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1巻
1-3
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ふと、帰国後のことを思い出す。
お見合い……したくないな。
鮮やかに色づいた心が、黒の絵の具で塗りつぶされるような悲しい気分になる。
このまま時間が止まってしまえばいいのに。
そうこうしているうちに、花火は一層盛り上がりを見せる。もう、フィナーレの時間だ。
ちらりと腕時計に視線を落とす。時刻は午後九時を指そうとしていた。
そろそろ婚活パーティーも、ショーもお開きの時間。
そして、私たちも……サヨナラの時間だ。
痛む胸の内を見ないようにしながら、慌ててバッグの中のスマートフォンを探る。
みゆきにそろそろ連絡を入れなきゃ。
急にいなくなって心配しているであろうみゆきに、『リゾートプールに行く』とのメッセージを送る。
嘘にならないように、このあと行けばいいよね……
「――さえ」
スマートフォンをバッグにしまったとき、声が掛かる。顔を上げると、すぐるさんがなんとも言い表せない表情でこちらを見下ろしていた。
ショーはいつの間にか終わりを迎え、窓の外にはビル群が彩る人工的な夜景が広がっている。
「――はい」
胸がギュッと締め付けられて痛い。
すぐるさんの顔を見ていられずにうつむいたその瞬間、彼は私の肩に両手を置き、正面から向かい合うような形で視線を合わせてきた。
「君の結婚相手、俺ではだめかな?」
「え……?」
唐突すぎて、理解するまでに時間がかかった。
すると、すぐるさんは私の手を取り、優しく握り直すと、今度はゆっくり口にする。
「俺も今、結婚相手を探している。だから、さえ。君さえ良ければ、俺と結婚して欲しい」
こ、これは現実だろうか?
もちろん婚活パーティーに参加していたんだから、おかしくはない。ないんだけれど……。すぐるさんみたいに、誰もが憧れるような人からプロポーズされるなんて……
信じられない一方、トクトクと胸が甘く高鳴りはじめる。
そして彼は、スーツの胸ポケットからイベント用のパスケースを取り出して、私の手の上にそっと乗せた。
「黙っていて、申し訳ないが――」と添えて。
なんで謝るのだろう。言葉の深い意味を考える間もなく、挿入されていた名刺に視線を落とした瞬間、息が止まった。
【大道寺グループ リゾート&ハウジングホールディングス 取締役副社長兼ホテル事業CEO】
【大道寺優】
大道寺……? 嘘でしょう⁉
舞い上がりかけていた気持ちが、一気に冷静さを取り戻していく。
◇
「……名乗るのが遅れてしまってごめんね。プライベートで名乗ると驚かれることが多くてね。せっかく打ち解けた君が身構えてしまいそうな気がして、ためらってしまったんだ」
「――」
申し訳なさそうな姿に思わずキュンとしたけれども、『そんなことありません』とは言えなかった。
ショーが終わったこともあり、VIPルームの一角にあるリラックススペースへ移動して、彼が手配してくれた軽食を挟んで向かい合う私たち。
まさか、すぐるさんが、このグランツ・ハピネスのCEO……
それどころか大道寺グループの副社長だなんて……
経営者とは聞いていたけれども、規格外の大物だったので驚かずにはいられない。
でも、確かに言われてみればいくつか思い当たる節がある。
ホテリエさんへの対応も。ギャンブルをやらないのにカジノに出入りしていることも。
今日からはじまる花火ショーに詳しいことも……
確かに納得することばかりだが、今はそんなことを思い出している場合ではない。
「なぜ、私と結婚をしようなんて……?」
そんな引く手数多の御曹司が、私みたいな冴えない一般人にいきなりプロポーズだなんて。いくら婚活パーティーの参加者とはいえ、なにかの間違いじゃないだろうか?
おそるおそる問いかけると、彼は先ほど手配したワインを何度か傾けたあと、ゆっくりと話をはじめる。
「君は、うちのグランツ・ハピネスが百周年になることを知ってるかな?」
突然話題が変わり首を傾げつつも、とりあえず彼の目を見てこくんと頷く。
「はい、それは、もちろんです」
今年で彼のホテル、『グランツ・ハピネス』が創業百周年を迎えることは、テレビや雑誌などでも騒がれている。
記念パーティーをはじめ、無料ご招待やら記念イベントやらが行われるとか書いてあったっけ。
「その創業パーティーが二ヶ月後に行われるんだけど、それまでにどうにか相手を見つけるようにと、厳命されていてね」
ため息混じりの口ぶりから、彼がなにを言いたいのかを察した。
つまり――
「ご両親からですか……」
「あぁ」
頷いて、彼は続ける。
「創業パーティーはCEO就任以来のビッグイベントで、メディアに取り上げられることが予想される。だから、両親が『この年になっても未婚の跡継ぎなんて恥ずかしい』と山積みの釣書から早急に相手を選ぶように催促をしてくるんだ。だが……俺は、身内が介入する煩わしい結婚はしたくなくてね……ずっと逃げてきたんだが、そうはいかなくなってしまった」
相槌を打ちながら、記憶を遡る。
私の記憶だと、グランツ・ハピネスグループのCEOが代がわりしたのは三年前。
当時の大道寺グループの社長――つまりすぐるさんのお父様が、ホテル事業を優秀な息子さんに一任することにしたという決断が話題になっていた。その時の報道では、顔写真などは出ていなかったから、すぐるさんのことはわからなかったけれども。
グループ経営の要ともなるホテル事業を任されるということは、事実上のトップのようなもの。
そんな彼に舞い込む縁談のお相手なんて、とんでもない大企業のご令嬢だろう。それを簡単に袖にする彼の決断力に、驚かざるをえない。
「――そんな経緯があって、陵介が企画してくれたこのイベントに参加してみたわけだ。あまりこういうのは、得意ではないんだがね……。でも、そうしたら、君と出会えた」
「えっ……」
急に話の矛先が私に向けられて、ぴょこん! と背筋が伸びる。
そう話を締めくくると、アーモンドアイをキラキラ輝かせ、意味ありげな眼差しでじっとこちらを捉える、すぐるさん。
まるで恋人にでも向けるかのような、とろけるような甘い眼差し。無意識に胸が騒ぎ出す。
「ちょ、ちょっと待ってください……」
心の準備ができていないっ!
