1 / 6
第1話 あっかんべー
しおりを挟む「さぁ、目を覚ますのです」
やけに透き通った声が耳に入って来た。
誰の声だろう。こんなに綺麗な声を持った知り合いなんて、僕の周りにはいないはずだし。夢でも見ているのだろうか。
「新たな世界への旅立ちの時が来ました。あなたは選ばれたのです」
なんだ、ゲームをつけっぱなしで寝てしまってたのか? いやしかし、こんなベタなセリフが出てくるゲームなんて買ってたかな。
「あなたの魂は新たな世界に転生し、再び命の火を灯すのです」
夢にしたって現実にしたって、どっちにしたってこんなんじゃ寝れやしないや。
とにかく一旦起きて、夢かゲームのこの雑音を消してすぐに寝ないと。明日は朝早くから会議の予定があるんだ。
「目を覚ましましたね。フラウ。私はあなたをずっと待っていました」
フラウって誰の事だろう。そして、一体ここはどこだろう。
目を開けると見渡す限りの草原が広がっていた。目に映るのは空の青と草花の緑だけ。いや、その草原に一人の少女がぽつんと立っていた。真っ白なロングヘアーに空色の瞳をした少女だ。彼女は頭の上に花の冠を載せ、白のワンピースを着ている。
「あのー、すみません。ここ、どこですか?」
いつの間にか僕の胸は大きく高鳴っていた。
夢だっていい、寝ぼけてたっていい、僕の待ち望んでいた光景の一つが、今目の前に現れたような気がしていた。
「ここは始まりの丘と呼ばれる場所です。フラウ、あなたはなぜ自分がこの場所にいるのかまだ理解が出来ていないと思います。ですが、落ち着いて聞いて欲しいのです。実はあなたは――」
「あー! ちょっと待った! いや、ちょっと待って下さい! いやいや、これ本当なのかな。これってやっぱりあれだよね……。うわぁ、本当にあるんだ。いや、そりゃあ宇宙なんていうトンデモ空間が誕生するんだもの、ありえなくはないよね」
「あの、フラウ、混乱するのは分かりますが、落ち着いて聞いて欲しいのです」
少女の声は更に緊迫感を増していた。
だが、その覚悟を含んだ声色が、僕を更に興奮の渦の中へ引き込む。これってやっぱり、
「あの! 僕、これから異世界に転生しちゃうんですよね? て、ことはつまり、あなたは女神様か何かなのかな? それでもって、これから新たな世界に転生する僕に何か特別な能力を与えてくれるってところですか?」
僕が早口にそこまで言うと、少女はぽかんと口を開けたまま小さく頷いた。
「……ず、随分と察しが良いのですね」
「いやぁ、漫画やアニメで色々と見てきましたんで。それで、僕は新たな世界ではその『フラウ』って名前で生きていけばいいんですね。ところで、僕の能力なんですけど――」
「あの! あの……フラウ、待って下さい。あの、疑う訳ではないのですが、あなた、本当に転生するのは初めてなんですよね?」
少女は疑う訳ではないと言いつつも、バッチリ怪しむように僕の顔をじっーと見つめていた。それもそうか。僕が誘拐犯だったとして、攫った子どもが目を覚ました途端にあらゆる状況を理解して、尚且つ今後のスケジュールの確認までし始めたんだ。そりゃ疑うなっていう方が無理な話だ。
「もちろん、僕の記憶では初めてのはずです。ただ、僕が生きていた世界では転生や女神という物語は案外身近に語られる話でして、色んな人達が転生についても書き記しているんです。だからこんな状況でもそんなに驚かなかったのかもしれません」
僕がそこまで言い終えると、少女は感心したように何度か頷いた。
「なるほどなるほど。あなたが今まで生きてきた世界の人々は随分と信心深かったのですね。では、先程フラウが言っていたあにめやまんがという物に私達神々や転生にまつわる物語が記されているという事なのでしょうか。あぁ、素晴らしい。そのあにめやまんがというのを一度見てみたいです」
僕は嘘は言ってない。言ってはないのだが、少し聞こえが良く言い過ぎたのかもしれない。少女は僕が夜な夜な読み耽っていた転生系漫画とそのアニメについて何やら強く関心を抱いてるようだった。
「と、ところで、僕はどんな世界に転生して、何を目的に生きていけばいいのでしょう。僕がその世界に行く事に何か意味があるんですよね?」
これ以上漫画やアニメの話を続けるといつかボロが出てしまう気がして、僕はもっともらしい事を言って話を戻す事にした。すると、少女も途端に真剣な表情を作って口を開き始めた。
「そうでしたね。話を戻します。フラウ、あなたは今まであなたが生きてきた世界とは全く別の世界で再び命を与えられる事になります。新たな世界では人々は魔力を使って生活を営み、魔法を使って魔族と争っています。出来る事ならば、私はその争いを止めたいのです。というのも、数百年前までは人も魔族も話し合い、争う事なくそれぞれの暮らしを送れていたのです。しかし、ある日を境に彼らは話し合う事をやめてしまった。フラウ、転生者のあなたなら人とも魔族とも分け隔てなく話し合えるのかもしれないのです。これは私の勝手なお願いーー」
「おけ! 任せといて下さい!」
新たな世界への旅立ちに浮き足立ってしまっていたのか、僕は女神様が何か良い感じの事を言いそうなタイミングでつい口を挟んでしまった。
「すみません……。どうぞ、続きからお願いします」
すぐに反省して頭を下げたが、女神様はもう気分じゃなくなってしまったらしい。冷たい目で、
「いいえ、もう大丈夫です。それでは、新しい世界でもどうか頑張ってくださいね。応援してますんで」
そう言って僕に背中を向けた。
その途端、僕は強烈な眠気に襲われる。僕が眠りにつく間際、女神様は一度だけ振り返った。そして、盛大なあっかんべーを見せてからまたそっぽを向いてしまった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!
織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。
そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。
その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。
そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。
アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。
これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。
以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる