6 / 6
第5話 きちんと
しおりを挟む
「その通りよ。話が早いわね」
ミリアは小さな笑顔を見せてそう言うと、手のひらに乗せていた石をコツと指先で弾いた。その瞬間、強力な磁力に引き寄せられるようにミリアの手に乗っていた石が僕の顔に向けて射出された。
「おい! ミリア、お前、頭がおかしいんじゃないか!」
ミリアに弾かれた石は弾丸のような速度で僕の頬を掠めていった。
もし僕が火球の詠唱を途中で止め、彼女の射線上から体を逸らしていなかったら、あの弾丸のような石は僕の可愛いらしい顔をぶち抜いていただろう。
「フラウ、あなたが立ち向かってくるからでしょ。私に歯向かうなら死ぬ覚悟位はしときなさいよ。だから弱虫ってバカにされるのよ」
「だから、それがおかしいんだって! 子どもの喧嘩に命なんて賭けられる訳ないだろ。頼むからこんな事はやめてくれ! 頼むって!」
僕はもうだめそうだった。目の前の11歳の少女が恐ろしくて恐ろしくて逃げ出したくなっていた。しかし、逃げ出した所でその背中を撃ち抜かれない保証も無い。だから、今もなお悠然と近付いて来る彼女の足をを止めようと、必死に説得を試みていた。
「子どもの喧嘩じゃないわ。私は私の家をバカにされたの。あなた――いいえ、ルイス家の子、ルイス=フラウに、誇り高きヴァンシエト家をバカにされたのよ。これは名誉の問題なの。分かる?」
抑揚のない声で話すミリアを僕はただ見つめ事しか出来なかった。
どうする。僕がこのまま殴られてやればミリアの溜飲も幾らかは下がるだろう。だけど、今日もそれでいいのか? 僕は、この世界でも誰かに怯え続けるのか?
「あぁ……、もう……。分かった! 分かったよ! ぜーんぶ分かった! お望み通り命を賭けてやるよ! バカミリア! バカヴァンシエト家! もう、みんなまとめてかかってこいよ! やってやるよ! ほら!」
あぁ女神様、もし僕がこの世界で再び死んだら、どうかまた別の世界に転生させて下さい。そして、出来る事ならば次の世界は争いの無い平和な世界でお願いします。
「いいのね? じゃあ、そんなにやけっぱちにならないで、きちんと立ちなさい。そして、しっかり名乗ってからかかってきなさい」
意外な事にミリアは怒る事もせず僕の挑発を最後まで聞いてくれていた。それどころか逃げ腰になっていた僕に「きちんと立て」と指導までしてくる始末。どういう事だ? 僕は十分に警戒しつつ猫背になっていた背筋を伸ばした。
「それでいいわ。じゃあ、名乗りなさい。フラウ、あんたはどこの誰なの?」
「えっと、僕は、ルイス=ジェードの子、ルイス=フラウ」
言われるがままに名乗っただけだが、それでも僕の中に少しだけ闘志が戻って来た気がした。僕は恐怖で自分を見失っていたのかもしれない。
「私はヴァンシエト=ロードの娘、ヴァンシエト=ミリア」
ミリアはそう言うと、僕の前にやってきて握っていた木の棒の先端を僕の方へ向けた。それが決闘の作法の一つだと気が付くのに少しだけ時間が掛かった。僕はかろうじて握り続けていたボロボロの木の棒をミリアの木の棒の切っ先に当てた。
「それじゃあ、きちんと死になさいね」
一呼吸置いて、彼女は静かにそう言った。
ミリアは小さな笑顔を見せてそう言うと、手のひらに乗せていた石をコツと指先で弾いた。その瞬間、強力な磁力に引き寄せられるようにミリアの手に乗っていた石が僕の顔に向けて射出された。
「おい! ミリア、お前、頭がおかしいんじゃないか!」
ミリアに弾かれた石は弾丸のような速度で僕の頬を掠めていった。
もし僕が火球の詠唱を途中で止め、彼女の射線上から体を逸らしていなかったら、あの弾丸のような石は僕の可愛いらしい顔をぶち抜いていただろう。
「フラウ、あなたが立ち向かってくるからでしょ。私に歯向かうなら死ぬ覚悟位はしときなさいよ。だから弱虫ってバカにされるのよ」
「だから、それがおかしいんだって! 子どもの喧嘩に命なんて賭けられる訳ないだろ。頼むからこんな事はやめてくれ! 頼むって!」
僕はもうだめそうだった。目の前の11歳の少女が恐ろしくて恐ろしくて逃げ出したくなっていた。しかし、逃げ出した所でその背中を撃ち抜かれない保証も無い。だから、今もなお悠然と近付いて来る彼女の足をを止めようと、必死に説得を試みていた。
「子どもの喧嘩じゃないわ。私は私の家をバカにされたの。あなた――いいえ、ルイス家の子、ルイス=フラウに、誇り高きヴァンシエト家をバカにされたのよ。これは名誉の問題なの。分かる?」
抑揚のない声で話すミリアを僕はただ見つめ事しか出来なかった。
どうする。僕がこのまま殴られてやればミリアの溜飲も幾らかは下がるだろう。だけど、今日もそれでいいのか? 僕は、この世界でも誰かに怯え続けるのか?
「あぁ……、もう……。分かった! 分かったよ! ぜーんぶ分かった! お望み通り命を賭けてやるよ! バカミリア! バカヴァンシエト家! もう、みんなまとめてかかってこいよ! やってやるよ! ほら!」
あぁ女神様、もし僕がこの世界で再び死んだら、どうかまた別の世界に転生させて下さい。そして、出来る事ならば次の世界は争いの無い平和な世界でお願いします。
「いいのね? じゃあ、そんなにやけっぱちにならないで、きちんと立ちなさい。そして、しっかり名乗ってからかかってきなさい」
意外な事にミリアは怒る事もせず僕の挑発を最後まで聞いてくれていた。それどころか逃げ腰になっていた僕に「きちんと立て」と指導までしてくる始末。どういう事だ? 僕は十分に警戒しつつ猫背になっていた背筋を伸ばした。
「それでいいわ。じゃあ、名乗りなさい。フラウ、あんたはどこの誰なの?」
「えっと、僕は、ルイス=ジェードの子、ルイス=フラウ」
言われるがままに名乗っただけだが、それでも僕の中に少しだけ闘志が戻って来た気がした。僕は恐怖で自分を見失っていたのかもしれない。
「私はヴァンシエト=ロードの娘、ヴァンシエト=ミリア」
ミリアはそう言うと、僕の前にやってきて握っていた木の棒の先端を僕の方へ向けた。それが決闘の作法の一つだと気が付くのに少しだけ時間が掛かった。僕はかろうじて握り続けていたボロボロの木の棒をミリアの木の棒の切っ先に当てた。
「それじゃあ、きちんと死になさいね」
一呼吸置いて、彼女は静かにそう言った。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!
織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。
そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。
その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。
そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。
アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。
これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。
以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる