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【R18】afterStory happy honeymoon〜
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しおりを挟む二階建ての巨大ボートには、私たちだけではなく、他レノックス社の企業関係者を受け入れているらしい。出発までの十分ほどの間で二十名ほどが集まり、ゆったり夜のナイアガラの滝へと出発した。
千秋さんはしなやかな体躯を上品なグレーのシャツと黒のボトムに包んでいる。
私も隣に立つことを意識して、品のあるラウンドネックのトップスとハイウエイのボウタイパンツで、まとめてきた。
昼とは違ったヒンヤリした風が頬をなで上着は手放せない。
「ミア、今日はうちの祖父が、いきなり誘ったんだろう? ごめんね」
出発してすぐ、クリスがミアを気遣った。
ミアの栗色の長い髪が風になびき、清楚な白いワンピースがヒラヒラ揺れている。とても可憐で可愛らしいと思った。
「いえ……私が自分から行きたいって言ったの」
「キミは優しいんだね」
戸惑ったミアの頬が目に見えてボンと赤くなったが、もちろんクリスは気づかない。
「ちょっと挨拶してくるね。現地までは少し時間かかるから、のんびり過ごしてね」
クリスはそう私たちに言って、おじさんのところへ行ってしまった。
「――好きな人って、クリスなんだね……」
クリスの背中を見届けたあと、私はミアにこっそり声を掛けると、ミアは恥ずかしそうに、昨日のことを交えながらこれまでの心の内を明かしてくれた。
「ふふ……まさか、ふたりと再会して、こんな形でバレるとは思わなかったわ」
昨日、サービスカウンターにいってから、お付きの女性とすぐに再会できたそうだ。
今日は乗り場付近で彼女の帰りを待っているそう。
そして、クリスには六年ほど前、パーティーで初めてお互いの祖父を介して紹介された日に、恋に落ちたと教えてくれた。
その頃のクリスは、パーティー仕様で整えられていたが、まだ重たい前髪と眼鏡が印象的で、今の面影はひとつと無かったという。
でもパーティーで気分を悪くし、嘔吐してしまった高齢の女性に、優しく対応しているのが心に残ったそうだ。
周囲が身を引くなから、率先して女性を介抱しゲストルームへ誘導する姿はとっても、紳士的で素敵だったとミアは嬉しそうに話してくれた。
容姿とか、経営者という肩書ではない。彼の素晴らしい人柄に惹かれていったことを熱心に教えてくれた。
だから、舞い込んだ縁談は、彼女にとってとても幸運だったそうだ。
「――でも、彼には、ずっと好きな人がいるみたいで、縁談の話しは薄れちゃって」
相槌をうちつつも、内心息を詰まらせてしまった。千秋さんが、それとなく背中に触れるのを感じた。
「好きな人がいるなら断られて同然だし、諦めなきゃと思った。でも――少し前にお祖父様が『ちょっと、LNOX社の事業を、見てきてはくれんか?』と声をかけてくれて……最後にプレゼントだけでも渡せたらと思ったの」
「気持ちを伝える勇気はないから……」と彼女は苦笑する。
彼女のショルダーバッグからはリボンのついた青の包み紙が見える。きっと昨日購入したクリスへのプレゼントだろう。
一途で素敵な恋だと思った。同行理由を笑顔で教えてくれるミアをみなから、私は彼女の切なる思いを感じて、胸が掴まれたように痛くなった。
ミアにとって、祖父同士の合作は幸運の導きだった。でも彼女はここで終わりにしてしまうのだろうか。彼女の一途な恋を応援したい気持ちがむくむく湧いてきた。彼女の手を取って、ぎゅっと握った。
「――一歩踏み出したら、世界が変わるかもしれないよ……」
ミアがそう呟いた私を見て、「え?」と目をパチクリとする。
「まだミアの気持ち、クリスは知らないんだよね?」
「それは、そうだけど……」
「伝える勇気がなくても、友達にならなれるかもしれない。これが最後じゃなくて……先に繋がることもあるんじゃないかな――」
この件に私が口を挟んではいけない立場なのは分かっている。それでも。
私は千秋さんへの片思いをずっと諦めていて、踏み出そうとしてこなかった。
でも、もう終わってしまうと思って飛び込んだ世界は、自分が思っていたものとは、正反対たったんだ。
ミアにも、ほんの少しでいい。一歩だけ踏み込んでもらいたい。巡ってきたチャンスを、逃さないでほしい。最後だなんていわずに。そこに待っている世界は、ミアが思ってるよりも、キラキラしていているかもしれないから――
「……ありがとう、サクラ。あなたはとても強いのね」
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