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SS No.3 桜見のころ
思い出の桜木広場にて
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百合子は、美香・芳夫をともなって拝島・あきる野方面に続く五日市街道を横断した先にある並木道に入った。
並木道の入口には、『小金井公園西口』と書かれており、花見にきたと思われる見物客で賑わっていた。
ここ、小金井公園は、その昔当地の新田開発に伴い、常陸桜川・大和吉野の二箇所の山桜の一部を玉川上水沿いに移植した小金井桜の流れを汲む公園であり、山桜を主とした桜の木々が栽えられている桜の名所である。
百合子たち広瀬一家は、見物客の後を追うようにして足を進ませた。
そして、一〇〇歩ほど足を進ませた先で左側にわかれる遊歩道に入り、目的のポイントに到着した。
ここは、広瀬家の一同で小金井にきたとき、花見をするポイントであり、いまはなき秀雄とその養孫の百合子が季節を問わず遊んでいた思い出の場所でもあった。
あたりは、武蔵野らしい雑木林が元の姿を保ったまま残っていて、それに混じるようにして赤茶色の葉とトキの羽のような色の花を開いた山桜が佇んでいた。
「お父さん・お母さん。シート、ひいてもいいかな?」
百合子は、さくらの花びらがひらひらと宙をまう中、持参したブルーシートを手にもち、美香に対して確認を求めた。
「百合子、いいわよ。目の前に引いてね。」
美香は、にこにことやさしげな表情を顔に描き、百合子にジェスチャなどの指示を交えて答えた。
「お母さん、わかったわ。」
百合子もまた、美香に対して明るくにこにことした様子を見せていた。
百合子は、手に持っていたブルーシートを芳夫と手分けして広げた後、そろそろっと地面におろした。
続けて、美香は手に持っていたお弁当をシートのうえに置き、固く縛られていた風呂敷をとき、いつものごとく手慣れた様子で弁当や別途持ってきた和菓子を芳夫や百合子に配った。
「お弁当、どんなものかな?楽しみだわ。」
「どうだ、弁当からアラジンでも出てくるのかな?」
百合子と芳夫は、目の前に配られたもののうち、弁当の内容に強い関心を示した。
二人は、弁当の中身がどういうのがどのようなものなのかという期待、しらけそうな冗談も交えつつ、両手をそえ、重厚かつ高級感ただよわせるその蓋を開けた。
中の弁当は、春やさくらを思わせる内容の食材が盛り込まれていた。
まず、主食は、野に咲くたんぽぽややまぶきをイメージしたであろうキャベツにオムライスをのせたもの。
ずんだ豆やきゅうりのつけもの・昆布で木の芽吹き、桜エビとどろどろソースの焼きそばでさくらを見事に表現した和洋折衷の弁当だった。
「お母さん、美味しそうだわ。」
百合子は弁当をみるなり、明るい顔で美香のことをほめた。
このとき、彼女は、口角を下げ、目をくりくりとしたお日様のような明るくて嬉しい顔を見せていた。
「美香、美味そうな弁当だね。」
普段、おやじギャグなどの冗談のきついイメージが強い芳夫は、はっと驚いた様子を見せて美香に答えた後、生真面目げな顔を見せた。
芳夫が真面目な表情でほめることは、ネス湖にネッシーが現れたのと同じくらいめずらしいものであり、かれこれ小学生以来の出来事であった。
「よっちゃん・百合子。お弁当、つくった甲斐があったわ。」
美香は、頬をほんのり桃色に染め、手を頭に置いてかきかきしながら、照れ臭さそうな様子で言葉を返した。
百合子たち広瀬一家は、食事前のあいさつをした後、おはしを取り出してわり、もぐもぐと口に運んで弁当を食べていた。
並木道の入口には、『小金井公園西口』と書かれており、花見にきたと思われる見物客で賑わっていた。
ここ、小金井公園は、その昔当地の新田開発に伴い、常陸桜川・大和吉野の二箇所の山桜の一部を玉川上水沿いに移植した小金井桜の流れを汲む公園であり、山桜を主とした桜の木々が栽えられている桜の名所である。
百合子たち広瀬一家は、見物客の後を追うようにして足を進ませた。
そして、一〇〇歩ほど足を進ませた先で左側にわかれる遊歩道に入り、目的のポイントに到着した。
ここは、広瀬家の一同で小金井にきたとき、花見をするポイントであり、いまはなき秀雄とその養孫の百合子が季節を問わず遊んでいた思い出の場所でもあった。
あたりは、武蔵野らしい雑木林が元の姿を保ったまま残っていて、それに混じるようにして赤茶色の葉とトキの羽のような色の花を開いた山桜が佇んでいた。
「お父さん・お母さん。シート、ひいてもいいかな?」
百合子は、さくらの花びらがひらひらと宙をまう中、持参したブルーシートを手にもち、美香に対して確認を求めた。
「百合子、いいわよ。目の前に引いてね。」
美香は、にこにことやさしげな表情を顔に描き、百合子にジェスチャなどの指示を交えて答えた。
「お母さん、わかったわ。」
百合子もまた、美香に対して明るくにこにことした様子を見せていた。
百合子は、手に持っていたブルーシートを芳夫と手分けして広げた後、そろそろっと地面におろした。
続けて、美香は手に持っていたお弁当をシートのうえに置き、固く縛られていた風呂敷をとき、いつものごとく手慣れた様子で弁当や別途持ってきた和菓子を芳夫や百合子に配った。
「お弁当、どんなものかな?楽しみだわ。」
「どうだ、弁当からアラジンでも出てくるのかな?」
百合子と芳夫は、目の前に配られたもののうち、弁当の内容に強い関心を示した。
二人は、弁当の中身がどういうのがどのようなものなのかという期待、しらけそうな冗談も交えつつ、両手をそえ、重厚かつ高級感ただよわせるその蓋を開けた。
中の弁当は、春やさくらを思わせる内容の食材が盛り込まれていた。
まず、主食は、野に咲くたんぽぽややまぶきをイメージしたであろうキャベツにオムライスをのせたもの。
ずんだ豆やきゅうりのつけもの・昆布で木の芽吹き、桜エビとどろどろソースの焼きそばでさくらを見事に表現した和洋折衷の弁当だった。
「お母さん、美味しそうだわ。」
百合子は弁当をみるなり、明るい顔で美香のことをほめた。
このとき、彼女は、口角を下げ、目をくりくりとしたお日様のような明るくて嬉しい顔を見せていた。
「美香、美味そうな弁当だね。」
普段、おやじギャグなどの冗談のきついイメージが強い芳夫は、はっと驚いた様子を見せて美香に答えた後、生真面目げな顔を見せた。
芳夫が真面目な表情でほめることは、ネス湖にネッシーが現れたのと同じくらいめずらしいものであり、かれこれ小学生以来の出来事であった。
「よっちゃん・百合子。お弁当、つくった甲斐があったわ。」
美香は、頬をほんのり桃色に染め、手を頭に置いてかきかきしながら、照れ臭さそうな様子で言葉を返した。
百合子たち広瀬一家は、食事前のあいさつをした後、おはしを取り出してわり、もぐもぐと口に運んで弁当を食べていた。
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