放置していたアイスティーをごくごく飲んで、心を落ち着かせる。いや、ちっとも落ち着かないけど、ひんやりした体が幾分か冷静にさせてくれた。
「なぜ、私なのでしょう……? 会場には私なんかよりも、沢山の綺麗な女性がいましたよね……?」
今の説明からは私である必要を感じない。縁談を逃れたいのであって、相手は誰でもいいと。
だから、そんなふうに見つめられると勘違いしてしまいそうになる。
気後れしながらどうにか口にすると、すぐるさんは大きなため息をついた。
「〝なんか〟? 君は本当に、自分のことがわかっていないんだな」
「えっ」
どういうこと……?
「素朴で純真な飾らない姿。友人を思いやる優しい心。そして、話してみるととても素直。魅力的じゃないか? ひと目見たときから惹かれていたよ」
ストレートな口説き文句に、一度鎮火したはずの胸の奥がカーッと熱くなっていく。
「さ、最初からなんて、そんなわけ……」
「――ある、じゃなきゃ……後を追わないよ」
実際、プールサイドまで追いかけてきてくれたすぐるさんを思い返し、『ない』とは言えなくなった。
「……もちろん、理由はそれだけではないが。でも一番の理由は、そんな君との時間をこれきりにしたくないと思ったことだ。誰かと結婚しなければならないのなら、君がいい。そんな君が、どうしても交際相手を必要としていたんだ――」
すぐるさんが、柔らかな笑みを浮かべながらこちらにやってきた。そして隣に座り、そっと手を包むように重ねてくる。
「――俺には運命としか思えないんだが?」
「すぐるさん……」
どうしよう。卑屈になっていたはずなのに。胸の高鳴りがとまらない。
それでもって……否応なしに思い知らされる。
すぐるさんに惹かれているって。
出会ったばかりだけれど。包み込むような優しさを持つこの人に、どうしようもなく恋をしている。
グラグラと判断が揺さぶられる。
「君のご両親が連れてくる男よりも条件がいい自信はある。誰よりも君を幸せにする自信もある。……帰国して他の男と見合いをするくらいなら、〝利害が一致〟する俺を選んでみないか?」
真摯なプロポーズを前に心がふるりと熱をもったのも束の間、思いもよらないワードが聞こえて、目をパチクリとさせる。
「利害の一致……?」
なんだか不穏な言葉。しかし、すぐるさんは不安を打ち消すように柔らかく微笑むと、重ねていた手をキュッと握ってくれた。
「君はどの道誰かと見合いをしなければならない。であれば、幸せになりたい君と、君を幸せにしたい俺。そんな俺に、賭けて見るのもありだと思うが?」
『幸せになりたいだけなのに……』
プールサイドでこぼした情けない弱音。
すぐるさんは、聞き漏らさずに拾い上げてくれていた。初対面の女の、訳のわからない身の上話。普通なら面倒だって思うはずなのに。
「もちろん、ふたりとも結婚を急いでいるというのも利害一致にはなる。でも君は幸せになりたいんだろう? なら俺はそこに付け込む。君の愛していた男ではないが、俺はその願いを叶えたいと思う」
すぐるさん……
ついに心の壁が打ち砕かれた私の目から、ポロポロと涙がこぼれはじめた。
想像を上回る彼の大きな心に、手も足も出ない。
こんなに素敵な人が私を求めてくれるの?
「――さえ」
するん、とすぐるさんの長い指先が頬を撫でて、流れる涙を幾度も拭う。ぐしゃぐしゃの顔を上げると、ソファの背に肘を置いた彼が上半身を寄せて優しげな眼差しでこちらを見下ろしていた。
「返事、聞かせてくれる? ――俺と利害一致婚してくれませんか?」
スーッと通った鼻筋に、大きな目を縁取る長い睫毛。まるで女神様みたいに綺麗な人。
おまけに内面も非の打ち所がなく、肩書もバッチリ。誰もが放っておかないだろう。
あのきらびやかな会場には、魅力的な女性が沢山いたのに。なのに、地味な外見で、性格も明るいとはいえない私にプロポーズをするなんて。
本当に私でいいの?
鼻をズビズビすすりながら、整った綺麗な顔を見つめる。
「後悔しませんか……? 私、一般人だし可愛くもないし、人前も苦手ですよ? たとえ利害が一致したからって結婚しても、数ヶ月後はどう思うのか……」
トモキはそうだった。どんどん心が遠のいて、言葉だけが上滑りしていくのがわかって苦しかった。
すぐるさんとそうなるのは、絶対に嫌だ。だったら今のうちに突き放して欲しい。
しかし、彼はふわりと笑うだけで、余裕そうな態度を崩さない。
「そんなことないさ。さえは、誰よりも綺麗だよ。なにも心配はいらない、俺だけを見ればいい」
――俺だけを。
すぐるさんはそう言い聞かせながら、指の背で涙の跡を拭い、形を確かめるように頬のラインを撫で、それから私の短い髪を耳の後ろへと流していく。
その仕草は、まるで魔法のように思えた。
中毒性が強く、一度覚えたら二度と忘れられなくなるような、優しさに満ちあふれた魅惑的な魔法。
きっと彼と出会う前の自分には、もう戻れない。そう理解していても、不思議と私の中に迷いはこれっぽっちもなかった。
出会ったばかりで、彼が本当に私に好意を抱いているとは考えにくい。
きっと、たまたま同じナンバーカードを持っていることで、愚痴を聞いてみたら、同じ悩みを抱えていた。
きっかけは、それだけだと思う。
その後どういう感情の経路で、彼がプロポーズまで至ったのかはわからない。
それでも、夢を見てもいいだろうか?
