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忠告13 ようやくわかったこと
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しおりを挟む――続いて今朝のやりとりが、頭をよぎる。
『え? レセプションパーティーで、僕がまとめた研修レポートを読み上げる……?』
社長にそんなパーティーでのフリータイムの盛りたてイベントの相談されたのは、数日前だっただろうか。
『ええ、社長からフリータイムでのイベントを私の方で考えていいと言われたので、提案しました』
ずっと研究や開発に没頭していた彼は、人前に出ることがあまり好きではないとよくボヤいていた。
しかし、このイベントもまた、使いようによっては状況を好転させることが可能だと考え、そんな提案をしたのだ。
『なんで、僕が……? まさか、仕返し――?!』
『――帝国図書館で時間を持て余していたようなので、ウチのマネジメント事業に貢献してもらうのも有りかと思いましてね……期待してますよ……』
こっそり耳元でささやくと、小さく鳴いて青ざめ、しばらく頭を抱えていたクリス。
俺は少しだけ清々しい気分で仕事を進めた。
――とまぁ、話は藤森の件に戻って。
鈍感な藤森も、クリスと桜さんの会話を聞いて、何かおかしいと感じたという。
だから桜さんを呼び出し、ここで問い詰めようとしたらしい。
だが、見かけによらず彼女は頑固だ。
『引き抜きは、クリスから会食の件を聞いたLNOX側からの申し出なんです。返事の期限は、レセプションまでだと言われています』
いくら突き詰めても、彼女が口にしたのはそれだけ。明らかに乗り気ではない表情だったが、自分の気持ちを口にすることもなかった言う。
お節介焼きの困り果てた藤森は、酒の弱い桜さんに店で一番アルコール濃度の低いカクテルを勧め、標的を俺へとチェンジした模様。
「――まぁ、クリスやお前たちに何かあるのはわかったが、今はそれどころではないから口を挟むつもりはねぇ……。が、引き抜きに関しては別だ」
「――」
この男は、鈍感で単純なバカと見せかけて、たまに鋭い視点で物をいう。(もちろんズレているときもあるが)
見透かしたような眼差しがじっとり俺を窺う。
「お前はどうせ、引き抜きの件、裏で動いてるんだろう?」
そして、真っ直ぐに言い当ててきた。
少し驚いた。てっきり、どうにかしろと言われると考えていたから。
だが、なぜそんな考えに至ったかがわからない。考えていることのわからない藤森に〝はい、そうですよ〟と手の内を明かすのは気が引けた。
「どうですかね」
藤森の出方を窺いつつ、つまみへ箸を伸ばしていると、ゴトンと奴のグラスが音を立てる。
「カッコつけんな。ここ最近のお前からは、甘ったるいもんがプンプンあふれ出てんだよ。そんな奴が、國井を単身で海外へ送り出せるわけねぇだろう」
「――⁉ げほっ! ……げほっ!」
あまりにも単純な見解に、飲んでいたウーロン茶がおかしなところに入る。
慌ててハンカチで口を覆った。
俺は一体、どんな情けない顔をして仕事をしていたんだ……?
まさか藤森に腑抜けた自分を指摘されるとは、屈辱だ。
藤森は構わず自分の考えを口にする。
「俺には、國井が本社を離れたいようには思えない。何らかの事情があって、断りきれねぇようにしか見えなかった」
……プライベートの彼女は、顔に出やすいからな。
「上司としても、國井の損失はでかいし、会長も望んでねぇに決まっている。だから、お前が動いているなら――手を貸したい」
「――!」
思わぬ言葉に、目を瞬かせた。
手を……貸す……。
――そのときだった。
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