どうやら私はバッドエンドに辿りつくようです。

夏目

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第一章 夜の女王とミミズク

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  幼い私は、後ろからついてくるギスランを愚図だのろまだと罵ることが癖だった。泣きながらついてくるギスランを忌々しく思って、衣装棚に閉じ込めたことがあった。ごめんなさいと言うまで、決して開けなかった。なぜ、そんな意地悪をしたのか分からない。ただ、むかついたのだ。
  ギスランに謝られてると気分がよかった。何もかもが上手くいくだろうと楽観的な気分になった。上機嫌になると、私はころっとギスランへ優しい対応を取る。子供特有の通り雨のような激情だった。
  気分がよくなった私は決まってギスランにお菓子を食べさせた。ほら、美味しいでしょう、ギスラン。にこにこ笑う私に、ギスランは閉じ込められたことも忘れ、微笑み返す。
  ギスランは、ロイスター家の息子なのに出来が悪く、覚えがよくないのだそうだ。だから、完璧になるまで何度も何度も反省部屋におくられるという。それに家庭教師はギスランのことが嫌いだから、変なお仕置きもされるのだと。この間も、頬に口付けなくてはならず白粉が口の中には残って気持ち悪かったと、こっそり教えてくれた。
  私は家庭教師のようにお仕置きしたくなった。頬に口付けなさいと言うと、ギスランは顔を赤くして動こうとしない。家庭教師に出来て、私には出来ないの! 酷いわ、酷い! 
  大声で叫ぶと、口の中にお菓子を詰め込まれた。口をおさえて咀嚼すると、ギスランが思わずというように噴き出した。むっとしながら、居心地悪くお菓子を噛み砕く。
 ギスランはなぜ、私を叱らないのだろう。閉じ込められて、怒らないのだろう。酷いことをしているのに、泣いたり、笑ったりするばかりだ。
  口にできない言葉がお菓子と一緒に噛み砕かれて、お腹のなかに積もっていく。不思議だった。どうして、ギスランが私の側にいてくれるのか。意地悪しても、笑ってくれるのか。
  私が第四王女だからだろうか。だった、カルディアにはなにも価値はない? 
 胸が苦しくなって、甘いお菓子の味が分からなくなる。
  王女でなくなったら、逆にギスランが罵られたり、衣装棚に閉じ込めたりするかもしれない。自分がやるのはいいのに、ギスランにされるのは嫌だ。
  胸の上の方がずきんと痛くなって、かきむしりたくなるような、強い衝動がぶわりと膨れ上がる。
  
  『この世が終わるならば終われ、国が亡びるなら亡びろ。たった一人、私だけが富貴であるならば』
  母が読んでくれた寓話の王の言葉。

  母が言っていた。王ならば、どんなに綺麗なものにでも醜悪なものにでも、気品があるものにでも貧窮極まりないものにも命令し、傅かせ、自分のもののように振舞わねばならない。それが、義務なのだと。
  ただ一人、自分だけが、この世界で幸せで、偉大で、荘厳であらねばならない。王がそうなのだから、王族たる私たちもそうしなければいけないのだーーと。
  でも、疑問に思うのだ。
  一人だけ富貴な世界は本当に幸せなのかと。そう声高に主張しなければ幸せだと周りに示せないのではないのか。富貴であらねばと、自分を縛り付けているだけでは?
  ギスランに抱いた、胸の痛み。立場が逆転することへの恐怖。小さいながらに頭の隅に根付いている身分への執着心。
  お菓子がとても苦く感じた。目頭が異常に熱い。
  小さな私は、考えることを放棄して、ギスランをぽこぽこ叩く。
  反逆なんて許さないと顎を逸らして訴える。
  ギスランが首を傾げて楽しげに笑う。
  学校に来る前の、懐かしい記憶。





