天つ乙女と毛獣

あわ☆さくら

文字の大きさ
上 下
31 / 37
SS No.3 桜見のころ

思い出の桜木広場にて

しおりを挟む
 百合子は、美香・芳夫をともなって拝島・あきる野方面に続く五日市街道を横断した先にある並木道に入った。
 並木道の入口には、『小金井公園西口』と書かれており、花見にきたと思われる見物客で賑わっていた。
 ここ、小金井公園は、その昔当地の新田開発に伴い、常陸桜川・大和吉野の二箇所の山桜の一部を玉川上水沿いに移植した小金井桜の流れを汲む公園であり、山桜を主とした桜の木々が栽えられている桜の名所である。
 百合子たち広瀬一家は、見物客の後を追うようにして足を進ませた。
 そして、一〇〇歩ほど足を進ませた先で左側にわかれる遊歩道に入り、目的のポイントに到着した。
 ここは、広瀬家の一同で小金井にきたとき、花見をするポイントであり、いまはなき秀雄とその養孫の百合子が季節を問わず遊んでいた思い出の場所でもあった。
 あたりは、武蔵野らしい雑木林が元の姿を保ったまま残っていて、それに混じるようにして赤茶色の葉とトキの羽のような色の花を開いた山桜が佇んでいた。
 「お父さん・お母さん。シート、ひいてもいいかな?」
 百合子は、さくらの花びらがひらひらと宙をまう中、持参したブルーシートを手にもち、美香に対して確認を求めた。
 「百合子、いいわよ。目の前に引いてね。」
 美香は、にこにことやさしげな表情を顔に描き、百合子にジェスチャなどの指示を交えて答えた。
 「お母さん、わかったわ。」
 百合子もまた、美香に対して明るくにこにことした様子を見せていた。
 百合子は、手に持っていたブルーシートを芳夫と手分けして広げた後、そろそろっと地面におろした。
 続けて、美香は手に持っていたお弁当をシートのうえに置き、固く縛られていた風呂敷をとき、いつものごとく手慣れた様子で弁当や別途持ってきた和菓子を芳夫や百合子に配った。
 「お弁当、どんなものかな?楽しみだわ。」
 「どうだ、弁当からアラジンでも出てくるのかな?」
 百合子と芳夫は、目の前に配られたもののうち、弁当の内容に強い関心を示した。
 二人は、弁当の中身がどういうのがどのようなものなのかという期待、しらけそうな冗談も交えつつ、両手をそえ、重厚かつ高級感ただよわせるその蓋を開けた。
 中の弁当は、春やさくらを思わせる内容の食材が盛り込まれていた。
 まず、主食は、野に咲くたんぽぽややまぶきをイメージしたであろうキャベツにオムライスをのせたもの。
 ずんだ豆やきゅうりのつけもの・昆布で木の芽吹き、桜エビとどろどろソースの焼きそばでさくらを見事に表現した和洋折衷の弁当だった。
 「お母さん、美味しそうだわ。」
 百合子は弁当をみるなり、明るい顔で美香のことをほめた。
 このとき、彼女は、口角を下げ、目をくりくりとしたお日様のような明るくて嬉しい顔を見せていた。
 「美香、美味そうな弁当だね。」
 普段、おやじギャグなどの冗談のきついイメージが強い芳夫は、はっと驚いた様子を見せて美香に答えた後、生真面目げな顔を見せた。
 芳夫が真面目な表情でほめることは、ネス湖にネッシーが現れたのと同じくらいめずらしいものであり、かれこれ小学生以来の出来事であった。
 「よっちゃん・百合子。お弁当、つくった甲斐があったわ。」
 美香は、頬をほんのり桃色に染め、手を頭に置いてかきかきしながら、照れ臭さそうな様子で言葉を返した。
 百合子たち広瀬一家は、食事前のあいさつをした後、おはしを取り出してわり、もぐもぐと口に運んで弁当を食べていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ハナノカオリ

桜庭かなめ
恋愛
 女子高に進学した坂井遥香は入学式当日、校舎の中で迷っているところをクラスメイトの原田絢に助けられ一目惚れをする。ただ、絢は「王子様」と称されるほどの人気者であり、彼女に恋をする生徒は数知れず。  そんな絢とまずはどうにか接したいと思った遥香は、絢に入学式の日に助けてくれたお礼のクッキーを渡す。絢が人気者であるため、遥香は2人きりの場で絢との交流を深めていく。そして、遥香は絢からの誘いで初めてのデートをすることに。  しかし、デートの直前、遥香の元に絢が「悪魔」であると告発する手紙と見知らぬ女の子の写真が届く。  絢が「悪魔」と称されてしまう理由は何なのか。写真の女の子とは誰か。そして、遥香の想いは成就するのか。  女子高に通う女の子達を中心に繰り広げられる青春ガールズラブストーリーシリーズ! 泣いたり。笑ったり。そして、恋をしたり。彼女達の物語をお楽しみください。  ※全話公開しました(2020.12.21)  ※Fragranceは本編で、Short Fragranceは短編です。Short Fragranceについては読まなくても本編を読むのに支障を来さないようにしています。  ※Fragrance 8-タビノカオリ-は『ルピナス』という作品の主要キャラクターが登場しております。  ※お気に入り登録や感想お待ちしています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

七代目は「帝国」最後の皇后

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「帝国」貴族・ホロベシ男爵が流れ弾に当たり死亡。搬送する同行者のナギと大陸横断列車の個室が一緒になった「連合」の財団のぼんぼんシルベスタ・デカダ助教授は彼女に何を見るのか。 「四代目は身代わりの皇后」と同じ世界の二~三代先の時代の話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...