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閑話 無辜の人々
土曜日は知恵者が集まり。
しおりを挟むギスランは魯鈍な意識を糸のように手繰り寄せ、どうにか掴む。目をしっかりと開けると喉に激痛が走った。それもそのはずだ。ギスランの記憶が正しければ、ほとんどゼロ距離で撃たれた。
油断していなかったかと言われたら嘘になる。ギスランは清族で、魔力を持たない一般人達とは強さの格が違う。
だから、逃げおおせられると思っていた。自信もあった。
――サガル様があの場にいて、動揺した。
瞬間移動が使える人間はほかにいると分かってはいたが、トーマがいつか言った通りリスクが高く乱発するようなものではない。
上手くいかなければ命を落とす。下手を打つと死ぬよりも辛い目に合う。
サガルが清族にやらせるとは思わなかった。彼はなんだかんだと言って懐に入った人達を大切に扱う。物として扱えない。
無理矢理能力を使わせるとは思わなかった。それほどカルディアを迎えに行くことを重要視しているとは思っていなかったのだ。
カルディアを思う気持ちを軽んじていた。清族一人使い潰そうとも構わないと思うぐらい強い気持ちがあったとは。
瞬間移動の演算に手間取った。
近いところに飛んでしまえばすぐに追いかけてくる。だからなるべく遠くの座標へ。場所を絞り、位置を把握し、飛ぶための最適解を演算する。そんな演算処理の最中に狙撃だ。
煙を上げて撹乱するだけで精一杯だった。そのあとはなし崩しだ。
カルディアのことが気になる。目の前で撃たれて、泣いていないか。
すぐに駆け寄って抱きしめたいが、そもそもここは現実世界ではなさそうだ。
ギスランは視界に入れようとしなかった少年に目をやる。目の前でぶすくれた顔をしていた。
腕は六本、蟹のようについていた。
「やっと起きましたね? すっごい待ちましたよ、死すべきもの」
何者だ。と動かした口がうめき声しかあげない。とっさに喉に手を当てる。指がぷすりと奥まで沈んでいき、首の裏の皮膚まで辿り着く。
骨を貫通して、喉にポッカリと穴が出来ている。
夢だとやっと理解が追いついた。あるいは、死に際に見る走馬灯のようなものか。どちらにせよ、ギスランの意識はここに縛り付けられていた。
「ああ、喋れませんよ? なにせ君は死にかけですから。というか、片足以上突っ込んでいるんですよ。よく生きてますよね。虫けらみたいで気持ち悪いー! しぶと過ぎやしませんか?」
馴れ馴れしい少年は手に本とペンを持っていた。二つの腕で何かを書き取りながら、残りの四つを忙しなく動かして、本のジャグリングを始める。
本のタイトルは古語なのか判読できない。本自体はそう古そうには見えないが、古本独特の埃っぽいが漂ってくる。
「人というのは未知の箱に例えられますけど、君達のそのよくわからないけれどしぶといところ、惨めで好きですよ。単細胞生物みたいで可愛い」
ジャグリングを止めて、少年がゆっくりとギスランに近付いてきた。すると、少年は幼い見た目をしていたのに、ギスランの倍以上の大きさがあった。服は麻で出来ており、風通しが良さそうだ。二の腕は露出していて、細い腕が六本あった。
東方に同じような姿をした神の伝承があったはずだ。烈火のごとく怒り狂い、地獄で罰を与える拷問者でもあった。
悪夢以外の何者でもない。だいたい、ギスランは人に見下されるのが嫌いだ。傅かせたくなる。超然的な存在だろうが、従えたくなるのだ。
「ふふ、僕ですね、秋の妖精王なんです。……どうです? 驚きました? まあ、正式には妖精王になった、ですけど。まあ、そんな瑣末なことはどうでもいいんですよ。問題は、僕が君の命の手綱を握っていることですし」
妖精王が四季に分かれて存在することは知っている。妖精達の噂を耳にしたことがあるからだ。
秋の王は、気まぐれ。森を愛している。そうどこかの妖精が言っていた。
「ほかの妖精どもは追い払ってみました。煩わしくて、話どころじゃありませんでしたし。いっぱい契約しすぎじゃありません?あれじゃあ、君の骨も残りそうもないのに」
思えば確かに体が軽い。いつもならば、妖精達に食われる苦痛が少しはあるはずだが、なくなっている。それは夢だからか、それとも現実だからか、ギスランには判断がつかない。
「そんなことは、言われなくても分かってるかもしれませんけど……。死にゆく君に提案があるんですけどお。僕と契約してみませんか?」