  目覚めというのは曖昧だ。
  夢のなかをたゆたっているようにも、現実という地面に立っているようにも思う。
  不明瞭で、覚束ない。自分という人間がその日、再び産まれた気になる時がある。夢の中にいるようだと感じることもある。蝶の夢を見ていたら、自分が蝶なのか、人間なのかわからなくなることも。どちらが本当の自分なのか、そもそも本当の自分は存在するのか……。
  
  ……現実逃避はそろそろ止めよう。立ち向かわなければ、状況は改善しない。私は起き上がり、見覚えのない部屋をまじまじと見渡した。カーテンの隙間から朝日が射している。部屋の中は仄暗いが、まったく見えないわけではなかった。
   二人ほど寝られるような大きな寝台。本を読むための蓄光ランプとそれをのせる棚。赤い絨毯。
   赤いのに質素な部屋は、どう考えてもギスラン・ロイスターのものだった。
  私は毛布にくるまり、その上から白い布をかけられていた。起き上がったときに毛布のなかを確認したが衣服の乱れはない。そこで、一応一安心する。眠っているうちになにかされたということはないらしい。
  昨日の記憶は、ギスランが紅茶とお菓子を食べさせるところで途切れていた。意識が闇に溶け込むようになくなっていき、そこからの記憶が曖昧だ。
   そうなると、ギスランが寝てしまった私を自室の寝台に運んだのか。
 口元が痙攣する。無防備にギスランの前で寝入ってしまったのか。淑女として軽率な行為。忸怩たる思いだ。
  きょろきょろと見渡し、ギスランがいないか確かめる。この部屋にはいないのだろうか? 紳士的に、部屋の向こう側でソファーに横たわっている? ギスランの部屋だ。少し、申し訳なくなる。さっさと部屋に戻り、ギスランに寝台を譲るべきだろう。
 寝台から降りようとしたとき、自分の手に何かが絡み付いていることに気が付いた。冷たい指の感触。辿っていくと降りようとした縁の反対側にギスランが寝台に寄りかかるように眠っていた。
  肩を揺すってみたが、反応がない。長閑に寝息を立てている。
  ギスランと名を呼ぼうとし、躊躇った。
  ギスランが大きくなっている。私と同じぐらいだったのに。どうして。
  瞬きを繰り返し、大きな勘違いをしていると気がつく。
  夢のせいか、ギスランが成長していると驚いたのだ。眉間を揉んで心を落ち着ける。私もギスランも、十七歳だ。幼子じゃない。
  昔は泣くばかりだったギスランが、私を寝台に運べるほど成長したのか。そう思うと、なんだか不思議だ。
 泣き虫で、私が手をひかなければ動こうとしなかった男が。夜にきらめく星が怖いと眠れなかったあの男が。
  今や私よりも力があり、身長も高いなんて。
 なんだか、生意気だ。つんつんと額を突く。私に許可なく大きくなるな。独占欲とも嗜虐心とも言いがたいよく分からない感情に支配される。
  ぐっと繋いでいた指に力が加えられた。
  びっくりしてギスランを覗き込むと、銀色の睫毛がふるふる揺れている。

「ギスラン」

 こいつ、起きている。
 荒んだ眼差しでギスランを見つめる。
 ギスランは、面映そうに目蓋を開けて、色染めされた衣服のように盛大に顔を赤く染めた。

「カルディア姫が私を弄び、楽しげになさっていらっしゃる」

  ギスランとの間に言語という大きな隔たりができたのを感じた。何を喋っているのだ、こいつは。脳が理解するのを拒否したので、左耳から右耳へ言葉が抜けていったぞ。

「私はカルディア姫の犬ですか? 愛玩動物のようなもの? それもよいですけど、もっと他の愛で方を試してみる気は?」
「ほ、他?」
「はい、例えば、ここは寝台ですね? カルディア姫にして差し上げたいことがあるのですが」
「……して差し上げたいこと?」
「ええ、でも、言葉ではよく表せないのです。体で示してもよろしいです?」
「体で示すことって、なに!?」

