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「え? ……あっ、彼女さんの下着ですね~!」
店員さんはなんとかこの狂った状況を理解しようと、勝手に僕たちが付き合っている体にしてくれる。このチャンス、逃すわけにはいくまい。
「は、はいそうなんですよ。彼女、サイズが合わないとかで悩んでて」
「えっ、え、ええええ!?」
顔を真っ赤にして僕の方を見る夜新城は足をバタバタさせ、その慌てっぷりは誰が見ても明らかだ。
すまん夜新城。驚くのも無理はないがここはいったん黙っていてくれ。
「かしこまりました~。それでは彼女さん、どうぞこちらの更衣室へ~」
「あ、えっ、はい……」
店員さんに連れられて、更衣室へと入る夜新城、僕はその姿を見ながら両手を合わせ、南無――と念仏を唱えておいた。
しばらくして戻ってきた夜新城の顔はげっそりしていた。その姿はまるで栄養失調さながら。買い物するだけでこんなに瀕死になっていたらコイツ将来どうするんだ……? これは今後、人付き合いの練習をしてもらわないと困りそうだな。
「てっきり僕は、服を選ぶもんだと思ったぞ」
「あ、すみません……。服は自宅のを持ってこようかと思って……」
フラフラ歩いて今にも倒れてしまいそうな夜新城。
「大丈夫かよ……。そんなに疲れるようなことしたのか?」
「い、いえ……。あんなに触られるとは思わなかったので……」
「そうか」
ただでさえコミュ障のコイツが、他人に体を触られるのは確かにハードルが高そうだ。
「そ、そそ、それに……」
夜新城はいつもより深く顔を俯かせ、完全にこちらに顔を向けないようにしてしまう。もはや下向きすぎてつむじが見えている。
「ど、どうして、その……知っていたんですか」
「何をだ?」
夜新城は制服のスカートをぎゅっと握る。肩も少し上がっていて、何やら緊張している様子だ。
「そ、そのその……む、胸のサイズが、BからCに変わった……こと……」
「……違うぞ。決して風呂場を覗いたことがあるとかじゃなくて、あれは言い訳だ。完全に店員さんに白い目で見られてたからな」
「え……? あ、そ、そういうことだったんですか……! す、すみません気づかなくて」
「いやいや……、僕たち付き合ってないんだから、すぐ嘘だって気づいただろ。それに僕はBからCに変わっただなんて言ってないぞ」
そう返すと、夜新城は顔をばっと上げて、顔を真っ赤にした。
「す、すみません……! わわ、忘れてください今のは……!」
自分で墓穴を掘ったことを気づいたのか、夜新城はオドオドしまくって今にも踊りだしそうだ。
「分かった。忘れる」
さすがにここで「忘れない」という選択肢を取るのはあまりにも酷だろう。胸のサイズの良し悪しなんてまったくもって分からんし興味もないが、まぁ女子の中にはそれなりに気にする人もいるらしいし、忘れておくのが最善だ。よし、忘れた。忘れたぞ。
……てことは今Cカップなのか。
★
ショッピングモールからの帰り際、一度実家に寄った夜新城は替えの服を持って僕の家に帰ってきた。
すぐにエプロンに着替えてカレーを作ってくれたので、今テーブルの上にはごちそうが並んでいる。
「夢じゃないんだよなぁこれ……ありがとな夜新城」
「い、いえいえ……べ、別にこのくらい……えへへへ」
相変わらず褒められると弱い夜新城は口元を緩ませている。いつも学校ではあんなに根暗な彼女がこんな顔をすると、ちょっと胸に来るものがある。だが、僕は今、彼女に言わねばならないことがあるのだ。
「こんなこと言うのはちょっと気が引けるけど、今日……、いやぶっちゃけもうちょっと前から思ってたが、お前は他人との付き合いにもうちょっと慣れるべきだ」
「うぅ……」
耳が痛い、と言わんばかりに夜新城は苦い顔をする。夜新城のあのコミュ障ぶりを見た僕は、さすがに危機感を感じて彼女に提案する。
「だからまずその一歩として、クラスで友達を作るんだ」
クラスで、たった一人でもいいから仲の良い友人をつくれば、その子に対してはコミュ障ではなくなる。そして、夜新城は女子だ。女子というものは集団心理の強くはたらく生き物である。たった一人でも友達ができれば、そこからきっと輪が広がる。となれば、加速度的に夜新城のコミュ障は改善される、といった次第だ。まぁそんな上手くいくことはないかもしれないが。
そう思っていた僕だったのだが、夜新城の口から発せられた言葉は僕の口をあんぐりさせるほどに驚かせた。
「と、友達なら……い、います」
「……え」
「ひ、一人だけ……ですけど」
「……マジ?」
「あ……で、でも私だけが友達だって思ってるかもしれないし……、ごめんなさい、やっぱりいないです」
「いやそんなネガティブに考えるなよ……。そうか、そうだったのか……」
これは勝機が見えてきたぞ。僕は少々気持ちが昂る感覚に襲われた。