あいにくと、もう捧げられる部位が残っていない。そう思いながら首を振る。
「心臓が残っているでしょう? とろけそうなぐらい美味そうな臭いをさせていますもん」
この心臓はカルディア姫に捧げている。誰がお前達獣に食わせるものか。ギスランの強い意志が伝わったのか、少年は首を竦める。
この肉体はカルディアのものだ。心も、口から吐き出す言葉も、全て。体の大半は契約で残ることはないが、心臓は死守した。死んでも、カルディアの一挙一動に高鳴った心臓だけは残せる。
心臓だけ残るのはグロテスクだろうが、何も残せないよりはましだろう。
「いいえ、君は僕に心臓を差し出しますよ。僕ならば、君を蘇らせてあげられますし」
馬鹿げている。妖精の王とてそれは難しいはずだ。心臓と体では釣り合いが取れない。
「心臓はついでですよ。目的は別です」
言葉を区切った少年がぴくりと何かに気がついたように体を強張らせた。
「ろどんなまどろみは天帝様の夢をのぞきこむよう。空に星は輝かず、月は地を照らさない。老樹の大木が空木になるのは、いつ? しりたい、しりたい。おしえて、しえて」
体の上から声が響く。
その声につられるように妖精王が顔をあげる。恋する少年のような初々しい表情をしながら。
「ミミズク?」
ミミズク。そう言われて思い浮かべるのは、カルディアに妙に懐いていた鳥だ。羽を毟りたい衝動を襲われる。もしかして、今もカルディアと同じ空気を吸っているのではないだろうか?
「うつろぎ、うつぎ。空は、きれい。なかにいるのはだれ?」
「ああ、懐かしい声。幼くて、舌ったらずで……。愛すべき僕の弟子。教えて教えてと乞い願うミミズク。――――。ほら、僕ですよ、覚えていない?」
ミミズクの名前だろうか。一瞬だけ聞き取れなかった。まるで知ってはいけないもののように、音が消えた。
「知らない、妖精?」
「違います。僕は僕。森でいっしょに問答をしたでしょう? お前は僕を知りたがった。僕の気持ちに、神の成り立ち、この世の終わり。なんでも教えてあげたでしょう? 覚えていない?」
「森? あそこはとじた」
「そう……」
複雑な思いの滲む同意だった。それでいて、どこか安心したような矛盾した思いを孕んでいた。
「ギスランのことを訊きたいんですよね? 教えてあげる。もうすぐ死ぬ。瞬きの間。彼らの時計に合わせると、あと少し、と言ったところ」
「あと、あと、すこし?」
「月が、満ちて、欠ける。満ちて、欠けて。満ちて、欠けて。それが、五回」
「月が、満ちて、欠ける。満ちて、欠けて。満ちて、欠けて。それが、五回?」
「そうだよ」
妖精王は簡単に請け負った。五ヶ月。
楽観的な数字だ。
ギスランにはそうは思えない。体が悲鳴をあげている。もう持たない。もう無理だ。
今年に入ってから、死への希求がずっと熱を膿んだまま燻っている。
たまに死んだ方がましだと思うぐらいの痛みが走る。
本当にあと、五ヶ月も持つのだろうか。いや、もたせなくてはならない。カルディアとまだ側にいたい。
「体、もたない」
「それはそうでしょう。眷属とは言え、お前自身のためではなく、人のために聞いている。しかも何の見返りもなしに。それは、あり方として間違っているんですよ。きちんとしなさい」
「起こしたら、もっとひどい、の?」
「こら、人の話をーーって、ミミズク?!」
急に声が聞こえなくなり、妖精王がじたばたと暴れ始める。
「やはり無茶をしていたんですね……! ただでさえ呪いを受けている身でありながら、違法ぎりぎりを責めてしまうなんて。どうしてそんなに馬鹿なんでしょう。天帝のところで何一つ学ばなかったんでしょうね」
知り合いかと眼差しで問いかける。
弟子だなんだと言っていた。よほど、古い妖精なのかもしれない。清族の誰もが、あのぼけぼけしたミミズクの出生を知らないのだ。同時期に生まれたのだろうか。
「……話の途中でしたね。僕と君の取引の話に戻しましょう。僕が欲しいのは心臓と時間です」
時間? と眉を上げる。
「一日でいい。体を貸してくれないでしょうか。あの子――ミミズクに会いに行きたい」
会いにいけばいい。妖精は実体を持っている。魔力がない人間には見えないが、存在はしているのだ。
「あの子は僕を認識出来ないんですよ。そう言う呪いにかけられているせいで。正式には僕のせいなんだけど……。お陰であの子は予言書の予備になってしまったし、僕も妖精に堕落しちゃいました」
ミミズクに呪いがかかっている?