 何事か囁こうとしたギスランの唇を慌てて塞ぐ。なにか、非常に際どいことを口走りそうだった気が……。

「お、お前ね、朝からなんてことを言うつもり」

  清らかな乙女の如きなのにたまに色本を熟知した下卑な男になるのだから! 
  私に怒られしょんぼりしつつ、ギスランは妙にそわそわと視線を彷徨わせた。挙動不審だ。

「だ、だって、カルディア姫が私の部屋にいて下さるから。何故でしょう、普通では出来ないような様々なことをして差し上げたくなる」
「しなくていい! 長らく邪魔をしたわね。わざわざ寝台まで貸してくれて助かったわ。私は部屋に帰る」
「この部屋にずっといて下さって構いませんのに」

  この部屋にという部分を強調したのは何故?
 尋ねることが恐ろしい。

「この部屋に気に入らぬところが? どうかおっしゃって下さい」
「家具が少ないとは思うけれど、お前ね、自分の部屋を他人に口出しされて嫌だとはならないの?」
「ならばカルディア姫の部屋にしたらよろしいのではないでしょうか」
「……ギスラン、私、お前との会話が本当に出来ている? なんだか、かみ合っていない気がするのだけど?」
「そうすれば、カルディア姫も帰る手間が省けるし、私も嬉しいです。そうだ、この部屋に教師を呼んで、ここで勉強するのはどうでしょうか。そうすれば、部屋から出ずともよろしい」
「帰る、絶対」

 なぜ本人を目の前にして軟禁の計画を立てているんだ。太陽より輝いた顔を見せているのが、空恐ろしいぞ。
  寝台から降り、帰ろうとした私を、ギスランは引き止めようとする。手を振り払い、ソファーの置かれた部屋に逃げる。ギスランを寝室に閉じ込めようとしたのだが、素早く入り込まれてしまった。
 野獣が檻から解き放った寒々しい気分になった。
  こちらの部屋は寝室より明るい。カーテンを開けているからだろうか。直接、日光が射し込み眩しいぐらいだ。

「じゃあ、ね、カルディア姫。朝食はこちらでお食べになって下さい」

  後ろから、軽々と荷物のようにギスランに抱きかかえられた。

「無礼よ、ギスラン!」

   抗議の声を聞き流し、ギスランは私をソファーに運んだ。いつの間にか、ソファーの上にはぬいぐるみやクッションが鎮座している。
 ソファーに置かれた中にペンギンのぬいぐるみを発見する。くりっとした黒目はボタンで出来ていた。ぬいぐるみなのに、服と帽子をかぶっている立派なペンギン紳士だ。ぎゅうと腕に閉じ込める。なんて可愛いんだろう。絵本の中から飛び出してきたみたいだ。一時、何もかもを忘れてぬいぐるみを愛でる。
  ギスランは、そんな現金な私をくすりと笑うと、ソファーの側に傅いた。

「このぬいぐるみが気に入りました?」
「え、ええ、これ、かわいい」
 「私よりも?」
「お前のことをもともとかわいいとは思ってない」
「お酷いです。私、このぬいぐるみになりたいのですが」

   拗ねた顔をされた。なぜ。

「ぬいぐるみになったら喋れなくなるわよ」

   こうやって無抵抗に潰されるしと、むぎゅっと抱き締める。

「カルディア姫に抱き締められるのですね? ならば、喋れなくなってもいいです」

 そういえば、先日、ギスランの舌がなくなればいいと思っていた。
 これはいい機会かもと、夢想してやめる。ギスランをぬいぐるみのように愛でる自分が想像出来ない。

「そんなことより、ギスラン。お前、私は部屋に帰ると言ったのに、どうしてソファーに連れてくるのよ」
「朝食をお食べになって帰ればよろしいと思って」
「そういえば、今、何時?」