「作戦がある」
店員さんはなんとかこの狂った状況を理解しようと、勝手に僕たちが付き合っている体にしてくれる。このチャンス、逃すわけにはいくまい。
「は、はいそうなんですよ。彼女、サイズが合わないとかで悩んでて」
「えっ、え、ええええ!?」
顔を真っ赤にして僕の方を見る夜新城は足をバタバタさせ、その慌てっぷりは誰が見ても明らかだ。
すまん夜新城。驚くのも無理はないがここはいったん黙っていてくれ。
「かしこまりました~。それでは彼女さん、どうぞこちらの更衣室へ~」
「あ、えっ、はい……」
店員さんに連れられて、更衣室へと入る夜新城、僕はその姿を見ながら両手を合わせ、南無――と念仏を唱えておいた。
しばらくして戻ってきた夜新城の顔はげっそりしていた。その姿はまるで栄養失調さながら。買い物するだけでこんなに瀕死になっていたらコイツ将来どうするんだ……? これは今後、人付き合いの練習をしてもらわないと困りそうだな。
「てっきり僕は、服を選ぶもんだと思ったぞ」
「あ、すみません……。服は自宅のを持ってこようかと思って……」
フラフラ歩いて今にも倒れてしまいそうな夜新城。
「大丈夫かよ……。そんなに疲れるようなことしたのか?」
「い、いえ……。あんなに触られるとは思わなかったので……」
「そうか」
ただでさえコミュ障のコイツが、他人に体を触られるのは確かにハードルが高そうだ。
「そ、そそ、それに……」
夜新城はいつもより深く顔を俯かせ、完全にこちらに顔を向けないようにしてしまう。もはや下向きすぎてつむじが見えている。
「ど、どうして、その……知っていたんですか」
「何をだ?」
夜新城は制服のスカートをぎゅっと握る。肩も少し上がっていて、何やら緊張している様子だ。
「そ、そのその……む、胸のサイズが、BからCに変わった……こと……」
「……違うぞ。決して風呂場を覗いたことがあるとかじゃなくて、あれは言い訳だ。完全に店員さんに白い目で見られてたからな」
「え……? あ、そ、そういうことだったんですか……! す、すみません気づかなくて」
「いやいや……、僕たち付き合ってないんだから、すぐ嘘だって気づいただろ。それに僕はBからCに変わっただなんて言ってないぞ」
そう返すと、夜新城は顔をばっと上げて、顔を真っ赤にした。
「す、すみません……! わわ、忘れてください今のは……!」
自分で墓穴を掘ったことを気づいたのか、夜新城はオドオドしまくって今にも踊りだしそうだ。
「分かった。忘れる」
さすがにここで「忘れない」という選択肢を取るのはあまりにも酷だろう。胸のサイズの良し悪しなんてまったくもって分からんし興味もないが、まぁ女子の中にはそれなりに気にする人もいるらしいし、忘れておくのが最善だ。よし、忘れた。忘れたぞ。
……てことは今Cカップなのか。
★
ショッピングモールからの帰り際、一度実家に寄った夜新城は替えの服を持って僕の家に帰ってきた。
すぐにエプロンに着替えてカレーを作ってくれたので、今テーブルの上にはごちそうが並んでいる。
「夢じゃないんだよなぁこれ……ありがとな夜新城」
「い、いえいえ……べ、別にこのくらい……えへへへ」
相変わらず褒められると弱い夜新城は口元を緩ませている。いつも学校ではあんなに根暗な彼女がこんな顔をすると、ちょっと胸に来るものがある。だが、僕は今、彼女に言わねばならないことがあるのだ。
「こんなこと言うのはちょっと気が引けるけど、今日……、いやぶっちゃけもうちょっと前から思ってたが、お前は他人との付き合いにもうちょっと慣れるべきだ」
「うぅ……」
耳が痛い、と言わんばかりに夜新城は苦い顔をする。夜新城のあのコミュ障ぶりを見た僕は、さすがに危機感を感じて彼女に提案する。
「だからまずその一歩として、クラスで友達を作るんだ」
クラスで、たった一人でもいいから仲の良い友人をつくれば、その子に対してはコミュ障ではなくなる。そして、夜新城は女子だ。女子というものは集団心理の強くはたらく生き物である。たった一人でも友達ができれば、そこからきっと輪が広がる。となれば、加速度的に夜新城のコミュ障は改善される、といった次第だ。まぁそんな上手くいくことはないかもしれないが。
そう思っていた僕だったのだが、夜新城の口から発せられた言葉は僕の口をあんぐりさせるほどに驚かせた。
「と、友達なら……い、います」
「……え」
「ひ、一人だけ……ですけど」
「……マジ?」
「あ……で、でも私だけが友達だって思ってるかもしれないし……、ごめんなさい、やっぱりいないです」
「いやそんなネガティブに考えるなよ……。そうか、そうだったのか……」
これは勝機が見えてきたぞ。僕は少々気持ちが昂る感覚に襲われた。
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