どこの誰かもわからない人とお見合いさせられるくらいなら、すぐるさんと一緒にいたい。
たとえそれが、利害一致婚でも、彼の気持ちがまだヴェールに包まれていようとも。
頬にある彼の手にそっと自らの手を重ねる。
「……ありがとうございます、お受けします」
告げた途端、その手がぐいっと引っ張られて、一瞬にして視界が真っ暗になった。
「あ……」
一瞬自分の身になにが起きているのかわからなかった。
抱きしめられていることに気づいたのは、先ほどから隣から感じていた、淡いシトラスの香りに優しく包まれたからだ。
「あぁ、良かった、ありがとう……!」
すぐるさんの腕が感極まったように背中に回り込み、ギューギューとシャツに頬を押し付けられる。
ちょっとビックリしたけれども、喜びのほうが断然大きかった。こんなに喜んでもらえるなんて。私もとても嬉しい。
すぐるさんの温かくて硬い胸板に包まれうっとりする。
「――顔見せて」
腕の力が緩んで顔を上げると、すぐるさんが愛おしむように私を見つめ、手のひらで頬を包むように触れる。
走り出す甘い予感。心臓がバクバクと暴れ出す。
「キスしてもいい?」
想像通りなのに、声が出なくなる。
だめなわけがない。でもちょっぴり後ろめたい気持ちがあるのも確かだ。出会ったばかりの王子様のような人と、こんな形で縁を結んでしまうという身の程知らずのイケナイ自分に。
恥ずかしくてだんまりを決め込んでいると、すぐるさんはふふっと口元を綻ばせ、唇の上をゆっくり親指で左右になぞる。誘うように。
「ごめん、正直言えばキスだけで終わらせるつもりはないけど」
それって……
「――俺は、君の全部が欲しいから」
その瞬間すぐるさんは艶やかに微笑み、了承を得ないまま私のうなじを引き寄せ、そのまま深く唇を重ねてきた。
「んんっ」と漏れる甘い吐息。ためらいなく舌がねじ込まれて、言葉どおり『ホシイ』キスを何度も何度も施される。
彼と交わすはじめてのキス。しだいに誘い出されるように自ら求め、流れ込んでくるワインの香りにクラクラ陶酔していく。
舌が絡みあい、奏でられる淫靡な音に、体の芯がゾクゾクと疼く。
「――さえ……」
やがて――、私の脱力した体は、いつの間にかポフンッとソファに押し倒されていた。
濡れたように輝くすぐるさんのアーモンドアイが、真上にやってきて私をじっと見下ろす。ガラリと雰囲気を変えた、色気の滲む雄の顔だ。
「……キスだけでそんな可愛い顔をするのか……。他の男しか知らないなんて耐えられないな。今すぐ上書きしたい」
予告通りの甘いおねだりに、胸の奥がキュンと甘く切なく締め付けられる。
そんなの……私も、すぐるさんに触れられたいに決まっている。彼のすべてで、心も身体も塗り替えて欲しい。
視線で了承を伝えると、彼はフッと微笑み、急いたように私の手をとり優しく抱き寄せた。
「――おいで」
そのまま VIPルームを後にして、すぐるさんの導きによって乗り込んだエレベーターは、最上階へと到達した。
このホテルに限られた数しかない最高級の客室。驚く間もなく私は、部屋の中へと引き込まれていた。
「……やっと、俺のものにできる」
そして、スイートルームにロックがかかった瞬間、一気に柔らかそうな前髪が近づき、またたく間に深く唇が奪われた。
すぐるさんは、まるで待ち詫びたような言いかたで、移動した大きなベッドに組み敷くと、甘やかなキスで口内を侵しながら性急に私の衣類をくつろげ乱していく。
「ん……っ、待って、シャワー……」
「待てない。今すぐさえが欲しい……。一度君を味わってからだ――」
指が絡まり、身体のあらゆるところに貪欲に口付けられる。耳に首筋、それから鎖骨を伝って服の上から胸元に。
「……ん」
ゾクゾクする……。すぐるさんの唇すごく熱い……
思わずピクリとのけぞると、流れるような仕草で背中のファスナーを降ろされ、ワンピースが肩から引きずり降ろされる。
そのまま露わになっていく箇所を追うようにして、さらに唇が素肌の上を這う。
「さえの肌は、白くて綺麗だな……跡をつけたくなるよ」
うっとりした声とともに、パチンとブラジャーが緩んで、こぼれた胸を大きな手が拾う。
すぐるさんは、優しく揉みしだきながら、先端に唇を寄せた。舌先がクチュクチュと擦り、もう一方の先端を指先できゅっとつまみあげる。
「ひゃっ……ぁん」
「可愛い声……たまんない」
嬉しそうに濡れた目を細め、先端への愛撫をしながら、腕に引っかかっていたブラジャーを落とし、すり合わせていた足からするするとショーツを引きずりおろしてしまう。
そして、素裸になった私を熱っぽく見おろしながら、すぐるさんも、シャツやズボンをワンピースの上に落としボクサーパンツ一枚となった。
整った顔から続く、ギリシャ神話から抜け出してきたような均整のとれた体。
下着を盛り上げる欲棒さえも、一枚の絵画のようでとっても綺麗……
思わず息をのむ。
「綺麗……」
手を、伸ばしてしまいそう……
「なに言っているんだ……綺麗なのはさえだよ」
「そんなこと……」
「あまりにも綺麗だから、もう、こんなに硬くなっているんだよ……」
すぐるさんが私の手を取り、自らの下半身へ導いた。
「あっ……」
指先に触れるソレに、ハッと息を飲む。
誰をも魅了する素敵な彼が……私と繋がりたくてこんなに体を硬くしている。
その現実に、まだ触れられてもいない体の奥がふるりと熱くなって……足の間が潤むのを感じた。
そんな私にクスッと笑ったすぐるさんは、再び覆いかぶさってきて、熱くて燃えるようなソレを私に擦りつける。
唇や舌で、胸の下、くびれ、おへそへと。吸い上げたり、ペロリとなぞったりしながら、甘い砂糖菓子でも頬張るかのように、私の情慾を煽っていく。