  ギスランの部屋には時計がない。明るいので、朝だと思ったが昼の可能性もある。そうなると受けなくてはいけない授業があるのでのんびりとはしていられない。

「朝食をとるくらいには朝ですので、お気になさらず」
「答えになってないわね」

  どうやらギスランは答える気がないらしく、微笑むだけだ。訝しげな視線をやっても、平然としている。

「ギスランがなにをしたいのか分からなくなるわ」
「私は、いつでも貴女様の側の側に侍りたい」
「人の口って不思議ね。真実も偽りもこぼせる」
「……信用しては下さらないのですね」
「信用とは、お菓子と違って金で買えるものではないもの」
「全て、貴女様の為ですのに」
「また、理解できないことを言う」
「たまに、なにもかも歯痒くなるのです、女王様」
   
  ペンギンの嘴を掴んで、ギスランがぶっきらぼうに続ける。

「リスト様とは砕けた言葉でお喋りになる。平民の女には無礼な態度を許し、まるで稚児を見るように微笑ましく見つめていらっしゃった。貧民の男には甘い顔をされて! きっとあの男は変な気を起こしたに決まっています。貧民から男と楽しげに話しておられるのを見て、どれだけ衝撃的だったかお分かりに? 身が焼け落ちるかと思ったのです」

  まくし立てるギスランは、興奮したように嘴を握り潰しては開くを繰り返す。

「カルディア姫には、私だけがいればいいのに。誑かすものばかりで信用できません」

   嘴では飽き足らず、ボタンの目も指で弾く。
  
「きっと、皆がカルディア姫を狙っています」

   殺戮的な意味ならば、十分考えられると思うけど。

「昨日誓って下さいましたよね? もう無防備な顔をされないと。覚えていらっしゃる?」
「お前、私を馬鹿だと言いたいの?」
「いいえ。ねえ、カルディア姫。貴女様には私だけですよね?」
「そうやって女を唆しているの? 尊敬するわ」
「いつもそうやって茶化される。あまりに不誠実では?」

 ぬいぐるみを退けて、ギスランの体がしなやかに動いた。後ずさろうとする私から目を逸らさず、腕で追い縋ってくる。

「ぬいぐるみより、私の方が好きだと言って下さらない?」
「は?」
「昨日は、貧民より上かどうか答えてはいただけなかった。今日はどうでしょう。私のこと、先ほどあのぬいぐるみよりもお好きですか?」
「お、お前ね……」

  人形と張り合っているのか、こいつ? 
  驚き過ぎて目がかわいてきた。ひりひりする。埃が多いんじゃないか、この部屋と現実逃避を目論む。駄目だ。ギスランのうるうるした瞳が現実を思い出させる。
   昨日、ギスランは己の価値を比較によって決定するといった。
  つまり、自分を肯定する行為を他人に押しつけているのだ。このことは意外だが、どこか納得できるような気がする。ギスランはなにかと私にお伺いをたてる。自己意思を持たない人形らしい行動だ。
   人形が大好きな貴族。子供さえ、言うことだけをきく玩具。
 ギスランの目を手で遮る。

「カルディア姫?」
「ギスランの馬鹿」

  掌に睫毛がこしょばゆい感触がした。
   ふっとギスランの纏う雰囲気が軟化する。

「昔もそういっていらっしゃったことが」
「いつ」
「この学校に来る前。懐かしい思い出です」
「そうだった?」
「喧嘩するとよく。貴女様は覚えていないかもしれませんが」

  ギスランの言う通り、あまり覚えていない。今日見た夢の胸の痛みは鮮烈に覚えているのに。

「仲直りは、紅茶を飲むこと。お菓子を分け合うこと。おかしなお茶会という童話で、少女と騎士がやっていたのですよね?」
「おかしなお茶会」
「カルディア姫はその話がとてもお好きでした。……お忘れですか?」

