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第三章 嫌われた王子様と呪われた乞食

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「大変失礼しました。感動のあまり意識が遠く。それで、はなおとめがおっしゃる別の世界とは脳内のお話でしょうか」

 床で倒れたヴィクターはしばらくすると自力で起き上がり開口一番そう言った。慇懃無礼ないいように閉口する。
 後ろでユリウスが笑いを堪えていた。おい。

「違うわよ。本当に、別の世界のカルディアなの。……自分で言えば言うほど気が狂っていると思われそうね、これ」
「よく分かっているじゃないか。自覚があって何より」
「でも、本当に私はこちらの世界のカルディアではないの。こちらとあちらだと歴史だって全然違う。ヴィクターだって、私の記憶が正しければとてもお淑やかな令嬢のような言葉遣いだったし」
「……? それはどのような」
「ええっと。そうですわね。その通りかと。みたいな感じ」

 ヴィクターはぴしゃりと固まった。

「ぼくが、そんな言葉遣いを?」
「ええ。妹の喋り方を真似していたのだと思う」
「ぼくが社交的ではないから、妹の真似を? 非効率的だな」
「違う」

 言っていいものか迷ったが、打ち明けないのも不自然だろう。意を決して口にする。

「お前の妹が死んだと言っていたわ。酷く痛めつけられたのだと、聞いた。それが原因で彼女が自害したから、彼女の口調を真似るようになったのだと思う」
「――なるほど」

 ヴィクターはゆっくりと頷いた。

「正直、ぼくがそういう感情的な真似をするのかは議論の余地があると思いますが。まあ、言葉遣いというのは些細な問題です。……とりあえず、はなおとめの主張は本当であったと仮定してみましょうか」

 彼の声は淡々としていた。私もあまり感情を表を出さずに軽く説明した。起きたら、あちらの世界で眠ったはずなのに、こちらの世界で起きたということ。あちらではクロードと結婚していないし、ギスランも生きている。人間関係がこちらとは全く違う。そう簡潔にこぼすと、ヴィクターは唇に手をあてて悩んでいるようだった。

「大切なのはこの体の持ち主である姫に戻ることだよ」

 ユリウスがヴィクターに確かめるようにそう言った。

「この姫に長居されると困る」
「どのはなおとめだろうと、はなおとめであることは変わらないのだから、別にいいと思うけど。馴染んで貰う方がいい」
「はあ?! 何言ってるの、ヴィクター。いいわけないでしょ。このなかに入ってるのが本当にカルディア姫なのかも分からない状態なんだよ」
「ぼくにとってははなおとめであることはかわらないし、そもそも何か害があるならユリウスを頼らないはずだ。ぼく達に説明する理由もない」
「……それは、そうかもしれないけど」

 言い合う二人の間に割り込む。ヴィクターのいう通りになって貰ってはたまらない。私はあちらに帰る方法を見つけたい。

「待って。共有させて欲しいことがあるの。私もあちらに帰りたい。私はあちらでやることが沢山あるし、それにここは私の世界じゃない。元々の体の主にかえしたい。かえせるならば、だけど」
「……そう、か。ならば、はなおとめの望む通りに助力します」
「ま、そこの利害は一致していて安心した。さてと、まずはこの状況になった原因の話をして欲しいな。ほら、魔眼がどうたらと言っていただろう?」
「え? あ、ああ。ヴィクターが私の目が魔眼になりつつあると言っていたわ。魔眼の付属的な効果が私の場合は夢見で、その夢見のせいでこんなことになっているのではないかと」
「……もしかして、何度か同じようなことを経験されている?」
「こうやって体を乗っ取るのは初めてだけど、他の人間の視点を共有したことはある。――けれど全部夢だと、思っていたわ。こうなるのは初めて」
「魔眼ですか。なるほど、盲点だったな」
「ヴィクター、だけど、魔眼を彼女は持っていないだろう? 少なくとも、僕にはそう見えない」

 ヴィクターは難しい顔をした。二人の目から見ても、私は魔眼を持っているようには見えないのだろう。

「確かに魔眼を持っているようには見えない。けれど、魔力の流れがおかしい。はなおとめは魔力を消費するものなんか持っていないはずなのに、周囲の魔力が消えている」
「僕はそういうのあまり得意じゃないから見えないんだけど」
「だらしのない目だ」

