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閑話
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「お、おとおとお父さん本気で言ってるの……?」
私――『限界ぼっち』こと夜新城恋歌は今、死の淵に立たされている。それも両親に。
なんでえ……私なんか悪いことした? はっ、ま、まさか継井先生が私の授業態度をお父さんたちに言ったり……? ああぁぁおしまいだぁぁぁ私の始まったばかりの高校生活も終焉だあ……。
「もちろん本気だとも。これは恋歌の人見知り体質を直すためだからね」
「うっ……わ、わたしっ、学校ではとと、とっても友達いっぱいいるよーお父さん! だからメイドなんて」
「誤魔化さなくても、レンちゃんのRAINの友達の数が三人なのは分かってるわよ~」
「ぐはぁっ……!」
お、お母さん……余計な事言わないで……。
「それに、ちゃんと信頼のおける人の家だから大丈夫だよ」
「で、でででも私みたいなのが雇われたって……きっとなんにもできないよ」
「あら~レンちゃんの一人でできることはなんでもできるとこはすっごくかっこいいことなのよ~。きっと誰もが出来るわけじゃないと思うわ~」
「え、えへへそうかな……そんなこと言われても、私の意思は変わらないよえへ、えへへへ……」
「目に見えるくらい変わってるわよレンちゃん~」
はっ、つい頬が緩んでしまった……。あんまり誰かに褒められることってないからうっかりしちゃった。私の単純細胞め……。
「でも……やっぱり恋歌が嫌ならやめておこうか」
「えっ」
「そうね~、レンちゃんの意思が変わらないんなら仕方ないわね~」
「あ、えと……」
「でも……このまま大人になっていく恋歌ちゃんは、なんだか不安で……」
「うっ……!」
そ、それは確かに自覚がある……。誰かと話すときは必ず「あっ」から始まっちゃうし……。人の顔なんてまともに見られないし……。ははは、こんなんだから『限界ぼっち』って言われちゃうんだよ、私の間抜け……。
「う~ん、でも~」
「おっ、お父さんお母さん!」
よし、決めた。私は変わるんだ! 「あーし、夜新城恋歌っつーけど、キミの名前はー?」って感じに……はなりたくないけど、とりあえず話し始めに「あっ」て言わなくなるくらいには成長しよう! 私は微生物夜新城から哺乳類夜新城に成長するんだっ!
「わ、私……メイド頑張るよ!!」
「お、本当か恋歌?」
「大丈夫なの~?」
不安の表情を浮かべる二人に、私は胸を張って答えた。
「ふふん、待ってて。私は哺乳類に生まれ変わるから!」
「あなたは哺乳類よ、レンちゃん」
――って意気込んだものの、学校で『限界ぼっち』してる私がメイドとか……終末世界すぎるよ……。
「なぁ……」
「ああ、二大陰キャがまた呼ばれたな、ははっ」
あ……まただ。後ろの席の男の子二人。私と、隣の席の柊くんのことだ……。
「……」
私は無言で、スカートに手を伸ばしぎゅっと握り、顔を俯かせる。……こんな私がメイドかあ。笑っちゃうなあ……。
……ま、まぁ、こういうのにも慣れてきてるし、全然、ぜんっぜん大丈夫なんだけどね?
「『陰湿ナメクジ』と『限界ぼっち』が二人揃って呼び出し……こりゃまたいいネタになるな」
「はははっ、あいつらほんと懲りねぇよな。居心地悪くないのか?」
ううっ……。やっぱり嘘です、結構ダメージ来ます……。
でも、あの二人の言ってることは正しい。私は『限界ぼっち』だし、しょっちゅう授業中に寝て怒られちゃうし……まぁ仕方ないよね。
「……」
スカートを握る力が一際強くなり、ちょっと汗が出てきた。
……もう学校行きたくないなぁ。
「意外と慣れれば悪くないもんだぞ?」
えっ……?
