上 下
24 / 39
【R18】afterStory happy honeymoon〜

しおりを挟む


   ◇


 
「迷惑かけてごめんなさい。恥ずかしいのですが……あまりひとりで外を出歩いたりしないから、知らない土地ではぐれてどうしたらいいか分からなくて……とても助かります」
  
 女性をセンター内のインフォメーションカウンターまで送り届けていると、彼女は申し訳なさそうに自分のことを搔い摘んだ。
 
 思った通り……女性はよき家柄のお嬢さまでひとりでの行動には、慣れていないようだ。まだ大学を出たばかりで、歳は二十代前半だと言う。
 
「いえ、お役に立てて良かったです」
「……お二人は、ハネムーンですか?」

 察したように尋ねられて、もじもじしながら肯定する。
 
「は、はい、実は……」
「ふふっ、やっぱり。いいなぁ……」
「?」

 しみじみ聞こえて首を傾げると、女性は我に返ったように付け加える。
 
「あ……いえ、私、実は、明日会うの、ずっとお慕いしていた人で……」
 
 ――あ、なるほど。
 
「デートなんですね」

「で⁉ で、デートでもないん……です。私、ずっと見向きもされなくて……あっちからすると、不本意な結婚だから当然なんですが……それで、少しでもいい思い出になれたらいいなと思って、プレゼント探そうとして――」

 けっ、こん…? 友達じゃなくて、婚約者なの……?

 深そうな事情に困惑する。

 でも、何だかとても淋しそうな顔をしてモニョモニョしているのが気にかかってしまった。
 
 そこで、ちょうどカウンターが見えてきて、智秋さんが先に足を運び事情を話してくれた。

 無事に取り合ってくれるのを見届けた私たちは、何度も頭を下げる彼女に手を振り、ディナーへと向かった。

 ちょっと後ろ髪ひかれる思いだったけれども。

 
   ◇



「あの女性も明日、楽しめると良いんですけど……」 

 その夜のこと。
 ホテルに戻った私たちは、明日に備えて準備をしていた。明日はレノックスおじさんが、クルーズに連れて行ってくれる日だ。とてもワクワクする。

 ……でも、ふたりで仲良く準備をしていると、どうもさっきのことが気にかかってしまった。
  
「店内で困ってた、あの女性ですか……?」

 尋ねられて、こっくり頷いて胸の中にあった気持ちをおずおずと口にした。
 
「好きな人のプレゼントを探していたのに……っというかその人と結婚するかもしれないのに、とても淋しそうな顔をしているのが気にかかって」

 それは一体どういう状況なのだろうと考えた。彼女からは、ずっと一途に思っている気持ちが伝わってきたのに。それも向こうは不本意だなんて……どういう状況?
 
「…………」
「その人に会いに、異国にまで来たんです……相手のかたに気持ちが届けばいいのですが――」

 最後にそう呟くと、智秋さんが何も言わずに頭ポンと撫でてきた。
 
「智秋さん?」

 よしよしと犬でも撫でるみたいに、洗ったばかりのフワフワの髪が何度も撫でつけられる。
 
「みんながあなたのような人なら、誰も悩まない世の中になるでしょうね」
 
 穏やかな口調と優しい温もりに褒められた気がして喜びかけたけれども、なんとなく違う気がして止めた。
 
「……それって、褒められてるんですかね?」

 智秋さんが苦笑したあと「一応ね」なんて言って続ける。

「あなたは、思ったまま言葉にしたり、困難な状況でも常に前に突き進む強さを持っているでしょう。あの女性がどんな方かはわかりませんが、どことなく自信無さげで思い悩むように見えたので」

 私にそんな力があるとは思っていないけれど、確かに、さっきの女性の口ぶりは、少し後ろ向きに聞こえた。

「……道を切り開く力は、大切でしょう」

 そう答えた智秋さんを見て、胸の奥が熱くなった。
 
「そうですね……」
 
 少なくとも私は、清水の舞台から飛び降りるような覚悟で挑んだ告白があったから、今があるのだと思っている。
 あの女性がどんな状況かはわからないが、彼女の幸運を祈りたいと思った。
 なんていろんなことに思いを馳せていると、智秋さんが、ゴホン! と咳払いして空気を変える。

「まぁ……明日、色々とわかるのではないでしょうか……」
「え? 明日……?」
 
 なんのこと……? と考えてすぐに、思いあたることがひとつ。確か……
 
「そう言えば、明日のクリスとのクルーズの件って、同行者がいるんでしたよね」
 
 いると言われて、話が途中になってしまっていた。
 え? でも、〝色々わかる〟ってどういうこと……?
 
「えぇ、俺の見解ですが……もしかすると、さっきの方は――」


 ――私は、このあと大きな声をあげてビックリした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

イケメンエリート軍団の籠の中

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり 女子社員募集要項がネットを賑わした 1名の採用に300人以上が殺到する 松村舞衣(24歳) 友達につき合って応募しただけなのに 何故かその超難関を突破する 凪さん、映司さん、謙人さん、 トオルさん、ジャスティン イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々 でも、なんか、なんだか、息苦しい~~ イケメンエリート軍団の鳥かごの中に 私、飼われてしまったみたい… 「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる 他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。