられる。  セクハラの件を不問にするかわりに、「自分と付き合って欲しい」という谷牧だったが、盧杞は元夫以外の地球人に興味がない。  さらに、盧杞は旅立ちの時期が近づいていて・・・    シュール系宇宙人ノベル。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...