「俺がこんなに夢中なんだ。君はとても魅力的で、ほんとうに……食べたくなるくらい可愛いよ……」
「あ……やぁっ……んっ……」
頭のなかが痺れて、もう否定する余裕がない。なにも考えられなくなってきた。
「どこもかしこも柔らかくて、いい匂いで……すぐに食べるのがもったいないくらい」
そのまま、熱い唇がおへそからさらに下へと降りて行って――なんの前触れもなく、力の抜けた足が大きく左右に開かれる。
「ひゃっ」
突然、体の一番恥ずかしい部分を暴かれて、大きな声が出た。
濡れたアーモンドアイが、すでに熱くて潤っているソコをじっと見つめている。
やだ……暗いとはいえ、恥ずかしい。
「すぐるさんっ……だめっ」
「こーら……閉じないで……もう欲しくてあふれてる」
恥ずかしくて膝を閉じたいのに、柔らかな声と大きな手にぐいっと阻まれる。
それどころか、羞恥に震えるソコを、指先に蜜をまとわせて、くちゅりと上下にくすぐってきて……
「あ……んんっ」
見られて恥ずかしいはずなのに、あまりにも気持ち良くて、大きく腰をくねらせてしまう。
すぐるさんはそんな私にニッコリと笑いかけた。
「恥ずかしいなら、そう思えなくなるくらい……まずは溶けようか」
不穏な言葉を口にしながら、隠そうとしていたソコにつぷっと長い指を沈めた。そして、丁寧にナカをほぐしながら、まさぐりだした。
「ふぁっ……」
脳にゾクゾクと刺激が届くと同時に、私の大事なところから、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が耳に届く……
「……ぁん、すぐ、るさ……んっ……」
――っ……すごい音……
快感に震える唇が、チュッと盗まれる。
「ナカももう熱くてトロトロだ……。俺に触れられるだけで、そんなに気持ち良かったんだ……? さえは体も正直で可愛いね」
恥ずかしい確認をされて、反射的に首を横にふってしまう。
「あっ、そ、そんなぁあっ……、ひゃっ」
「恥ずかしいことじゃないから言って……?」
指先がなかでくいっと曲げられ、「ひゃん」と腰が跳ねる。
「さえのいい場所を知って、いっぱい気持ち良くしてあげたいんだ」
そう言ったすぐるさんの指が刺激を続ける一方で、蜜の在り処の上の……小さく腫れ上がった熱いソコをくるりともてあそんで――
「君は今日から、俺のものなんだから――……」
「あ、ふぁあ!」
なにこれ……
はじめての刺激に、呼吸が止まる。
そのまま小さな粒を捏ね回しながら指の動きが加速し、ヌチャヌチャと耳を塞ぎたくなるような水音が部屋に響き渡る。
あっ、あっ、と、細く息を吐きながら無意識に腰が浮きあがり、ぞくぞくする刺激が全身を伝う。
「ぁっ……だめ、おかしくなる……!」
下肢からせりあがってくる、大きな波にどんどん気が遠くなっちゃう。
すがるように腕を伸ばすと、すぐるさんが顔を近づけ舌を絡めるキスをしてくれた。
「おかしくなりなよ、君の全部が見たい……。我慢しないで気持ち良くなって……その可愛い顔を見せてごらん。そのほうが、俺も、嬉しいから」
すぐるさんは……どこまでも優しい……
優しい声に安堵しながら、ぎゅぅっと目をつむって、彼にしがみついて快楽の波に身を任せる。
やがて訪れたものに、息を止めたその瞬間。
「あああぁっ……!」
ビクンビクンッと大きな波に飲まれ全身が震えた。
激しく震える私を力強く抱きしめてくれるすぐるさん。
初体験なわけじゃないのに……こんなに余裕なく乱れて恥ずかしい。
でも、こんな刺激も、こんなに丁寧に愛されるのも……はじめてだ。
どうしようもなく、彼の手中に落ちていっている……
すぐるさんはそんな力の抜け切った不細工間違いなしの私を、何度も可愛い、可愛い……と抱きしめ、囁きながらキスを落としたあと、四角いパッケージを咥え、足の間に身体を押し入れてきた。
太腿をなであげられると同時に、まだ脈を打つ内腿を左右に開かれる。
「あっ……」
「まだバテちゃだめだよ……俺のことも、気持ち良くしてね」
パチンと音がしたあと濡れそぼった入口に、クチュリと大きな灼熱を押し当てられた。
次の瞬間、溶かされた身体が、ぐちゅ、ぐちゅん……! と大きく押し開かれた。
お見合い……したくないな。
鮮やかに色づいた心が、黒の絵の具で塗りつぶされるような悲しい気分になる。
このまま時間が止まってしまえばいいのに。
そうこうしているうちに、花火は一層盛り上がりを見せる。もう、フィナーレの時間だ。
ちらりと腕時計に視線を落とす。時刻は午後九時を指そうとしていた。
そろそろ婚活パーティーも、ショーもお開きの時間。
そして、私たちも……サヨナラの時間だ。
痛む胸の内を見ないようにしながら、慌ててバッグの中のスマートフォンを探る。
みゆきにそろそろ連絡を入れなきゃ。
急にいなくなって心配しているであろうみゆきに、『リゾートプールに行く』とのメッセージを送る。
嘘にならないように、このあと行けばいいよね……
「――さえ」
スマートフォンをバッグにしまったとき、声が掛かる。顔を上げると、すぐるさんがなんとも言い表せない表情でこちらを見下ろしていた。
ショーはいつの間にか終わりを迎え、窓の外にはビル群が彩る人工的な夜景が広がっている。
「――はい」
胸がギュッと締め付けられて痛い。
すぐるさんの顔を見ていられずにうつむいたその瞬間、彼は私の肩に両手を置き、正面から向かい合うような形で視線を合わせてきた。
「君の結婚相手、俺ではだめかな?」
「え……?」
唐突すぎて、理解するまでに時間がかかった。
すると、すぐるさんは私の手を取り、優しく握り直すと、今度はゆっくり口にする。
「俺も今、結婚相手を探している。だから、さえ。君さえ良ければ、俺と結婚して欲しい」
こ、これは現実だろうか?
もちろん婚活パーティーに参加していたんだから、おかしくはない。ないんだけれど……。すぐるさんみたいに、誰もが憧れるような人からプロポーズされるなんて……
信じられない一方、トクトクと胸が甘く高鳴りはじめる。
そして彼は、スーツの胸ポケットからイベント用のパスケースを取り出して、私の手の上にそっと乗せた。
「黙っていて、申し訳ないが――」と添えて。
なんで謝るのだろう。言葉の深い意味を考える間もなく、挿入されていた名刺に視線を落とした瞬間、息が止まった。
【大道寺グループ リゾート&ハウジングホールディングス 取締役副社長兼ホテル事業CEO】
【大道寺優】
大道寺……? 嘘でしょう⁉
舞い上がりかけていた気持ちが、一気に冷静さを取り戻していく。
◇
「……名乗るのが遅れてしまってごめんね。プライベートで名乗ると驚かれることが多くてね。せっかく打ち解けた君が身構えてしまいそうな気がして、ためらってしまったんだ」
「――」
申し訳なさそうな姿に思わずキュンとしたけれども、『そんなことありません』とは言えなかった。
ショーが終わったこともあり、VIPルームの一角にあるリラックススペースへ移動して、彼が手配してくれた軽食を挟んで向かい合う私たち。
まさか、すぐるさんが、このグランツ・ハピネスのCEO……
それどころか大道寺グループの副社長だなんて……
経営者とは聞いていたけれども、規格外の大物だったので驚かずにはいられない。
でも、確かに言われてみればいくつか思い当たる節がある。
ホテリエさんへの対応も。ギャンブルをやらないのにカジノに出入りしていることも。
今日からはじまる花火ショーに詳しいことも……
確かに納得することばかりだが、今はそんなことを思い出している場合ではない。
「なぜ、私と結婚をしようなんて……?」
そんな引く手数多の御曹司が、私みたいな冴えない一般人にいきなりプロポーズだなんて。いくら婚活パーティーの参加者とはいえ、なにかの間違いじゃないだろうか?
おそるおそる問いかけると、彼は先ほど手配したワインを何度か傾けたあと、ゆっくりと話をはじめる。
「君は、うちのグランツ・ハピネスが百周年になることを知ってるかな?」
突然話題が変わり首を傾げつつも、とりあえず彼の目を見てこくんと頷く。
「はい、それは、もちろんです」
今年で彼のホテル、『グランツ・ハピネス』が創業百周年を迎えることは、テレビや雑誌などでも騒がれている。
記念パーティーをはじめ、無料ご招待やら記念イベントやらが行われるとか書いてあったっけ。
「その創業パーティーが二ヶ月後に行われるんだけど、それまでにどうにか相手を見つけるようにと、厳命されていてね」
ため息混じりの口ぶりから、彼がなにを言いたいのかを察した。
つまり――
「ご両親からですか……」
「あぁ」
頷いて、彼は続ける。
「創業パーティーはCEO就任以来のビッグイベントで、メディアに取り上げられることが予想される。だから、両親が『この年になっても未婚の跡継ぎなんて恥ずかしい』と山積みの釣書から早急に相手を選ぶように催促をしてくるんだ。だが……俺は、身内が介入する煩わしい結婚はしたくなくてね……ずっと逃げてきたんだが、そうはいかなくなってしまった」
相槌を打ちながら、記憶を遡る。
私の記憶だと、グランツ・ハピネスグループのCEOが代がわりしたのは三年前。
当時の大道寺グループの社長――つまりすぐるさんのお父様が、ホテル事業を優秀な息子さんに一任することにしたという決断が話題になっていた。その時の報道では、顔写真などは出ていなかったから、すぐるさんのことはわからなかったけれども。
グループ経営の要ともなるホテル事業を任されるということは、事実上のトップのようなもの。
そんな彼に舞い込む縁談のお相手なんて、とんでもない大企業のご令嬢だろう。それを簡単に袖にする彼の決断力に、驚かざるをえない。
「――そんな経緯があって、陵介が企画してくれたこのイベントに参加してみたわけだ。あまりこういうのは、得意ではないんだがね……。でも、そうしたら、君と出会えた」
「えっ……」
急に話の矛先が私に向けられて、ぴょこん! と背筋が伸びる。
そう話を締めくくると、アーモンドアイをキラキラ輝かせ、意味ありげな眼差しでじっとこちらを捉える、すぐるさん。
まるで恋人にでも向けるかのような、とろけるような甘い眼差し。無意識に胸が騒ぎ出す。
「ちょ、ちょっと待ってください……」
心の準備ができていないっ!
