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番外編SS
さえちゃんの初恋? ③
しおりを挟む――そして、結局。
その後も優さんに異変はちっとも見えず。
なんだかんだ企業関係者も多い二人の披露宴は、企業パーティーみたいに人でごった返していて。
咲人も私たちも清さんには会えずにその日の終わりを迎えようといた――夕刻。
ここで、ちょっとした神様のイタズラがあった。
「さえちゃん」
艶のある、ゆるく優しげな声。
優さんエスコートのもとロビーでエレベーター待ちをしていた私たちが振り向くと、そこには。
あ――
「清さん、お久しぶりです」
まさか、帰り際に会うとは。
それも引き止められるなんて。
相変わらずの180センチを超える身長に、質のいいダークスーツ。長い手足に小さな顔。長めの前髪は左右に流れていて、みゆきと瓜二つな大きな猫目は吸い込まれそうだ。
そして、その腕にはまるで天使のような同じ顔の2歳くらいの女のコを抱いていた。
私の頭上から小さく息を呑む気配がしたのは気のせいだと思う。すぐるさんも笑顔で挨拶を交わしている。
「いきなり呼び止めてすまないねぇ」
挨拶を交わしたあと、彼は女のコが手にしていたハンカチを「こらこら」と言い聞かせ、私に差し出した。
「……実は咲が貸してくれたハンカチを、ずっとうちの娘が持ってたみたいでね」
「あ、そうでしたか」
聞くに、ガーデンテラスで走り回っていた娘――サキちゃんと咲がぶつかって、泣いてしまった彼女の涙を拭いたあげるのに咲が貸してあげたとか。
返しそびれていたことに気づいたのは、咲がどっかに飛んでいってからのことで。(たぶん私のところに)
それからずっと探してくれていたとか。
とはいえ、咲はこのあと仕事が入ってるって言って、式が終わる少し前に式場を離れていってしまったので――私が受け取ることに。
「わざわざありがとうございま――」
しかし、受け取ろうとしたときに、じぃっと視線を感じた。
へ?
さり気なく視線をあげると、清さんの腕の中で縮こまるサキちゃんが、今にも泣きそうに、でも遠慮がちに、丸っこいウサギのキャラの描かれた咲のタオルハンカチを、惜しそうに見つめていることに気づいた。
あぁ、なるほど。癒やし系マスコットキャラの『ウサ太』は子供にも人気のだもんなぁ。
ちなみにこのハンカチは、先月咲が、社員旅行で北海道にいったとき
『ねぇ、みてみて! 北海道vr手に入れたんだぜ!』
ってさり気なく自慢してきたハンカチ…。
代わりになるような可愛らしい小物は、結婚式なのもあって、家においてきてしまった……。
何となく優さんを見上げると、彼は肩にある手をトントンと笑顔で刻んで私の意志を尊重してくれる。
咲には悪いけれど、迷った末……そっとそのハンカチをサキちゃんの手に返すことにした。
たぶん、咲もここにいたら、同じことをしていたと思う。
「――いいえ、やっぱり、これはあげたんだと思います」
「……え? でもこれ、結構新しいよねぇ?」
「あ、でも確か、買ったのはいいけど、ウサギはちょっと恥ずかしいって言ってたような、気がします――」
そんな押し問答を繰り返したあと、申し訳無さそうなキヨさんを横目に、手を伸ばしてきたサキちゃんに「……どうぞ」と差し出すことで、彼女の満点の笑顔を見ることができた。
そのとき、ちょうど同じ年頃の男の子を抱いた、奥さんもやってきて。
「ありがとう、では、さえちゃんも、体に気をつけて」と妊娠中の私を気遣い、最後にすぐるさんとも挨拶を交わし、キヨさんは家族のもとへ戻っていった。
――ご家族みんな、とっても幸せそうだ。
何となくその後ろ姿を見届けたあと、
それから私たちは、すぐるさんの計らいで用意してくれていた客室に向かう。
咲にはあとで、謝って、同じものを取り寄せよう。
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