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決断を迫られる
しおりを挟む「カドック……」
寝台に横たわるカドックはまるで眠っているようだ。
すぐそばで彼の体に縋っていたジュディは、唇を噛み締めた。
「どうしてこんなことに……!」
医者が言うには死んではいないらしい。自発呼吸もしている。傷は塞がり、火傷跡も残っていない。
けれど、起きないのだ。こればかりは医師も匙を投げた。
そのうち起きるでしょう。そう言って、患者を置いて行ってしまった。
ジュディも最初はその言葉を信じて献身的に看病した。
けれど三週間経っても、カドックは起きる気配がない。
「私が悪いんだ。あの日オペラ座に行ったりなんかしたから。カドックを誘ったりしなければよかった! どうして、カドックを誘ったんだろう。一人で行けば私だけが被害に遭っていたのに!」
顔を真っ青にしながら、ジュディは起き上がらないカドックに謝り続けた。
そうすることで、罪悪感はもっと大きくなっていったが、謝ることでしか、ジュディは償えないと思っていた。
たまにメイドがやってきて、お嬢様は部屋でお休み下さいと労られる。それがなによりジュディには辛いことだった。
誰かに罰して欲しいのに、誰もジュディのことを責めたりしない。
正義の味方ぶった自分自身が、悪党めと言いながら断罪しに来て欲しいという馬鹿げた願望さえあった。
はやくカドックが目覚めて欲しい。代わりにジュディが寝込んでもいい。
それでも祈りは届かなかった。
朝が来て、夜が過ぎて。それを何度も繰り返しても、カドックは起き上がっては来なかった。
「ジュディ」
「大丈夫?」
カインとアベルが顔を見せても、どんな感情も浮かんでこなかった。
馬鹿な昔のジュディは自分が正義の味方だと思い込んで二人のこと悪し様に罵っていた。それはなにも知らない幼稚さのせいだ。
二人はジュディの顔を覗き込むと顔を見合わせた。
「これは、すごくそそるかも」
「不謹慎ですよ」
「カインは固いなあ。ねえ、ジュディ、俺の声、聞こえる?」
声を出すことも億劫だった。ジュディは頷いて、唇を噛んだ。
「カドックのこと、きいたよ。とても、残念だ」
「……やめて。死んだように言わないで……」
「ジュディがあの時俺の誘いを断ったりするからだよ? そのせいでカドックがこんな目に合ったんだ」
唇が割れるほど噛みしめる。カドックの体は日々、痩せ細っていく。どんどんと死が近付いていくのが分かる。それが自分のせいだと認めたくない。けれど、アベルはにこにこと屈託のない笑顔を浮かべてジュディを詰りっている。
カインは壁に寄り掛かり、ジュディを熱っぽい瞳で見つめていた。
「カイン、た、助けられない?」
「あれ、俺じゃなくて、カインに頼むんだ。へえ?」
「俺を頼ってくれるのは嬉しいですが、俺は神ではないので」
「お願い。王都で一番の名医に見せればどうにかなるかもしれないわ……!」
「ジュディがそうおねだりするなら俺もやぶさかではありませんが」
言い澱む唇には怪しい微笑が浮かんでいた。
「ジュディは俺達のこと悪党呼ばわりしたことを忘れているんですか?」
「それなのに協力しろだなんて、流石に虫が良すぎるんじゃない?」
「それは……」
二人の言い分は正当だ。ジュディが今までの付き合いに縋って、無理を言っただけに過ぎない。二人はもう、ジュディに手を貸したくもないのだろう。
「……ごめんなさい」
ジュディはマリアナのことを信じている。二人のことをまだ悪党だと確信している。
けれど、ジュディでは王都一番の名医は呼べない。誰が一番いい医者なのかさえ検討がつかないのだ。瞼を伏せて、罪悪感に折り合いをつけようと葛藤する。気持ちを曲げてでも、カドックのために頭を下げなくてはならない。
「どうしましょうか、アベル」
「どうしよっか、カイン。俺としては、少し意地悪したい気分だけど」