確かにあの能天気さは一種の呪いだ。だが、妖精王の言う呪いは簡単に引き起こせるものではない。予言書の予備というのも理解不能だ。
きわめつけは妖精に堕落した? まるで、自分が妖精の上位種だったと言わんばかりだ。
「契約してくれませんか?」
「――まさか」
急に声が出た。首を確認すると、穴が塞がっている。
「実は、君の体はすでに完治しているんですよ。喉だって塞いでおきましたので」
「先んじて、反論を潰していたのか?」
「交渉事の常識ですよね? 君達がまだ城を建て、大掛かりな戦争をする前の時代に学んだ知恵です。断れないようにしてしまえと」
「断れば、どうなる?」
「君は死にますよ。ついでに無茶苦茶な契約をした僕も死ぬことになります。死ねば諸共ってやつですか? 悲劇的な最期はごめんなんですけど」
心臓と時間。それと命を天秤にかける。
自分の命だけならば、死んでしまっても構わない。だが、天秤の上に乗っているのはカルディアの命もだ。
バルコニーから飛び降り、虫のように這いずった彼女の姿が脳裏によぎる。鳥人間に殺されそうな姿もだ。あんなことを二度と起こさせない。
カルディアは幸せにならなくてはならない。カルディアの幸せが、ギスランの幸せだからだ。
死ぬわけにはいかない。死ぬとしても、カルディアが上手く生き残れるようにしなくては。
たが、ギスランのなかには身勝手な欲求もあった。自分以外のものになるならば、彼女をぐちゃぐちゃしたいという薄汚い考えだ。
「考えるべきなのはどう生きて死ぬか、でしょう? 人生に意味はない。意味を残すものですから。さて、恋に生きる死すべきものよ、僕と一緒に短いながらも有意義な日々を送りましょう? 惨めに死ぬより、そっちの方が何倍も楽しいことだもの」
皮肉交じりの笑みに、ギスランは虚を突かれた。
「――有意義な人生」
「ええ。好きな女を抱いてもいないんでしょう? 心残りがあるじゃないですか」
下卑た物言いに眉を顰める。カルディアを抱くという言葉が気に障る。ギスランだって男だ。不埒な想像をしたことがないわけではない。だが、誰かがカルディアの痴態を想起させる言葉を吐くだけでも不愉快だ。
その時、天啓のように思い出した。カルディアがもし、ギスランと結婚しなかった場合、どうなるのかを。
一番有力なのは、和平のための結婚。蠍王との婚姻だ。あの国王ならばやりかねない。ほかの国の男に嫁がせるなんて想像したくもない。いや、そもそも、ギスラン以外の人間の妻になるカルディアを認められない。
彼女はギスランのものだ。愛し、愛されるの自分だけだ。
やせ細った彼女が差し出した苺タルトを思い出す。味を知らない癖にギスランに勧めるものだから、最初はびくびくしてしまった。口に入れると、甘くて、食べてきたどんなものよりも美味しかった。
カルディアは幸せそうに頬骨が浮き出た顔で笑ったのだ。よかった。ほら、言った通り美味しいでしょう?
