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忠告15 あなたと一からはじめたい
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しおりを挟むレンズの奥の切れ長の綺麗な目が、みるみるうちに、大きく見開いた。
その表情がどんな感情なのか読めずに、慌てて弁解の言葉が口から突いて出てきた。
「えっと、何か理不尽なことがあったときにはと、思っていただけ、ですよ……? 何かの拍子に話されたり、窮地に陥れられたら、と考えていただけで……」
実際、クリスがどう出るのかわからなかっただけに、最悪の状況は想定していた。
図書館のときみたいに、智秋さんひとり責められたらたまらないから。パーティーじゃ、周囲の目だってある。
窮地に陥った時には、智秋さんを守りたいと強く思っていた。
何より――
会長なら正直に話せば、わかってくれるような気がしたし……。
「くっ……くくっ」
……だと言うのに。
慌ててあれこれ弁解していると、私の頭上から密かな笑い声が聞こえて来た。
――え?
急いで顔を上げると、智秋さんが手で顔を覆い、私から背けながら声を上げて笑っている。
「正直に謝るなんて、作戦でも何でもないでしょう……ふふっ」
こんなに笑ってるのは、婚姻届を突きつけ、偽装結婚を快諾した、あの日以来だ。
『可愛い……』と見とれつつも、今日は頬がどんどん熱くなるのを感じた。
それはそうだ。反抗心が芽生えてしまうくらいに、私たちは数ヶ月前よりも親しくなっているのだから。
「だ、だから、大したことないって言ったのに――」
「くく……っ! それも、正直にって……、実に、桜さんらしい……」
そりゃぁいつでも直球勝負の自覚はあるけれども。どんどんいたたまれない気持ちになってきた。
し、真剣に考えていたのに……。
智秋さんが言ってっていうから、言ったのにぃ……!。
「笑いすぎですよ……。恥ずかしくなるじゃないですか」
赤い顔を覆ってくるりと背を向ける。
このまま先に車内に逃げてしまおうと、一歩踏み出したとき、「ごめん、ごめん」と罪の意識を感じないほどの軽い謝罪の声。
「ちょっとまだ、話しをさせて――」
そして、同じタイミングで腕を引き止められた。
「? はなし……?」
よくわからないまま、足を止める。
振り返ると、智秋さんはひとしきり笑ったあと、先ほどトランクに乗せた大きな箱に手を伸ばした。
そこから出てきたものに、呼吸が止まってしまいそうになった。
――なんで……こんなところから……。
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