  知らない。そんな童話。
  ギスランは記憶違いをしているのでは。そんな童話を読んだことはないはずだ。

「知らない」
「そう、ですか」
「なぜ、落胆するの。本当に私は知らない。そんな童話、知らないの」
「ええ、貴女様はなにも悪くない」
「では、なに? お前はなにか言いたげね」
「このぬいぐるみ、その童話に出てくるペンギンなのです。カルディア姫は、昔、私よりお好きだといっておられた。それで、喧嘩に」
「そんなこと、した?」
「ええ。ですが、覚えていらっしゃらないのも無理はありません。気の遠くなるほど昔のことだ」

  ならば、なんで意気消沈したように、言葉尻を下げるのか。
   それは、本当に私との思い出なのだろうか。他の女との思い出では?
  私は、おかしなお茶会なんて童話知らない。本当に知らないのだ。ペンギン紳士にも見覚えがない。

「いまでも私はぬいぐるみに勝てない?」
「し、知らない!」
「狡いです。ぬいぐるみに寵を注がず、ぜひ私に」
「お前のなかで、無機物まで敵なのは分かった」
「流石に空気まで敵とは言いませんよ?」
「本当に?」
「……ええ」
「どうして一拍置いたの!?」
「カルディア姫ってば、過剰反応し過ぎでは?」

  こめかみがじんじんと痛む。ギスランと喋っていると頭が痛むのはこいつと会話することがてストレスだからだろうか。
  それとも、単純に体調不良だろうか。そういえば、昨日、お茶を飲んですぐ眠くなるというのもおかしいのでは。そんなに疲れていただろうか。

「カルディア姫?」

  うるさい。黙っていなさいと命令しようとして、掌に睫毛以外の感触があったことに驚く。
  塞いでいたはずの紫色の瞳が私を射抜いていた。私の指先にぬめりとした違和感。
 舌で舐められたと気がつく。
 ギスランの頬に平手打ちをしようと力をいれる。

「手を離しなさい。頬をうってあげる」
「ご褒美ですか?」
「お前が被虐趣味だということをすっかり忘れていたわ」

  渋々下ろした手をすくい上げ、手の甲に口付けが落とされた。
「私の女王様。ぬいぐるみが貴女様の寵をひけらかし、横暴に振舞ってしまうやも」
「ぬいぐるみがどう横暴に振る舞うと?」
「さあ? ですが、力を求めるものは、貴女様に媚びへつらう。あわよくばと、寵を求めるのです」

  ギスランのように? と皮肉で返したくなるな。
  ……それにしても、こいつ。遠回しに忠告しているようなのが気に入らない。
 言いたいことは簡潔明瞭に述べるべきだ。

「ですので、どうかぬいぐるみではなく、私だけを可愛がって下さい」
「……ギスラン、しつこい」
「はい。ですので、頷いて下さい」

  甲に唇を落としたまま、くぐもった声が告げた。

「カルディア姫はなにも心配なさらず。私が納得するだけ。ただ、それだけですよ?」
「そ、そう」

 まあ、確かに頷くだけだ。後でどうとも言い訳できるな。姑息なことを思いつつ、煩わしいやりとりを終えるためにかすかに頷く。
 ギスランは紫水晶に似た瞳で私を凝視し、ぱあと花でも咲いたかのように華やかに微笑む。

「カルディア姫は、幸福を毎日のように与えて下さる。胸が締め付けられる日ばかりなのに、なぜか日々が朝露のよう。狡いです」

  なぜ責められているのか、理解できない。悩みを抱えている様子ではない。照れ隠しだと言わんばかりに目尻が赤い。

「幸せならそれでいいでしょうに」
「やはり、狡い」

  ペンギン紳士が八つ当たりの犠牲になる。ペシペシお腹を叩かれていた。
   なぜかわからないが、私まで照れくさくなってきた。
 どこに視線をやっていいのか、凄く戸惑う。
 忙しなく視線を動かし、ギスランからそらし続けると。

「カルディア姫は本当に、私を弄ぶのがお上手で困ります」

  際どい言葉に息がつまった。
  この男、私を窒息させたいのだろうか。
  きっとそうだと乱れる呼気を鎮めた。
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