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第二章 ゲームの世界へ
第12話 中身イズおじさん
しおりを挟む「やぁ、君は冒険者だね?」「ルトの村はあっちだよ。よい一日を」
何度話しかけてみてもユベルはこの言葉しか吐き出さなかった。
それもそうだ。『ユベル』はNPCであり、持ち合わせてるセリフもこの二つだけなのだ。でも彼が本物のユベルとなると、俺達は本当にゲームの世界に迷い込んだって事になるのか?
いやしかし、ゲームの世界に迷い込むなら現実の俺達ではなく、ゲームのキャラクターである『イヨ』と『トト』が迷い込むのが自然じゃないのか?
どうして俺達が違う世界から引っ張り込まれる事になったんだ。
「なぁトト、俺達は現実の俺達だよな? つまり、ゲームのキャラクターじゃなく、普通の人間だよな?」
呑気に波打ち際ではしゃぐトトに訊ねた。
「そうだよ! 私は現実の私。イヨ君も現実のイヨ君だよね?」
「そうだ、俺も現実の俺。魔法も使えないし大した筋力もない、ステータスの画面だって見れない。ただの男子高校生だ」
俺は試しに右手を空へ向け、雷を呼び起こす呪文を唱えてみた。
しかし、というか、もちろんというか、そこからは何も出て来ないし何の変化も起きなかった。少し恥ずかしい思いをしただけだった。
「私もだよ、私も、普通の女子中学生。ほら!」
張り合うようにトトも両手を空にかざして呪文を唱えていた。
トトならもしかすると、一瞬はそう思ったが彼女の手のひらからも魔法の様な摩訶不思議な代物は出て来なかった。というかトト、中学生って。やっぱりお前は年下だったんだな。
幼くなったトトの謎がそこでやっと解けた。そうなるとゲーム内の『トト』は年齢を詐称していたという訳になるが……。まぁ、そんな事はどうだっていいか。
「こりゃまいったなぁ」
「まいったねぇ」
兎にも角にも、完全にお手上げだった。
それから少しして俺達は再び白い砂浜を歩いて回った。
ゲーム内の記憶を元に、この世界が空想的電脳世界である証拠を集めて回ろうと思ったのだ。しかし、その証拠集めもすぐに完了してしまう。
喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、俺達の記憶の地図とこの世界の地理はピタリと符合してくれた。おかげで俺達はあっさりとこの世界が『レジェンドクエスト』の世界だと信じる事ができた。
砂浜からだけでも『暗雲を頭に乗せた世界樹』と『天界に続く螺旋階段』を見つける事ができた。さらにはダメ押しで青空の片隅に『天使達の街』が巨大な入道雲と一緒に流れていくのを見つけてしまった。それらはどれもがこの世界が現実の世界でない証拠となり、空想的電脳の世界である証拠となった。
「イヨ君イヨ君! 海も空も、全部が綺麗だよ! 凄いねー」
うなだれる俺の背中を叩いてトトが言った。
「そりゃそうだろうよ。綺麗に見えるようにプログラミングされてるんだろうから」
「まぁまぁ、そんなに拗ねてないでさ、折角だし楽しもうよ!」
トトは笑いながらそう言うと、いきなり俺の手を引っ張って駆け出した。そして、そのまま光り輝く水面へ向かっていく。もちろん俺は手を引かれるがままに足を動かすことになった。
「別に拗ねてなんかない。ただ、ちょっとだけ目の前の現実についていけてないだけというか……」
俺が言い訳がましくそう答えると、トトは更に強い力で俺の手を引いた。
「二人ならきっと大丈夫だよ」
トトは前を向いたままそう言った。
スニーカーと靴下を砂浜で脱いでしまい、浅瀬で足を浸した。
膝の辺りまで水に浸すと、すーっと体が軽くなっていく気がした。気が付けばお日様は青空の高い所に位置し、季節にあった最適の日光を地上に降り注いでいた。丁度良い夏の日だった。恐らく、丁度良い夏の日になるようプログラミングされているんだろう。
「トトって俺と同じ年くらいかと思ってたよ。本当のとこは何歳なんだ?」
トトもワンピースの裾を掴んで俺の隣にまでやってきた。
トトは背丈が低い分、大きな波が来た時には大慌てしていた。
「15歳だよー。中学三年生」
「そうだったんだな、俺はてっきりトトの中身はおじさんだと思ってたよ。ほらよくいるだろ。女の子のキャラクターを使ってさ、ご丁寧にボイスチェンジャーまで使う紳士達が」
「ひどいなー。私はこの通り、ほとんど嘘偽りない姿でゲームをしてたっていうのに」
トトはそう言った後にいつものしたり顔を見せた。
たしかにゲーム内のトトと現実のトトには似た所がいくつも見受けられた。しかし、胸を張って噓偽りなくというには現実のトトはあまりにも幼かった。顔も体も、それに伴って仕草までも幼く見える。某少年名探偵の青年時と少年時までとは言わずとも、それに近い変貌ぶりがあった。
「失礼な事考えてる?」
トトの鋭い視線と声に俺は思考を止めた。これ以上考えるのはよそう。
「私だってイヨ君の中身はもっとおじさんっぽい人だと思ってたよ。高校生ってのはイヨ君自身から聞いてたけどね」
「そっか、俺はトトに高校生って言ってたな、そういえば。でもどうして俺がおじさんっぽい奴だと思ってたんだよ」
「前に趣味の話をした時あったでしょ?」
「うん」
「その時、温泉巡りが趣味って言ってたから」
「あぁ~」
あぁ~。
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