 呆れたと言わんばかりに、ちらりとユリウスを見て、ヴィクターの視線が戻ってくる。

「といっても微量だ。何に消費されているかは分からないよ。――魔眼はいまだ、未開の地に違いないけれど、これだけははっきりしてる。体に焼きついたものということ。こちらのはなおとめもあちらのはなおとめも同じように魔眼を持っている可能性は高い」
「魔眼は生来のものだからというのは僕にだって知識がある。でも、僕はカルディア姫の生まれたときから知っているが、魔眼は確認したことがない。確かに、夢見の噂が出たことはあるけれど、根も葉もない噂だ」
「ま、待って。じゃあ私はどうして『塔』にいれたの?」

 ユリウスは目を丸くして、静かに口を開いた。

「神託があったからだ。サガル王子とカルディア姫は『聖塔』で十歳になるまで育てられるべきだと」
「神託!? 初めて聞いたわ。私は、変な予言をしたから、『塔』に……いえ、待って。『聖塔』と言った? サガルが、押し込められている場所よね?」
「ええ。清族の実験場です。特にサガル様はとても珍しい症状でしたから、特に注目は高かったと聞いています」
「私とサガルが入れられたのが、『聖塔』? ……クロードは病院のようなものだと言っていたけれど」
「病院という表現は間違っていない。同じようなものだし」
「ーーユリウスの認識はあまりよくないと思うけど。『聖塔』での扱いは、実験動物のそれだったと聞き及んでいるけれど」

 息が出来なくなるほど驚いた。サガルが薬を試し過ぎておかしくなったと言っていたが、もしかして『聖塔』での扱いのせいなのではないだろうか。
 幼い頃に、何かされたから体から羽が生えて来たのか。というか、そうならばこの体も実験動物のような目にあっていたのか?

「待って待って。確かに病状が日々日々悪化していったサガル様には色々な術を行使してどうにか悪化しないように努めていたけれど、決して害を与えるためじゃない。そもそも王族を害するなんて考え、恐れ多すぎる。きちんと王宮から使者が来て毎日状況を報告していたからね」
「そうなの? じゃあ私とサガルは無事に外に出れた?」
「そうだよ。十歳になったら『聖塔』を出て、二人揃って社交界デビューだ。『聖塔』ではきちんと勉強を教えていたからそこまで苦戦はしていなかったと思うけどね。今より『聖塔』は出入りが厳しくなくて、貴族の出入りもあったし」

 ……?
 じゃあどうして『聖塔』は人の出入りが制限されるようになったのだろう。
 何か、あったのだろうか?
 話の流れを途切れさせることになるかと考えて、疑問を飲み込む。

「社交界に出て、私はギスランに会った?」
「まさか。さっきも行ったけど、当時『聖塔』は出入りがしやすかった。だから姫と婚約者は仲が良かったよ」
「……私の母は死んでいる?」

 なるべく声に波を立てずに尋ねる。母の死は私に大きな影響を与えた。
 ヴィクターもユリウスも言いにくそうに表情を暗くした。それだけで答えが分かった。

「死んでいます。そう尋ねられるということは、はなおとめの世界でも?」
「ええ。王妃がーー」
「王妃?」
「ええ、王妃がーーサガルの母親ね。あの女が殺した」

 息を吐き出すように告げると、二人は顔色を消して俯いた。しばらくして、顔を上げた。

「久しぶりに王妃様の話を聞いたな」
「……そうなの?」
「ええ、はなおとめ。あの方は離宮に閉じ込められています。ーー毎日、違う拷問を受けています」
「ど、どうして!?」
「陛下への暗殺未遂を首謀した疑いがかけられたためです。もう二年になるかと。拷問官は悪虐非道と名高い処刑人のイヴァン。清族は誘惑されぬように目を潰しています」

 イヴァン。その名前を聞いて知らず知らずのうちに唇を噛んでいた。この世界の私はトーマともイヴァンとも交流がない。従者として側にいたあいつらが手に届かない遠いところにいると思うと落ち着かない気持ちになる。音楽家のイヴァンじゃない。処刑人のイヴァンなのか。落ち着けるために目を瞑る。大切なのは、現状把握だ。憤ったところでどうしようもない。ここは私の世界じゃない。

「私の母を殺したのはあの女で間違いがない?」
「……そうだ。王妃リヒテルが君の母親を殺した」
「そう。じゃあいろいろあって私が死にそうになったりトヴァイスとノアが婚約者になったりはしてそうね。ーーそして、十五の時にギスランが死んだ」

 否定の言葉はなかった。きっとそこら辺はあまり違いがないのだろう。色々と違うところはあっても根っこのところはあまり違いがないのか? だが、ギスランの死は明らかな差だ。これをただ違いだと見逃していいものか。

「そのあとクロードと結婚した。そういえば、私とリストは仲が悪いの?」
「そうなの? 僕は聞いたことないけれど。大体、十六歳ぐらいのとき、姫はリスト様にべったりだったくらいだよ。クロード様ではなく、リスト様と婚約するのではと言われていたぐらいだ。クロード様と結婚して疎遠になったというだけじゃないかな」
「はなおとめは人妻ですが、リスト様との関係は今でも根も葉もない噂で満ちています。恋人関係、愛人関係、産んだ子供は実はリスト様とのお子ではないか、という話もあるくらいです。あまりそういった噂を増長させないために関わりを絶たれていたのでは」
「ありえる話ではあるわね」

 でも、クロードのあの態度、それだけじゃなかったような気がするけれど。

「ーーサガルのことも嫌っていたと言われたわ。そのことについて心当たりは?」
「…………。そ、れは」

 ユリウスは饒舌さを引っ込めて、ぎこちなく言葉を落とす。何度も口の中で言葉を繰り返すように、もごつかせて黙り込んだ。

「僕の口からは言いにくい。ただ、『聖塔』にいたときは姫とサガル様は仲睦まじかった。サガル様が薬を濫用するようになったのは、十七のときだよ。誕生日にーー」

 ユリウスはごくりと唾を飲み込んで続けた。

「フィガロ様が」
「フィガロ?」

 知らない名前だ。ユリウスは視線を彷徨わせ、目を伏せた。

「フィガロ・バルカス公爵」

 バルカス公爵家。大四公爵家の一つであり、私の母の生家である。バルカス公爵は私の叔父で、一時期お世話になっていた。

「……? 聞いたことがないわ。遠縁にそんな名前の男がいたかしら」

 叔父は私の世界では結婚していなかった。する気もないようだった。幸い、兄様達がいるし、跡継ぎには事欠かない。
 家系図を思い出すが、やはりそんな名前の人間を聞いたことがなかった。もしかして、あの叔父様が結婚したのか?

「いえ、はなおとめ。実は」
「娼婦との間に子が出来たらしく、養子としてバルカス公爵が迎え入れたんだ。――おそろしく、バルカス公爵に似た愛人の子だ」
「な、そ、そんなこと、出来るはずないわ」

 いくらバルカス公爵――叔父様の血をひいていようと娼婦の子を養子に? 誰が黙っていられるというのだろう。貴族達は絶対に批難するだろうし、バルカス家は王族にとって身内だ。由緒正しい、王族に近しい家に不純物を混ぜるなんて認めないはず。

「ですが、バルカス公爵はこの間の戦争であまりにも大きな戦果を上げました。騎士の中の騎士、あのヨハン・ハウスベルがついていたということを加味しても、辺境まで語り継がれるほどの英雄的な活躍だったのです。バルカスの領民は彼を信奉しており、カルディア教の布教にも熱心で、貴族は歯噛みしながらも受け入れています」
「――そんなこと、本当にあるの。信じられないわ。戦争が始まる前に公爵の座から引き摺り下ろされるはずよ」

 ユリウスはそうだよと頷いた。

「サガル様の話を戻そう。この話はサガル様に繋がるから。サガル様については薬を服用して『聖塔』に閉じ込められていることだけしか知らない?」
「……背中に天使の羽が生えたとクロードには聞いたけれど。そもそもどうして薬を服用したの? 清族の術でどうにかしていたのではなかったの」
「そうですね。術で人前に出れるようにしていたのは事実です。ですが、清族を使って一時的に病状をおさえることはできても、術がとけてしまえば元に戻ってしまいましたからね。必ず清族が近くにいなくてはならないという制約もありましたので、そこが不便に思われていたのは確かだと思います」

 私はその病気ではないので、どれだけそれが不自由であるかは分からない。ただ、他人がいなければ満足に日常が送れないということを思うと、完治したいと思うのは普通だと思う。サガル兄様だって、一人になりたいと思うときぐらいあるだろう。

「サガル様は王位継承争いに参加するつもりは欠片もなかった。きっとバルカス家を継ぐつもりだったんだろう。バルカス公爵も、それに応えるつもりだった。けれど、フィガロ様が当主の座についた」
「サガル様に残されたのは、結婚をして婿になるか、聖職者になるか。しかし、彼はそれを二つとも拒否した。――結婚をしたくなかったのでしょう。子供は、否応なしに王位継承に巻き込まれる可能性がありますからね」
「もう一つの選択肢である聖職者にはなりたくないだろうね。なにせ、イーストン卿との相性は最悪だ。水と油だよ。決して交われない」
「どちらも受け入れられないならば、奪った男から奪い返せばいいと思われたのでしょう」

 だから、サガルはフィガロを引き摺り下ろしにかかった。けれど、失敗した。そう二人は言った。

「フィガロ様は政治がお上手だった。相続した半分をカルディア教に寄与して、教団を後ろ盾にした。貴族達の動きも、イーストン辺境伯を通じて、沈静化させた」
「……そんなに、上手く行くわけない」
「そうだよ、皆がそう思った。けれど、彼は事実、今もバルカス公爵の地位にいる。彼が何度か死にかけたという話は聞くけれど、死んだとはまだ聞かない」
「先代のバルカス公爵がサガル様に地位を譲らなかったのは彼の病を理由にしたと聞きました。サガル様の動揺が、憤りが、ぼくには少し分かるような気がします」

 だから、完治しようと思った。治して、見返してやりたいと思った。説明は、つくような気がする。それでも、受け入れることが出来ないのは、サガルがそんな理由で愛人の子より劣ると判断されたのが信じられないからだ。
 叔父の性格は分かっている。サガルを病を持っているからと冷遇する人じゃない。
 頭の中に浮かんだもう一つの可能性は生々しくて、嫌になった。叔父が、自分の血が繋がった子に継がせたかった。だから、病を理由にした。
 ……最悪な想像だ。
 ーーでも、この話、私がサガルを嫌う理由には結びつかないな。経緯は分かったけれど、私がサガルを嫌う理由が欠片もない。

「まあ、そんなわけで薬の飲み過ぎでおかしくなったわけだ。おそらく、清族用の薬を服用したんだろうね。呪いに対抗するためのアレはたまに普通の人をーー」
「待って。そういえば、それ! それの話を忘れていたわ!」

 私はユリウスを指さした。正確には、頭の上にある渦を巻いた角だ。羊に似たそれを、ユリウスは触って首を傾げた。

「はて?」
「何当たり前のような顔をしてその姿でいるの!? お前のその角はいったいなに!?」
「何と言われても。角だけど」

 眉間を揉む。ユリウスは明らかに私をからかっていた。

「私、あっちの世界でお前みたいな異形のものになったのよ。トヴァイス・イーストンとノア・ゾイデックと一緒に」
「……うん?」
「私とトヴァイスとノアが一緒に」
「いや、そっちじゃなくて。なった? 清族じゃないのに? どうやって?」
「『カリオストロ』の本を開いたのよ。そうしたら呪いがかかっていたみたいで」
「『カリオストロ』? 呪い? 困ったことを言わないでくれるかな。どうして『カリオストロ』
 の本だなんて変なことを言うんだ。あそこは僕達にとっての聖地で、本にできるものじゃない」

