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7話
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✳✳✳
ソフィアさんが用意してくれていたのは、クラシックで上質なベッドとソファがある、こじんまりとしたダブルの部屋だった。
大きな一面のガラス窓からはマンハッタンの美しい夜景が広がるものの、到着するなり椅子に腰を置いた隼人さんは、「さて……どこから話せばいいのやら」と早速話しをはじめた。
しかしそれは、私の予想の斜め上を行く事情で――。
「え……ソフィアさんが監視役で――おばっ、おばっ、叔母さん……?!」
驚愕の事実に、ひとまわり大きな声を上げてしまった。
「――そう。父が、こっちを拠点にすることを許す代わりに、ソフィア叔母さんを置くことを強要してきたんだ」
隼人さんの話を聞くに、ソフィアさんは母方の叔母さまだそうだ。
確か隼人さんのお母さまは、ドイツ人の亡きお祖母さまと日本人のお祖父さまの間に生まれたと、以前お会いしたときに言っていた。
結婚披露パーティーで二人が会話していたのを見かけたけれども、まさか『和』と『洋』、風貌の異なる二人が姉妹だとは思わなかった。
「――人柄は悪くないんだが、ものすごく美意識とプライドの高い人でね。仕事中は伯母さんと言うなと本気で怒るし、同年代のレディとして扱えとか難題をふっかけてくる」
ふと、クラスパーティーへ行く前にホテルの前で見たソフィアさんの強気な口調が脳裏をよぎる。
「経営知識や資格が豊富で、秘書としても有能なのは助かるんだが――過去に教師をやっていた名残りからとても厳しい……。そんなソフィア叔母さんを秘書と言う名の監視役につけて、父がたまに口を挟んでくるわけだ。
若作りしてるが、彼女は俺よりも二十も上で旦那と3人の子供がいる」
そろそろ、衝撃的な事実の連続に、開いた口が塞がらなくなってきた。
あの同世代よりも卓越したプロポーションと美しさを兼ねた人が、私より一周り以上年上……?
それに、いつも紳士的で大人な隼人さんと、監視なんていう不穏な言葉が私には結びつかない。
「監視とは、なぜ……?」
「……まぁ、それは……若い頃にちょっと色々と――」
どことなく困り顔の隼人さん。
そういえば、隼人さんのお母さまが見せてくれたアルバムに、大きなバイクに跨った華やかな装いの隼人さんの写真があったような……
まぁ、その件について、帰国したときにお母さまに聞いたほうがよさそうだ。
「おりを見て話さなければとは思ってたんだが、みなが社内の人間になった以上、安易に話せるものでもないし、俺としてもあまりカッコのつく話題でもない。話さなければと考えていたものの……あの夜名前を出されるまで、忙しさにかまかけてすっかり抜け落ちていた。
――申し訳なかったね……。そんな噂が、みなのことを苦しめているとは知らなかった」
もっと早く言ってよ。と思わないでもないけれど。
隼人さんの抱えていた事情や本心、そして伝えようとしてくれた意志が伝わり、胸の中が暖かくなる。
あの夜というのは、クラスパーティーの話を持ちかけ、ソフィアさんへの嫉妬心がこぼれてしまった日のことだろう。
こうして噂が真実でないことを受けると、なんて勘違いをしてしまったのだろうと恥ずかしくなるけれど。
良かった。ホッとした。
私の方も、首を横に振りながら、密かに抱えていた思いを隼人さんに打ち明けた。
「私――、隼人さんは出会ったときからずっと遠い存在だと思ってました……。カッコ良くて、笑顔が可愛くて、欠点なんてひとつもなくて……、なんでこんな素敵な大人の男性が、私みたいな子供と付き合ってくれたんだろうって」
カフェでブレンドコーヒーを飲む姿が様になっていて。
いつも私の考えていることが伝わっていたり。
甘やかし上手で、褒め上手で。
そして、さっきみたいに泣き喚いても、大きな包容力で包み込んでくれる隼人さん。
そんな彼が、実はお父さまから監視されていたり。
秘書のソフィアさんに振り回されていたり。
「今の話を聞いて、少しだけ身近に感じられて嬉しかったです」
「みな」
隼人さんはこちらにやってきて、両手を伸ばす。
そして、ちょっぴり切羽詰まった様子で、座った態勢のままむぎゅっと抱きしめてくれた。
「普通の男だって……言っただろう。年甲斐もなく若い奥さんに夢中で、スキあらばこうして触れていたいと思っている」
頬を包み込まれて、ふわりと額に押し当てられる唇。
心は喜びに包まれた一瞬、でもちょっぴり矛盾していることに、私はすぐさま気付いてしまった。
「なら……どうして――」
私を抱いてくれないのだろうか……?