顔を動かさないように、ちらっと隣を見ると、柊くんが後ろの二人にちょっと笑いながら言っているのが見えた。
な、なにしてるの柊くん……。そんなことしたら余計怒って……。
「あ……」
「え、っと……はは」
そう思っていた私だが、どうやらそれは杞憂だったらしい。二人はすっかり委縮してしまい、黙りこくってしまう。
す、すごいなあ柊くん、あんな真正面から突っかかって。わ、私なら絶対無理……。
柊くんのその行動に驚いていると、自分の手の力がふっと抜けていることに気が付いた。そして隣から視線を感じ、私はすさまじい速度で目を机に戻した。
も、もしかして……私のため? いつも自分だけに言われてるときはなにも言い返さないし……。
い、いやぁまさか。こんな私のために物を言ってくれる人なんていないいない。
けど、きっと優しいんだろうなぁ柊くん。
あ、いけない私、今日からメイドとして雇われるんだからもうちょっとしっかりしないと。私のコミュ障ぶりを改善するためにも、お父さんたちは提案してくれたんだし。雇い主の人はちゃんと信用できる人だからいいって言ってたけど……。
でも、どんな人なんだろう……。
お母さんとお父さんに、雇い主さんのこともうちょっと詳しく聞いておけばよかったなぁと、ちょっぴり後悔した。
メイド……。正直嫌だなぁ。ずっと家でゴロゴロして本読み漁ってたい……。でも変わらないとこの先の人生終焉にまっしぐらだし……。ううう、どうして私はこんな性格になってしまったんだぁぁぁ……!
でも……。
こんな『限界ぼっち』なコミュ障の私でも、彼は……多分助けてくれた。二大有名人とか、まぁぶっちゃけなかなかに不名誉なあだ名だけど……。柊くんはすごいなぁ、噂じゃもう漫画家として活動してるらしいし、彼と一緒にいたら、私も変われるかなぁ……。メイド、かぁ……。
――柊くんだったら、いいなぁ。
私――『限界ぼっち』こと夜新城恋歌は今、死の淵に立たされている。それも両親に。
なんでえ……私なんか悪いことした? はっ、ま、まさか継井先生が私の授業態度をお父さんたちに言ったり……? ああぁぁおしまいだぁぁぁ私の始まったばかりの高校生活も終焉だあ……。
「もちろん本気だとも。これは恋歌の人見知り体質を直すためだからね」
「うっ……わ、わたしっ、学校ではとと、とっても友達いっぱいいるよーお父さん! だからメイドなんて」
「誤魔化さなくても、レンちゃんのRAINの友達の数が三人なのは分かってるわよ~」
「ぐはぁっ……!」
お、お母さん……余計な事言わないで……。
「それに、ちゃんと信頼のおける人の家だから大丈夫だよ」
「で、でででも私みたいなのが雇われたって……きっとなんにもできないよ」
「あら~レンちゃんの一人でできることはなんでもできるとこはすっごくかっこいいことなのよ~。きっと誰もが出来るわけじゃないと思うわ~」
「え、えへへそうかな……そんなこと言われても、私の意思は変わらないよえへ、えへへへ……」
「目に見えるくらい変わってるわよレンちゃん~」
はっ、つい頬が緩んでしまった……。あんまり誰かに褒められることってないからうっかりしちゃった。私の単純細胞め……。
「でも……やっぱり恋歌が嫌ならやめておこうか」
「えっ」
「そうね~、レンちゃんの意思が変わらないんなら仕方ないわね~」
「あ、えと……」
「でも……このまま大人になっていく恋歌ちゃんは、なんだか不安で……」
「うっ……!」
そ、それは確かに自覚がある……。誰かと話すときは必ず「あっ」から始まっちゃうし……。人の顔なんてまともに見られないし……。ははは、こんなんだから『限界ぼっち』って言われちゃうんだよ、私の間抜け……。
「う~ん、でも~」
「おっ、お父さんお母さん!」
よし、決めた。私は変わるんだ! 「あーし、夜新城恋歌っつーけど、キミの名前はー?」って感じに……はなりたくないけど、とりあえず話し始めに「あっ」て言わなくなるくらいには成長しよう! 私は微生物夜新城から哺乳類夜新城に成長するんだっ!