放置していたアイスティーをごくごく飲んで、心を落ち着かせる。いや、ちっとも落ち着かないけど、ひんやりした体が幾分か冷静にさせてくれた。
「なぜ、私なのでしょう……? 会場には私なんかよりも、沢山の綺麗な女性がいましたよね……?」
今の説明からは私である必要を感じない。縁談を逃れたいのであって、相手は誰でもいいと。
だから、そんなふうに見つめられると勘違いしてしまいそうになる。
気後れしながらどうにか口にすると、すぐるさんは大きなため息をついた。
「〝なんか〟? 君は本当に、自分のことがわかっていないんだな」
「えっ」
どういうこと……?
「素朴で純真な飾らない姿。友人を思いやる優しい心。そして、話してみるととても素直。魅力的じゃないか? ひと目見たときから惹かれていたよ」
ストレートな口説き文句に、一度鎮火したはずの胸の奥がカーッと熱くなっていく。
「さ、最初からなんて、そんなわけ……」
「――ある、じゃなきゃ……後を追わないよ」
実際、プールサイドまで追いかけてきてくれたすぐるさんを思い返し、『ない』とは言えなくなった。
「……もちろん、理由はそれだけではないが。でも一番の理由は、そんな君との時間をこれきりにしたくないと思ったことだ。誰かと結婚しなければならないのなら、君がいい。そんな君が、どうしても交際相手を必要としていたんだ――」
すぐるさんが、柔らかな笑みを浮かべながらこちらにやってきた。そして隣に座り、そっと手を包むように重ねてくる。
「――俺には運命としか思えないんだが?」
「すぐるさん……」
どうしよう。卑屈になっていたはずなのに。胸の高鳴りがとまらない。
それでもって……否応なしに思い知らされる。
すぐるさんに惹かれているって。
出会ったばかりだけれど。包み込むような優しさを持つこの人に、どうしようもなく恋をしている。
グラグラと判断が揺さぶられる。
「君のご両親が連れてくる男よりも条件がいい自信はある。誰よりも君を幸せにする自信もある。……帰国して他の男と見合いをするくらいなら、〝利害が一致〟する俺を選んでみないか?」
真摯なプロポーズを前に心がふるりと熱をもったのも束の間、思いもよらないワードが聞こえて、目をパチクリとさせる。
「利害の一致……?」
なんだか不穏な言葉。しかし、すぐるさんは不安を打ち消すように柔らかく微笑むと、重ねていた手をキュッと握ってくれた。
「君はどの道誰かと見合いをしなければならない。であれば、幸せになりたい君と、君を幸せにしたい俺。そんな俺に、賭けて見るのもありだと思うが?」
『幸せになりたいだけなのに……』
プールサイドでこぼした情けない弱音。
すぐるさんは、聞き漏らさずに拾い上げてくれていた。初対面の女の、訳のわからない身の上話。普通なら面倒だって思うはずなのに。
「もちろん、ふたりとも結婚を急いでいるというのも利害一致にはなる。でも君は幸せになりたいんだろう? なら俺はそこに付け込む。君の愛していた男ではないが、俺はその願いを叶えたいと思う」
すぐるさん……
ついに心の壁が打ち砕かれた私の目から、ポロポロと涙がこぼれはじめた。
想像を上回る彼の大きな心に、手も足も出ない。
こんなに素敵な人が私を求めてくれるの?
「――さえ」
するん、とすぐるさんの長い指先が頬を撫でて、流れる涙を幾度も拭う。ぐしゃぐしゃの顔を上げると、ソファの背に肘を置いた彼が上半身を寄せて優しげな眼差しでこちらを見下ろしていた。
「返事、聞かせてくれる? ――俺と利害一致婚してくれませんか?」
スーッと通った鼻筋に、大きな目を縁取る長い睫毛。まるで女神様みたいに綺麗な人。
おまけに内面も非の打ち所がなく、肩書もバッチリ。誰もが放っておかないだろう。
あのきらびやかな会場には、魅力的な女性が沢山いたのに。なのに、地味な外見で、性格も明るいとはいえない私にプロポーズをするなんて。
本当に私でいいの?
鼻をズビズビすすりながら、整った綺麗な顔を見つめる。
「後悔しませんか……? 私、一般人だし可愛くもないし、人前も苦手ですよ? たとえ利害が一致したからって結婚しても、数ヶ月後はどう思うのか……」
トモキはそうだった。どんどん心が遠のいて、言葉だけが上滑りしていくのがわかって苦しかった。
すぐるさんとそうなるのは、絶対に嫌だ。だったら今のうちに突き放して欲しい。
しかし、彼はふわりと笑うだけで、余裕そうな態度を崩さない。
「そんなことないさ。さえは、誰よりも綺麗だよ。なにも心配はいらない、俺だけを見ればいい」
――俺だけを。
すぐるさんはそう言い聞かせながら、指の背で涙の跡を拭い、形を確かめるように頬のラインを撫で、それから私の短い髪を耳の後ろへと流していく。
その仕草は、まるで魔法のように思えた。
中毒性が強く、一度覚えたら二度と忘れられなくなるような、優しさに満ちあふれた魅惑的な魔法。
きっと彼と出会う前の自分には、もう戻れない。そう理解していても、不思議と私の中に迷いはこれっぽっちもなかった。
出会ったばかりで、彼が本当に私に好意を抱いているとは考えにくい。
きっと、たまたま同じナンバーカードを持っていることで、愚痴を聞いてみたら、同じ悩みを抱えていた。
きっかけは、それだけだと思う。
その後どういう感情の経路で、彼がプロポーズまで至ったのかはわからない。
それでも、夢を見てもいいだろうか?