と紡ぎきる前に、ピトッと彼の整った人差し指が私の唇に乗せられる。
「――その答えは、もう少しだけ待って欲しい。今それを口にしたら、ここで大暴れする自信があるからね。……だから、あと2日だけ」
「あと2日って……」
「2日後は、俺の世界一大切な人の誕生日だろう?」
「――んん」
反応を示す前に唇を塞がれ、なんども唇を啄まれて思考を溶かされる。
そのまま横抱きにされ、ベッドに押し倒されて、より深い口づけをふたりで愉しむ。
「だからもう少し……キスで我慢する――」
よくわからないけれど……
「なら、……私も……」
誕生日は前々から休暇を取るつもりだったらしく『一緒に過ごそうね』と言ってくれていた。
なにか素敵なことが待っているんだろうか――
胸の底に芽生えた期待を膨らませながら、覆いかぶさってきた彼の首に腕を回し、甘い触れ合いに陶酔していく。
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ソフィアさんが用意してくれていたのは、クラシックで上質なベッドとソファがある、こじんまりとしたダブルの部屋だった。
大きな一面のガラス窓からはマンハッタンの美しい夜景が広がるものの、到着するなり椅子に腰を置いた隼人さんは、「さて……どこから話せばいいのやら」と早速話しをはじめた。
しかしそれは、私の予想の斜め上を行く事情で――。
「え……ソフィアさんが監視役で――おばっ、おばっ、叔母さん……?!」
驚愕の事実に、ひとまわり大きな声を上げてしまった。
「――そう。父が、こっちを拠点にすることを許す代わりに、ソフィア叔母さんを置くことを強要してきたんだ」
隼人さんの話を聞くに、ソフィアさんは母方の叔母さまだそうだ。
確か隼人さんのお母さまは、ドイツ人の亡きお祖母さまと日本人のお祖父さまの間に生まれたと、以前お会いしたときに言っていた。
結婚披露パーティーで二人が会話していたのを見かけたけれども、まさか『和』と『洋』、風貌の異なる二人が姉妹だとは思わなかった。
「――人柄は悪くないんだが、ものすごく美意識とプライドの高い人でね。仕事中は伯母さんと言うなと本気で怒るし、同年代のレディとして扱えとか難題をふっかけてくる」
ふと、クラスパーティーへ行く前にホテルの前で見たソフィアさんの強気な口調が脳裏をよぎる。
「経営知識や資格が豊富で、秘書としても有能なのは助かるんだが――過去に教師をやっていた名残りからとても厳しい……。そんなソフィア叔母さんを秘書と言う名の監視役につけて、父がたまに口を挟んでくるわけだ。
若作りしてるが、彼女は俺よりも二十も上で旦那と3人の子供がいる」
そろそろ、衝撃的な事実の連続に、開いた口が塞がらなくなってきた。
あの同世代よりも卓越したプロポーションと美しさを兼ねた人が、私より一周り以上年上……?
それに、いつも紳士的で大人な隼人さんと、監視なんていう不穏な言葉が私には結びつかない。
「監視とは、なぜ……?」
「……まぁ、それは……若い頃にちょっと色々と――」
どことなく困り顔の隼人さん。
そういえば、隼人さんのお母さまが見せてくれたアルバムに、大きなバイクに跨った華やかな装いの隼人さんの写真があったような……
まぁ、その件について、帰国したときにお母さまに聞いたほうがよさそうだ。
「おりを見て話さなければとは思ってたんだが、みなが社内の人間になった以上、安易に話せるものでもないし、俺としてもあまりカッコのつく話題でもない。話さなければと考えていたものの……あの夜名前を出されるまで、忙しさにかまかけてすっかり抜け落ちていた。
――申し訳なかったね……。そんな噂が、みなのことを苦しめているとは知らなかった」
もっと早く言ってよ。と思わないでもないけれど。
隼人さんの抱えていた事情や本心、そして伝えようとしてくれた意志が伝わり、胸の中が暖かくなる。
あの夜というのは、クラスパーティーの話を持ちかけ、ソフィアさんへの嫉妬心がこぼれてしまった日のことだろう。
こうして噂が真実でないことを受けると、なんて勘違いをしてしまったのだろうと恥ずかしくなるけれど。
良かった。ホッとした。
私の方も、首を横に振りながら、密かに抱えていた思いを隼人さんに打ち明けた。
「私――、隼人さんは出会ったときからずっと遠い存在だと思ってました……。カッコ良くて、笑顔が可愛くて、欠点なんてひとつもなくて……、なんでこんな素敵な大人の男性が、私みたいな子供と付き合ってくれたんだろうって」
カフェでブレンドコーヒーを飲む姿が様になっていて。
いつも私の考えていることが伝わっていたり。
甘やかし上手で、褒め上手で。
そして、さっきみたいに泣き喚いても、大きな包容力で包み込んでくれる隼人さん。
そんな彼が、実はお父さまから監視されていたり。
秘書のソフィアさんに振り回されていたり。
「今の話を聞いて、少しだけ身近に感じられて嬉しかったです」
「みな」
隼人さんはこちらにやってきて、両手を伸ばす。
そして、ちょっぴり切羽詰まった様子で、座った態勢のままむぎゅっと抱きしめてくれた。
「普通の男だって……言っただろう。年甲斐もなく若い奥さんに夢中で、スキあらばこうして触れていたいと思っている」
頬を包み込まれて、ふわりと額に押し当てられる唇。
心は喜びに包まれた一瞬、でもちょっぴり矛盾していることに、私はすぐさま気付いてしまった。
「なら……どうして――」
私を抱いてくれないのだろうか……?
と紡ぎきる前に、ピトッと彼の整った人差し指が私の唇に乗せられる。
「――その答えは、もう少しだけ待って欲しい。今それを口にしたら、ここで大暴れする自信があるからね。……だから、あと2日だけ」
「あと2日って……」
「2日後は、俺の世界一大切な人の誕生日だろう?」
「――んん」
反応を示す前に唇を塞がれ、なんども唇を啄まれて思考を溶かされる。
そのまま横抱きにされ、ベッドに押し倒されて、より深い口づけをふたりで愉しむ。
「だからもう少し……キスで我慢する――」
よくわからないけれど……
「なら、……私も……」
誕生日は前々から休暇を取るつもりだったらしく『一緒に過ごそうね』と言ってくれていた。
なにか素敵なことが待っているんだろうか――
胸の底に芽生えた期待を膨らませながら、覆いかぶさってきた彼の首に腕を回し、甘い触れ合いに陶酔していく。
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