「わ、私……メイド頑張るよ!!」
「お、本当か恋歌?」
「大丈夫なの~?」
不安の表情を浮かべる二人に、私は胸を張って答えた。
「ふふん、待ってて。私は哺乳類に生まれ変わるから!」
「あなたは哺乳類よ、レンちゃん」
――って意気込んだものの、学校で『限界ぼっち』してる私がメイドとか……終末世界すぎるよ……。
「なぁ……」
「ああ、二大陰キャがまた呼ばれたな、ははっ」
あ……まただ。後ろの席の男の子二人。私と、隣の席の柊くんのことだ……。
「……」
私は無言で、スカートに手を伸ばしぎゅっと握り、顔を俯かせる。……こんな私がメイドかあ。笑っちゃうなあ……。
……ま、まぁ、こういうのにも慣れてきてるし、全然、ぜんっぜん大丈夫なんだけどね?
「『陰湿ナメクジ』と『限界ぼっち』が二人揃って呼び出し……こりゃまたいいネタになるな」
「はははっ、あいつらほんと懲りねぇよな。居心地悪くないのか?」
ううっ……。やっぱり嘘です、結構ダメージ来ます……。
でも、あの二人の言ってることは正しい。私は『限界ぼっち』だし、しょっちゅう授業中に寝て怒られちゃうし……まぁ仕方ないよね。
「……」
スカートを握る力が一際強くなり、ちょっと汗が出てきた。
……もう学校行きたくないなぁ。
「意外と慣れれば悪くないもんだぞ?」
えっ……?
顔を動かさないように、ちらっと隣を見ると、柊くんが後ろの二人にちょっと笑いながら言っているのが見えた。
な、なにしてるの柊くん……。そんなことしたら余計怒って……。
「あ……」
「え、っと……はは」
そう思っていた私だが、どうやらそれは杞憂だったらしい。二人はすっかり委縮してしまい、黙りこくってしまう。
す、すごいなあ柊くん、あんな真正面から突っかかって。わ、私なら絶対無理……。
柊くんのその行動に驚いていると、自分の手の力がふっと抜けていることに気が付いた。そして隣から視線を感じ、私はすさまじい速度で目を机に戻した。
も、もしかして……私のため? いつも自分だけに言われてるときはなにも言い返さないし……。
い、いやぁまさか。こんな私のために物を言ってくれる人なんていないいない。
けど、きっと優しいんだろうなぁ柊くん。
あ、いけない私、今日からメイドとして雇われるんだからもうちょっとしっかりしないと。私のコミュ障ぶりを改善するためにも、お父さんたちは提案してくれたんだし。雇い主の人はちゃんと信用できる人だからいいって言ってたけど……。
でも、どんな人なんだろう……。
お母さんとお父さんに、雇い主さんのこともうちょっと詳しく聞いておけばよかったなぁと、ちょっぴり後悔した。
メイド……。正直嫌だなぁ。ずっと家でゴロゴロして本読み漁ってたい……。でも変わらないとこの先の人生終焉にまっしぐらだし……。ううう、どうして私はこんな性格になってしまったんだぁぁぁ……!
でも……。
こんな『限界ぼっち』なコミュ障の私でも、彼は……多分助けてくれた。二大有名人とか、まぁぶっちゃけなかなかに不名誉なあだ名だけど……。柊くんはすごいなぁ、噂じゃもう漫画家として活動してるらしいし、彼と一緒にいたら、私も変われるかなぁ……。メイド、かぁ……。
――柊くんだったら、いいなぁ。
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