「奇遇ですね、俺も同じ気持ちだ」
「ジュディはものすごく反省しているんだよね?」
夢中で頷く。二人には悪いが、今だけは信じたふりをさせてもらおう。
手を顔の前で組んで上目遣いで二人を覗き込む。
にいっと二人は裂けそうなほど笑みを深めた。
「そっかあ、じゃあお仕置きされてもしかたないよね?」
「そうですね。罪には罰が必要だ」
「何をしたらいいの……?」
恐々としながら尋ねると、カインが壁から体を離し近づいてきた。
ごくりと唾をのむこむ音が妙に生々しく聞こえた。
「愉しいこですよ」
「そう、気持ちがいいことだよ、ジュディ」
近付いてくる二人から注がれる視線は湿り気を帯びている。
ちらりとカドックを覗き見る。こけていく体はだんだんとくすんだ色になっていく。枯れてしまう前の植物のようだった。カドックが死ぬことをジュディは考えたくなかった。
「どこによそ見しているのです?」
顎で強引に視界を上げさせられ、唇を塞がれた。
カインの顔が瞳や鼻がとても近かった。
肉厚な舌が口腔に入り込み、かき乱すように蠢く。
呼吸が上手くできず、体の力が抜けた。
唇を離したカインが呆然とするジュディを見て低い声で笑った。
「あー! カインってば狡い!」
「うるさいですよ」
「ジュディ、俺ともキスしよう? カインより、気持ちよくしてあげる」
ジュディが抵抗する前に唇を合わせられた。
ついばむような、かわいらしいものが何度も続く。くすぐったくて、体を震わせる。
「ジュディ、かわいい。好きだよ? 大好き……」
熱に浮かされたようなアベルの声に、蒸発しそうなほど頬が熱くなる。
甘い口付けがどんどんと深いものに変わっていく。くちゅくちゅと卑猥な音を立てながら、舌が絡まる。ジュディはますます酸欠状態に陥った。
肩で息をするジュディの首筋に生ぬるいものが這った。
「ジュディは甘いですね」
カインの舌だった。
ジュディの肌を飴玉のように何度舐め上げている。
「な、なにをしているの、二人とも!」
「なにって、お仕置きだよ」
アベルが楽しそうにジュディの頬をゆっくりと撫であげる。
奇妙な興奮が体を駆けあがった。
「ジュディは悪い子だから、俺達にお仕置きされるんです」
「大丈夫、優しくするから」
「ジュディが酷くがいいと言うなら別ですけど」
二人の指がジュディのドレスに延ばされた。アベルの手は襟から胸元に入り込み、カインの指は裾をめくりあげ、太ももに伸びた。
「や、やめっ!」
「いいの? 悪い子のジュディには俺、あんまり優しくしたくないかも」
遠まわしな脅しに、体が震える。
硬直したジュディに満足して、二人はジュディのドレスを脱がした。
下着を晒している状況に、羞恥心が破裂する。
顔を覆って隠してしまいたくなった。
「うわっ、胸小さい、かわいい!」
「ひ、ひどい!」
「ジュディ、可愛いですよ。アベルに気をとられないで? 俺とキスしましょう?」
甘い口付けを落とされる。太い舌が蹂躙するように動き回った。ジュディの意識はそれだけでもうたまらず、へろへろになってしまう。
「ねえ、ジュディ、君の可愛い胸、揉んでいい?」
そう言って、アベルは下着をずらして指を滑り込ませてきた。
冷たい指の感触に体が震える。その震えさえのみこむように、カインの口づけが深くなる。
「うわあ、ぷにぷにしてる」
「っ……! ひぃ!」
アベルの指が何度も胸おした。指先の感覚がむずがゆく、だが同時に腹部の下の秘められた場所がじゅくりと潤むように湿る。焙られているような羞恥心が沸き上がった。
カドックが側で寝ているというのに、淫らな陶酔を感じてしまっていた。
「童貞」
「うるさいなあ、ジュディ以外の女なんて抱けないでしょ」
アベルの指先が乳輪を弾いた。
「んっ……!」
甘い喘ぎ声が自分の喉から出たことが、ジュディには信じられなかった。
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