幸せを知った。幸福の味を感じた。
カルディア姫と胸の中で呟く。
心が、決まった。
「お前、名前は?」
「名前なんて名乗る必要あります? ……まあ、名乗ってあげなくもないですけど。――――」
「? 聞こえなかった」
「……いや。もういいです。そう言えばこの名前はすでにここにはないんでした。忌々しい限りですが、仕方がありません。僕のことはユダとでも」
「ユダ……。契約内容は、私を生き返らせることで構わない?」
生き返らせる。そんな契約は聞いたことがない。ミミズクと話すため、という理由に比重が傾き過ぎているのも納得がいかない。だが、契約で縛ってしまえばどんな理由であれ関係はない。
妖精は契約に縛られる。どんな意地悪な妖精でも、それは絶対の理だ。嘘偽りは口に出来ない。
「僕はその心臓と、一日体を使う権利をいただきます。ああ、そうだ、早く起こされて下さいね? 言っておきますけど、僕はかなり古い妖精で、力はあるけど死にかけなんです。このまま起こされなかったら、僕の方が先に衰弱死します。そうしたら、自動的に契約自体も切れて、心中ですよ」
「……それだけは断固として拒否したい」
「それは僕もですよ」
ユダは六本ある手の指を爪で切りつけ、血を流す。ギスランも歯で指の腹を噛んで血を出した。お互いの傷口をすり合わせ、血をなじませる。
体が重くなる感覚がして、目を閉じる。体の中で何かが悲鳴を上げていた。
心臓が残らない。それで、いいのか。人として死にたかったのではないのか。
内なる声にしては未練がましい。恋に生きると決めた時から、覚悟は決まっている。
「契約完了だ。惨めに死ぬ時まで、付き合ってもらう」
「ええ、よろしく」
――これは、ギスランの。
そう思った瞬間、意識が別のところに飛ぶ。絡みとられる一瞬、誰かがギスランを呼ぶ声が聞こえた。
「眠る気はないのですね」
「ない。……カルディア姫の説得を手伝うつもりは?」
「申し訳ないのですが、それは難しいですわね」
「いつのまに懐いたか知らないが、あの方は私のものだ」
憮然とした顔のまま言うので、ヴィクターはくすりと笑ってしまった。
ギスランの寝台だった。寝そべる彼は病人らしく顔が青ざめていた。
「奪うつもりはありませんわよ」
「だが、カルディア姫について回っているだろう? 何か、あるのか?」
「まさか。ただ、愛らしいなあと見守っているだけですわ」
「ありえない。見るな。目を抉る」
わたわたと寝台の上で文句を言うギスランは、殺意で漲っている。
サガルによって息の根を止められる寸前、彼は瞬間移動のための演算と銃弾を受けても死なないようにバリアを張る演算を同時に行っていた。
二つとも体を動かすことが困難になるほど重い処理が必要になる。並みの清族ならば、頭が沸騰し失神する。
ギスランだとて、無傷とはいられない。
無茶が祟ったためか、うまく魔力の出力が出来ておらず、術も妖精も使えないようだ。
無理をすれば反動が来ると分かっていながらやったのだから、どれだけ危機的状況だったか伺えるというものだ。
そんな満身創痍な彼を恐れる必要がなかった。
――それにしても凄い量の妖精だ。少し増えた?