 ……? なんだか、話が噛み合っていない。聖地の話なんてこっちはしていないのに。

「『カリオストロ』の予言書の話をしているわ」
「『カリオストロ』は僕達の聖地の名前だ。正確には死に神様が住まわれる地下帝国の別名。大体、僕達の宗教に予言書はない。――天帝を讃えるラサンドル派だって、予言書はないはずだよね」
「ないに決まっている。ぼく達は天帝様のお声が聞けるんだから」
「僕達だって同じだ。死に神様のお声が聞こえる。予言書は必要ない。聖書やらなんやらがあるのはカルディア教だけだよ」
「……ど、どういうこと? でも、たしかに私の世界では『カリオストロ』には予言書があったわ。それにサンジェルマンだって『カリオストロ』の一員で私を屋敷に招いた。もしかして、『カリオストロ』という組織自体がないの?」
「サンジェルマン? サンジェルマン子爵のこと?」

 子爵!?
 ど、どういうことだ?
『カリオストロ』の予言書はないのに、サンジェルマンはいるのか。しかも、子爵?
 頭がくらくらする。情報の海で溺れそうだ。世界全体は似ているのに、根本的な何かが全く違う別のものなのか? だから、こんな変なことになっているのか?

「サンジェルマン様は、別に死に神様を信仰していないけれど。むしろ、過激なカルディア教すぎて異端呼ばわりされてる派閥に属しているぐらいだし」
「あいつ、貴族になっているの?! 私の世界じゃあ、あいつは王都にいる平民の一人だったわよ」
「戦で功績を立てて子爵になっているんです。ぼくはお会いしたことがありませんが」
「二百年は生きているおじいちゃんだからねえ。あんまり外に出たがらないんだ」
「戦で功績を立てたってどうやって!? あいつ、屋敷が本体でしょう!?」

 サンジェルマンはあの立派な屋敷が本体だった。人形を使ってそれらしく振舞っていたが、あの屋敷を出て戦に参加できるとはとても思えない。

「それも知ってるんだ。サンジェルマン子爵は王族に資金援助をして、しかもあの屋敷を動かしてトーマと組んで敵の大隊を壊滅させたんだよ」
「……頭が破裂しそう。どうなっているの、これ。サンジェルマンは『カリオストロ』の一員のはずなのに、こちらではカルディア教に属している? というか、『カリオストロ』が死に神の居住地の名称? じゃあ、ジョージは? 私を恨んでいる連中はいないの? そうよ、王族が気に入らないという『聖塔』の動きは? いや待って、『聖塔』はこちらだと清族が管理している塔の名前……?」
「はなおとめの住む世界とこちらとでは同じ言葉なのに意味が全く違うものがあるということのようですね」

 ヴィクターの言葉に黙って頷く。混乱しすぎて、全然まとまらない。

「『カリオストロ』はとても過激な女神排斥の組織よ。さっきも言った通り、『カリオストロ』を読んだトヴァイス曰く、予言書だと。その『カリオストロ』を読んで私とトヴァイス、そしてノアは異形になった。その後サンジェルマンと接触して、色々あって彼が死んだーー燃えたの。そこから、『カリオストロ』はノアの手で粛清されていった」
「さっきと同じことを繰り返すけれど、『カリオストロ』は聖地の名前だ。予言書なんかじゃない。『カリオストロ』という名前だけが一人歩きしているだけだと思うよ。あるいは程よく名前を利用されているだけ」
「サンジェルマンはどうして受け入れられているの? 普通ならば化け物だと言われてもおかしくはないでしょう?」
「僕の角を見ながら言うのは意味深だな。言っておくけれど、サンジェルマン子爵はかなり特異な存在なんだ。皆あの爺様の本体が屋敷の方だなんて思ってないよ。社交界に顔を出さないし、人嫌いで通ってるただの人間だと思っている。僕は彼に居住地を提供されたから知っているってだけで、秘密なんだから」

 今更、ユリウスが言っていた屋敷を動かしたという言葉が頭の中に入ってくる。サンジェルマンは移動出来たのか。
 屋敷がのてりのてりと歩く姿を想像すると、とてつもなく変だ。考えてると神経がおかしくなりそうで途中で思考を中断する。

「ユリウスはお金がなかったの? 居住地の提供だなんて」
「まあ、ないね。だって僕らはアストロからの移民だし」
「アストロ……」

 聞き覚えがある。こちらに来る前、ヴィクターの口から聞いた。

「獣人帝国アストロのこと?」

 そうだよ、とユリウスは頷いた。

「僕は今はなき獣人帝国アストロからやってきた移民だ」

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