どこの誰かもわからない人とお見合いさせられるくらいなら、すぐるさんと一緒にいたい。
たとえそれが、利害一致婚でも、彼の気持ちがまだヴェールに包まれていようとも。
頬にある彼の手にそっと自らの手を重ねる。
「……ありがとうございます、お受けします」
告げた途端、その手がぐいっと引っ張られて、一瞬にして視界が真っ暗になった。
「あ……」
一瞬自分の身になにが起きているのかわからなかった。
抱きしめられていることに気づいたのは、先ほどから隣から感じていた、淡いシトラスの香りに優しく包まれたからだ。
「あぁ、良かった、ありがとう……!」
すぐるさんの腕が感極まったように背中に回り込み、ギューギューとシャツに頬を押し付けられる。
ちょっとビックリしたけれども、喜びのほうが断然大きかった。こんなに喜んでもらえるなんて。私もとても嬉しい。
すぐるさんの温かくて硬い胸板に包まれうっとりする。
「――顔見せて」
腕の力が緩んで顔を上げると、すぐるさんが愛おしむように私を見つめ、手のひらで頬を包むように触れる。
走り出す甘い予感。心臓がバクバクと暴れ出す。
「キスしてもいい?」
想像通りなのに、声が出なくなる。
だめなわけがない。でもちょっぴり後ろめたい気持ちがあるのも確かだ。出会ったばかりの王子様のような人と、こんな形で縁を結んでしまうという身の程知らずのイケナイ自分に。
恥ずかしくてだんまりを決め込んでいると、すぐるさんはふふっと口元を綻ばせ、唇の上をゆっくり親指で左右になぞる。誘うように。
「ごめん、正直言えばキスだけで終わらせるつもりはないけど」
それって……
「――俺は、君の全部が欲しいから」
その瞬間すぐるさんは艶やかに微笑み、了承を得ないまま私のうなじを引き寄せ、そのまま深く唇を重ねてきた。
「んんっ」と漏れる甘い吐息。ためらいなく舌がねじ込まれて、言葉どおり『ホシイ』キスを何度も何度も施される。
彼と交わすはじめてのキス。しだいに誘い出されるように自ら求め、流れ込んでくるワインの香りにクラクラ陶酔していく。
舌が絡みあい、奏でられる淫靡な音に、体の芯がゾクゾクと疼く。
「――さえ……」
やがて――、私の脱力した体は、いつの間にかポフンッとソファに押し倒されていた。
濡れたように輝くすぐるさんのアーモンドアイが、真上にやってきて私をじっと見下ろす。ガラリと雰囲気を変えた、色気の滲む雄の顔だ。
「……キスだけでそんな可愛い顔をするのか……。他の男しか知らないなんて耐えられないな。今すぐ上書きしたい」
予告通りの甘いおねだりに、胸の奥がキュンと甘く切なく締め付けられる。
そんなの……私も、すぐるさんに触れられたいに決まっている。彼のすべてで、心も身体も塗り替えて欲しい。
視線で了承を伝えると、彼はフッと微笑み、急いたように私の手をとり優しく抱き寄せた。
「――おいで」
そのまま VIPルームを後にして、すぐるさんの導きによって乗り込んだエレベーターは、最上階へと到達した。
このホテルに限られた数しかない最高級の客室。驚く間もなく私は、部屋の中へと引き込まれていた。
「……やっと、俺のものにできる」
そして、スイートルームにロックがかかった瞬間、一気に柔らかそうな前髪が近づき、またたく間に深く唇が奪われた。
すぐるさんは、まるで待ち詫びたような言いかたで、移動した大きなベッドに組み敷くと、甘やかなキスで口内を侵しながら性急に私の衣類をくつろげ乱していく。
「ん……っ、待って、シャワー……」
「待てない。今すぐさえが欲しい……。一度君を味わってからだ――」
指が絡まり、身体のあらゆるところに貪欲に口付けられる。耳に首筋、それから鎖骨を伝って服の上から胸元に。
「……ん」
ゾクゾクする……。すぐるさんの唇すごく熱い……
思わずピクリとのけぞると、流れるような仕草で背中のファスナーを降ろされ、ワンピースが肩から引きずり降ろされる。
そのまま露わになっていく箇所を追うようにして、さらに唇が素肌の上を這う。
「さえの肌は、白くて綺麗だな……跡をつけたくなるよ」
うっとりした声とともに、パチンとブラジャーが緩んで、こぼれた胸を大きな手が拾う。
すぐるさんは、優しく揉みしだきながら、先端に唇を寄せた。舌先がクチュクチュと擦り、もう一方の先端を指先できゅっとつまみあげる。
「ひゃっ……ぁん」
「可愛い声……たまんない」
嬉しそうに濡れた目を細め、先端への愛撫をしながら、腕に引っかかっていたブラジャーを落とし、すり合わせていた足からするするとショーツを引きずりおろしてしまう。
そして、素裸になった私を熱っぽく見おろしながら、すぐるさんも、シャツやズボンをワンピースの上に落としボクサーパンツ一枚となった。
整った顔から続く、ギリシャ神話から抜け出してきたような均整のとれた体。
下着を盛り上げる欲棒さえも、一枚の絵画のようでとっても綺麗……
思わず息をのむ。
「綺麗……」
手を、伸ばしてしまいそう……
「なに言っているんだ……綺麗なのはさえだよ」