眠っていた時とは違い、まるで蜜に群がる虫のように、妖精が大挙して押し寄せている。
魔力の火照りも、集中せずとも感じられる。体調はともかく、魔力は十分戻っているらしい。
――すぐにだって体調を戻してあげたいけれど。僕でも難しい。何かが、ギスランが眠っている間にあったはず。
ギスランの顔色を伺いながら、ヴィクターは慎重に言葉を選ぶ。ギスランを怒らせるのは得策ではない。
「だって、はなおとめですもの」
「意味不明だ。はなおとめとは?」
「秘密ですの。それに正しく理解できるとは思いませんし」
「……天帝に関連している? まあ、いい。カルディア姫を厄介事に巻き込むな。あの方の思考を独占していいのは私だけ」
微笑みを浮かべていても、実際には冷徹で情がないと言われているギスラン・ロイスターとは思えない執心ぶりだ。
――恋は人を変えますのねえ。
ほっと頬に手をつく。胸に優しい気持ちが溢れ出る。
ヴィクターにはついぞ分からない感情だろう。ヴィクターの妻になるはずだった妹は彼のせいで悪漢達に犯され、自害している。
兄妹として家族愛はあったが、恋愛に発展するには時間と性欲が足りなかった。
ヴィクターは女を抱ける体ではない。今後二度と妹のように未来を誓う人間は出来ないだろう。たとえそんな相手がいたとしても関係を深めてはいけない。
ギスランは貴族とはいえ、清族の血が流れている。だからだろうか、親戚の祝い事のように感じられた。
「……さっさと戻れ。お前、暇ではないだろう」
「まあ、暇ではありませんが、そこまで忙しいというわけでもありませんのよ」
「どうして? お前は国王陛下より直々に命令を受けていたはずでは?」
「やはり、ご存知でしたのね」
知らないはずはないと思っていた。ギスランの侍女のフリをして魔薬を買ったのが運の尽きだ。独自の情報網があるギスランが知らないとは思ってはいなかった。国王の企みは、ばれている。
ヴィクターは唇を噛み、笑んだ。
これからの話に都合がいい。
「ならば、ご説明抜きに話をしますわね。実験は最終段階にまで来ましたの。つまり、臨床実験ですわ」
「人を蘇らせる、ね。馬鹿馬鹿しい世迷言だ」
「そう言いたい気持ちも分からなくはありませんけれど。……まあ、事実かどうかなど二の次ですわ。問題は、その臨床実験の被験体です」
「まずは王妃。そして失敗すればカルディア姫、か」
「ええ、血が近ければ近いほど適合率も高くなるでしょうから」
国王は本気だ。亡き愛人が蘇ると信じている。成功するまで決してやめないだろう。過程で、どんなに人が死んだとしても気にも止めないはずだ。
「トーマはカルディア姫を監視するため、従者になりました」
「報告は受けている。あのトーマが、自ら監視役をするとは思わなかったが」
「よほどライが死んだのがこたえたのでしょうね。あれでも、まだ幼い子供ですもの」
まだ成長期もろくに来ていない少年が、仲間の死で受けたダメージは計り知れない。
もともと、トーマは気負ってしまう性格でもあった。口では憎まれ口を叩いていても、ふとした時にひどく後悔している。
彼が責任感から従者になることは考えられたが確率は低かった。それだけ今回の件にかけているという証拠なのかも知れない。
「トーマは、はなおとめに借りがありますし、無碍にはしないと思いますけれど……」
「信用できるものか。カルディア姫に近付く人間は全て排除したい……」
ぽろりとこぼした言葉を聞かなかったことにした。あまりにも、力がこもりすぎている。
「それで、お前はどうなんだ、ヴィクター。実験の責任者はお前なのだろう?」
「ええ。ですが、わたくしははなおとめをーーカルディア姫を絶対に巻き込みたくありません」
「その言葉を信用しろ、と?」
「事実ですわ。ギスラン様、ですのでわたくしと組みませんか?」
「は?」
ギスランの窶れた顔をヴィクターを覗き込んだ。繊細な顔には険が現れている。信用できないと探る瞳に笑みで返す。
これは国王に対する反逆だ。バレたら、今までの地位を失うことになる。
だが、構わなかった。はなおとめを助けるためにこの身はあるのだ。
「実験が成功すれば、肉体の持ち主の意思がどうなるかはなってみないと分かりませんの。王妃様がどれぐらい持つか、そもそも、入れられるかどうかも定かではありませんわ。王妃様が駄目ならば、はなおとめに順番が回ってくる。なのでカルディア姫を国外逃亡させる手立てを二人で練りましょう」
「国外逃亡?」
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そしてヴィクターの望みでもある。
「結婚旅行で失踪する。浪漫がありませんこと?」
あくまでも軽快にヴィクターは言い放つ。
逃げる事は楽しいことなのだと訴えるように。
「手に手を取って駆け落ち、なんて。心が躍るわ!」
ヴィクターは健気に笑ってみせた。愛し合う二人を祝福するように。
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