「そんなこと……」
「あまりにも綺麗だから、もう、こんなに硬くなっているんだよ……」
すぐるさんが私の手を取り、自らの下半身へ導いた。
「あっ……」
指先に触れるソレに、ハッと息を飲む。
誰をも魅了する素敵な彼が……私と繋がりたくてこんなに体を硬くしている。
その現実に、まだ触れられてもいない体の奥がふるりと熱くなって……足の間が潤むのを感じた。
そんな私にクスッと笑ったすぐるさんは、再び覆いかぶさってきて、熱くて燃えるようなソレを私に擦りつける。
唇や舌で、胸の下、くびれ、おへそへと。吸い上げたり、ペロリとなぞったりしながら、甘い砂糖菓子でも頬張るかのように、私の情慾を煽っていく。
「俺がこんなに夢中なんだ。君はとても魅力的で、ほんとうに……食べたくなるくらい可愛いよ……」
「あ……やぁっ……んっ……」
頭のなかが痺れて、もう否定する余裕がない。なにも考えられなくなってきた。
「どこもかしこも柔らかくて、いい匂いで……すぐに食べるのがもったいないくらい」
そのまま、熱い唇がおへそからさらに下へと降りて行って――なんの前触れもなく、力の抜けた足が大きく左右に開かれる。
「ひゃっ」
突然、体の一番恥ずかしい部分を暴かれて、大きな声が出た。
濡れたアーモンドアイが、すでに熱くて潤っているソコをじっと見つめている。
やだ……暗いとはいえ、恥ずかしい。
「すぐるさんっ……だめっ」
「こーら……閉じないで……もう欲しくてあふれてる」
恥ずかしくて膝を閉じたいのに、柔らかな声と大きな手にぐいっと阻まれる。
それどころか、羞恥に震えるソコを、指先に蜜をまとわせて、くちゅりと上下にくすぐってきて……
「あ……んんっ」
見られて恥ずかしいはずなのに、あまりにも気持ち良くて、大きく腰をくねらせてしまう。
すぐるさんはそんな私にニッコリと笑いかけた。
「恥ずかしいなら、そう思えなくなるくらい……まずは溶けようか」
不穏な言葉を口にしながら、隠そうとしていたソコにつぷっと長い指を沈めた。そして、丁寧にナカをほぐしながら、まさぐりだした。
「ふぁっ……」
脳にゾクゾクと刺激が届くと同時に、私の大事なところから、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が耳に届く……
「……ぁん、すぐ、るさ……んっ……」
――っ……すごい音……
快感に震える唇が、チュッと盗まれる。
「ナカももう熱くてトロトロだ……。俺に触れられるだけで、そんなに気持ち良かったんだ……? さえは体も正直で可愛いね」
恥ずかしい確認をされて、反射的に首を横にふってしまう。
「あっ、そ、そんなぁあっ……、ひゃっ」
「恥ずかしいことじゃないから言って……?」
指先がなかでくいっと曲げられ、「ひゃん」と腰が跳ねる。
「さえのいい場所を知って、いっぱい気持ち良くしてあげたいんだ」
そう言ったすぐるさんの指が刺激を続ける一方で、蜜の在り処の上の……小さく腫れ上がった熱いソコをくるりともてあそんで――
「君は今日から、俺のものなんだから――……」
「あ、ふぁあ!」
なにこれ……
はじめての刺激に、呼吸が止まる。
そのまま小さな粒を捏ね回しながら指の動きが加速し、ヌチャヌチャと耳を塞ぎたくなるような水音が部屋に響き渡る。
あっ、あっ、と、細く息を吐きながら無意識に腰が浮きあがり、ぞくぞくする刺激が全身を伝う。
「ぁっ……だめ、おかしくなる……!」
下肢からせりあがってくる、大きな波にどんどん気が遠くなっちゃう。
すがるように腕を伸ばすと、すぐるさんが顔を近づけ舌を絡めるキスをしてくれた。
「おかしくなりなよ、君の全部が見たい……。我慢しないで気持ち良くなって……その可愛い顔を見せてごらん。そのほうが、俺も、嬉しいから」
すぐるさんは……どこまでも優しい……
優しい声に安堵しながら、ぎゅぅっと目をつむって、彼にしがみついて快楽の波に身を任せる。
やがて訪れたものに、息を止めたその瞬間。
「あああぁっ……!」
ビクンビクンッと大きな波に飲まれ全身が震えた。
激しく震える私を力強く抱きしめてくれるすぐるさん。
初体験なわけじゃないのに……こんなに余裕なく乱れて恥ずかしい。
でも、こんな刺激も、こんなに丁寧に愛されるのも……はじめてだ。
どうしようもなく、彼の手中に落ちていっている……
すぐるさんはそんな力の抜け切った不細工間違いなしの私を、何度も可愛い、可愛い……と抱きしめ、囁きながらキスを落としたあと、四角いパッケージを咥え、足の間に身体を押し入れてきた。
太腿をなであげられると同時に、まだ脈を打つ内腿を左右に開かれる。
「あっ……」
「まだバテちゃだめだよ……俺のことも、気持ち良くしてね」
パチンと音がしたあと濡れそぼった入口に、クチュリと大きな灼熱を押し当てられた。
次の瞬間、溶かされた身体が、ぐちゅ、ぐちゅん……! と大きく押し開かれた。
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